テントの中で目を覚ました 人の気配がしているのに しんと静かで わたしは起き上がって周りを見た すぐ隣にも人はいたが 声を掛けることができない テントの中は思っ…
わたしは線路の上を歩いていた どこへ行こうとしていたのかはわからない ただひとりでどこまでも 行けるところまで行こうという気持ちだった 線路の周りには霧が濃く…
わたしは独楽だ スローモーションで くるくる回る独楽だ だれが回してくれたか知らないが ともかくこうして動いている もう回転のピークは過ぎて あとは緩やかに止まるの…
ぼくはあの橋の手前で ずっと待っていた 夜の暗闇の中で 雨が降り続いていた 街灯に群がる虫と その下に広がる無数の死骸が 季節を知らせていた 例えば今ぼくが立ち去…
沈んでいく船に乗っている人々は あなたに言葉を預けようとしている その言葉を受け取る勇気が あなたにあるだろうか 船はゆっくりと沈んでいく 彼らは沈む速度より…
わたしには好きな顔がある それは目が合ってはじめて感じるものだ わたしはこの顔が好きだと だから目が合わなければ好きだとわからない ましてや会ったことがな…
テーブル 折りたたみ式の椅子 本棚 コート掛け ドア 井草のラグ ソファ 読みかけの本 こどものおもちゃ 電源の入ったパソコン 時計 閉まっているカーテン 食器…
遅くなりましたが、3月に行った詩の展示と朗読について、 簡単な記録です。 奈良市のアートハブプロジェクト「ならまちワンダリング」の一環として 大阪の梶原あけみさん…
わたしは優しくはないし いいひとでもない ただ優しくみえるように ついつい反応しているだけだ だから本当のやさしさを持った人は すぐに気づいてしまう わたしが…
自分が何をやっているのかを理解してやっている人は、 この世の中にどれくらいいるのだろう。 この物語に出てくる登場人物の多くは、 主人公家族がしていることをあまり理…
空の穴から川が流れ出ているのを見た ちょっとした丘ぐらいの高さに黒い穴が開いていて そこから下の方に水が落ちていく そして途中でカーブしながら こちらに向かって流…
詩が書けない時がしばらくあって、そんな時は 自分はどうして詩を書いているのだろうと考える。 アマチュアの自分にとっては 多くの読者がいるわけでもないし、 それで稼…
わたしはその暗い階段を 灯台の展望室を目指して上っていた 階段の表面はじっとりと湿気を帯びて 少々の水溜まりと苔で黒く光っていた 階段の壁には窓は無く 真っ暗なはず…
雨が一滴、空から降ってくる まだ上空千メートル、地上では 誰も気づいていない しばらく一滴のまま落ちてきた雨は 上空八百メートルぐらいで風にあおられて 二滴に分裂…
わたしは靴を取り出すため 目の前の下駄箱を開いた 玄関という空間は不思議なところだ およそ長い間この空間が 大きな変化を遂げたことはない 誰もがここで靴を脱ぎ ここで…
こどもたちが木の下に集まっていた 何もないところだった 生きものの姿も見えない 何の音も聞こえない ただ時々葉っぱが落ちた こどもたちは その葉っぱを手にとって…
ヨコタ佑輔
2024年9月29日 21:48
テントの中で目を覚ました人の気配がしているのにしんと静かでわたしは起き上がって周りを見たすぐ隣にも人はいたが声を掛けることができない テントの中は思っていたよりも広くてそこには大勢の人々がいたそして外から、誰かから呼ばれるたびにひとりまたひとりと外へ出ていく 誰も、一言も話さずにとうとうわたし一人だけになって最後に呼ばれる声が聞こえた 外へ出るとみんな歩
2024年9月10日 21:45
わたしは線路の上を歩いていたどこへ行こうとしていたのかはわからないただひとりでどこまでも行けるところまで行こうという気持ちだった 線路の周りには霧が濃く立ち込めていて少し先の景色も見ることが出来ないしかし怖くはなかった わたしは怖さというものは見えないことの恐怖であると同時に見ようとしない恐怖であることを知っていた全く見ることができない程の霧であったとしてもわたし
2024年7月24日 23:24
わたしは独楽だスローモーションでくるくる回る独楽だだれが回してくれたか知らないがともかくこうして動いているもう回転のピークは過ぎてあとは緩やかに止まるのを待つだけ少し傾いてくらくらと揺れていていつかは脚元から滑って転ぶだろう独楽は自分では回れないしその突端は回るたびにみるみる擦り減っていくだれかがもう一度回してくれたらいいのに上から大きな手が降りてきてわたし
2024年7月21日 23:12
ぼくはあの橋の手前でずっと待っていた夜の暗闇の中で雨が降り続いていた街灯に群がる虫とその下に広がる無数の死骸が季節を知らせていた 例えば今ぼくが立ち去った後であの人が現れたら?ぼくは一生後悔するだろうしかしこの先一生あの人が来ることがないとしたらそれはとても悲しいことだ悲しまないためには立ち去ることも必要なのかもしれない 長い時間が過ぎた時々自転車や
2024年6月26日 23:12
沈んでいく船に乗っている人々はあなたに言葉を預けようとしているその言葉を受け取る勇気があなたにあるだろうか 船はゆっくりと沈んでいく 彼らは沈む速度よりもっと早く考える何を伝えなければならないかを そして沈む速度よりもっと速くその言葉を投げる わたしたちはただ待つことしかできないのだろうか人々は口々にさよならさよならと言ってはひとりまたひとりと消えていく
2024年5月20日 22:23
わたしには好きな顔がある それは目が合ってはじめて感じるものだわたしはこの顔が好きだと だから目が合わなければ好きだとわからない ましてや会ったことがなければなおさらわからないこの顔が好きだとは言えない でも目が会えばわかるこの顔が好きだとわかる そのうち好きな顔だらけになってしまった
2024年5月17日 22:07
テーブル折りたたみ式の椅子本棚コート掛けドア井草のラグソファ読みかけの本こどものおもちゃ電源の入ったパソコン時計閉まっているカーテン食器カレンダースマートフォンコーヒーの入ったカップ世界地図スピーカー鞄つぶれた座布団スリッパ窓 そして妻 これが今わたしの傍にいる者たちです
2024年5月16日 10:48
遅くなりましたが、3月に行った詩の展示と朗読について、簡単な記録です。奈良市のアートハブプロジェクト「ならまちワンダリング」の一環として大阪の梶原あけみさんという方と一緒に、詩の展示と朗読をさせて頂きました。初めてのことでしたが、色々な方に来ていただき、短いですが大変楽しい時間を過ごすことが出来ました。朗読は2日間で5回ほど行ったのですが、奈良は観光地ですから、外国の方もた
2024年5月8日 23:17
わたしは優しくはないしいいひとでもない ただ優しくみえるようについつい反応しているだけだだから本当のやさしさを持った人はすぐに気づいてしまう わたしがニセ物だということに本当はそういう人にこそ優しくしたいのだけれど
2024年4月25日 21:50
自分が何をやっているのかを理解してやっている人は、この世の中にどれくらいいるのだろう。この物語に出てくる登場人物の多くは、主人公家族がしていることをあまり理解しようとしない。そしてそのことがもつ意味、そこにある蔑視という存在に気付かない。もちろん気づいてないということを単純に攻めることはできないが、何かの出来事の背景には、人と人の関係が、どこまでも続いているということを想像しなく
2024年4月4日 00:15
空の穴から川が流れ出ているのを見たちょっとした丘ぐらいの高さに黒い穴が開いていてそこから下の方に水が落ちていくそして途中でカーブしながらこちらに向かって流れている川はぼくの横を過ぎてそのまま見えなくなるまで真っすぐ進んでいく水をつかもうとして川に向かって腕を振り下ろすのだけれど何も当たらないまま空振りする川にはいろんなものが流れているぼくの帽子とか服とか大事な本
2024年3月30日 21:59
詩が書けない時がしばらくあって、そんな時は自分はどうして詩を書いているのだろうと考える。アマチュアの自分にとっては多くの読者がいるわけでもないし、それで稼いで家族のためになっているわけでもない。あまり実際的なことばかり考えると、詩を書かない理由の方がどんどん見つかってくる。そんな時ふと、ことばではないものに触れるとふっと考えが融解することがある。自然でも芸術でもいいのだけ
2024年3月24日 21:06
わたしはその暗い階段を灯台の展望室を目指して上っていた階段の表面はじっとりと湿気を帯びて少々の水溜まりと苔で黒く光っていた階段の壁には窓は無く真っ暗なはずの灯台の内部でそれでもわたしの目はしっかりとその階段と壁の存在を捉えていた どこまで上ってきたのかわからないいつ上りはじめたのかもわからないがまだまだ上り続けなければならないことはどこかで承知していた 時折壁に手を当て
2024年3月24日 20:59
雨が一滴、空から降ってくるまだ上空千メートル、地上では誰も気づいていない しばらく一滴のまま落ちてきた雨は上空八百メートルぐらいで風にあおられて二滴に分裂する 一滴はそのまま風に乗って横向きに移動していくもう一滴は身軽になったからまっすぐ下へ落ちていく 落ちていきながらまたあおられてまた分裂する上空五百メートル今度は二滴とも並んで同じ速度ですすんでいく 最初に
2024年3月24日 17:18
わたしは靴を取り出すため目の前の下駄箱を開いた玄関という空間は不思議なところだおよそ長い間この空間が大きな変化を遂げたことはない誰もがここで靴を脱ぎここで靴を履くのだ故に何十年も経ってから下駄箱を開くとき昔の思い出が蘇ることがある取っ手に触れて開くとき靴を取り出し土間の上に置くとき扉を閉めてそこに座り靴ひもに触るとき数々の記憶がわたしの頭に浮かんでくるそうして玄関の戸をく
2024年3月24日 17:14
こどもたちが木の下に集まっていた 何もないところだった生きものの姿も見えない何の音も聞こえないただ時々葉っぱが落ちた こどもたちはその葉っぱを手にとって眺めては足元へ放った 静かだった誰も動かなかったただそれでも少しずつこどもの数は増えていった 長い時間が経って気がつくと身動きがとれないほどにこどもたちが集まっていた そうしてそのうちにひとりのこどもが木に