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【西日本豪雨】交通対応最前線ダイアリー:7月13日-閃き〜災害時BRT発案〜

7月13日(金)

発災からちょうど1週間が経過した.
この日は午前中は家で仕事をしていた.学生のインターンシップの手続き,その月の月末に迫っていた学会の開催準備などの対応をしていた.
また,前日の午後に学校の教務(学生の成績などを扱う)の先生に,インターンシップに行けなくなった学生を,ボランティア活動への参加でインターンシップの単位として認めることができないか相談したところ,可能にするとの回答をいただいた.非常にありがたく,素敵な判断であったと思う.事前の協議で,「単位が必要という動機でボランティアに参加する学生が出てきて,本来的はないのではないか」との議論もあったが.高専や大学は千人,万人規模の学生を抱える.制度如何により,大量のボランティアの担い手を供給することができる.そして,自然災害への対応に関するボランティアに参加した学生は,必ずといっていいほど,刺激を受けて帰ってくる.実際に当時受け持っていたクラスの学生でボランティアに参加した学生が成長しているのを感じた.学校の制度がOKとなったため,インターンに行けなくなった学生にどうするか?という連絡も午前中にしていた.

午後からは広島駅に出かけた.公務員試験の面接に向けての指導を行うためであった.いい場所はなかなかなく,喫茶店で面接練習をした.といっても,こういう質問が来たらどう答えるか?というやりとりであった.3名の学生を対応したが,皆無事に公務員となっている.

そしてその後,長期のインターンシップで企業に研修に出ていた学生と,月末の学会発表資料作成の打ち合わせで,広島駅近くのオフィスに行った.
ただ,その時に「ビビっ」と来たことがあった.

この日,国道31号の通行止が解除となったことで,広島〜呉間の公共交通輸送が再開されることとなった.具体的には,通常時,広島バスセンター=呉駅及び周辺を,広島電鉄と中国JRバスが,都市間高速バス(クレアライン線)を運行している.このバスが災害により運休となっていたが,13日から運行再開となった.
ただ,大きな懸案事項があった.渋滞である.
国道31号と広島呉道路,JR呉線の3本の動脈のうち,1本しか機能していない.加えて,水尻駅のビーチのルートは,通常の道路と比べて,車を通すことのできる台数が限られている.その1本の道路に,これまで3つの動脈が担っていた車や人の流れが集中する.ひどい渋滞が起こるであろうと想像がつく.
実際にGoogle Mapで渋滞の状況をモニターしてみると,予想通り酷い渋滞が発生していた.

▼渋滞の状況(7/13 11:19 AM)

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バスの運行再開は,やはり,その日のニュースになっていた.ただし,大幅な遅れが発生していたことも匂わせる内容であった.特に気になった記述が,「バスは道路の状況によって大幅に遅れる恐れがあるということで,14日以降の運行については改めて検討する」という点である.実際,運行初日は所要時間がかかりすぎ,数本で運行が停止されてしまった.ただ,数日待ったからといって,渋滞が緩和するとは思えなかった.そして,この状況が当分の間続くのかと思うと,「早々に何かせねば」と駆られてきた.

▼バスの運行を伝えるニュース(7/13 午前に発信)

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「何とかせねば・・・」,「どういう方法があるだろうか」.
1日中混雑しており,ピークをずらすことは意味がない.他の経路を迂回するにも,その経路がない.被害を受けている.とすると,バスを早く進めるようにするしかない.ただし,やり方を間違えると大渋滞を引き起こし,被災地域の感情にも影響するので慎重な検討が必要.学校の講義で「TDM(交通需要マネジメント)」という内容を教えているが,まさにその実践の検討である.
(実際に担当する講義で,災害時の渋滞問題をTDMでどう解決するかを考えなさい,という試験問題を出したことがある.)

と,あれこれ考えていると,1つの方法が思いついた.広島呉道路の天応西ICからバスを広島呉道路に一度上げて,その後本線で向きを変えて,天応から呉方向に走らせられないか?という方法である.広島呉道路には,4箇所に6つのインターチェンジがある.うち,坂地区(坂北・坂南IC)と天応地区(天応西・天応東IC)は方向が決まっているハーフICである.この時,広島呉道路は坂地区より呉側が通行止となっていた.大規模な土砂崩落があったのは,坂〜天応間.天応から呉までも通行止になっていたが,その区間が被災していたのかどうかは情報がなかった.ただ,この区間の道路が土砂崩れで被災している可能性は低いと推測していた.この区間はトンネルと橋梁の比率が非常に高く,また,土工部(トンネルや橋以外)でも急峻な斜面にほとんど接していないためである.普段の通勤でこの経路を通っており,「おそらく大丈夫」と,確信に近いものがあった.ただし未確認であったが.
しかし,この区間が大丈夫だったとしても,呉方向へのインターチェンジである天応東インターチェンジには,国道31号からはアクセスができないだろうというのも推察がついた.7月7日のnoteに書いたが,ニュースで見た浸水状況の映像の区間を通らなかければならなかったためである.

ならば,「とにかくバスを通せばよい.この際,物理的に通れるかどうかが重要」と思い,逆方向の天応西ICを通り,展開する方法を思いついたのである.ただ,バスが方向転換できるかどうか.またまたGoogle Mapを睨めつつ,展開できそうな場所の道路の幅をチェックした.20m弱ありそうで,机上検討ではあるが,1回切り返せばいけるのではと見積もった.

▼「災害時BRT」を思いつき,幅員などを考えていたときのメモ写真

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物理的には,できそうな可能性が高い.後はどうやってこれを実現まで持っていくかである.夕方,呉市役所に電話し,当時の交通政策課長に,「いいアイデアがあるので,今から行っていいですか?」と連絡した.交通政策課長に会うのは,この日でわずか2度目であった.1度目は平成30年4月に人事異動で着任された際に,研究室に挨拶に来てくださった.その場で特に深い話はしていなかったが,非常に印象に残っていたことがあった.「先生が書かれた本を読んで,渋滞とモビリティマネジメントを興味を持って勉強しています」と,初めてお会いした時に話された.自治体の交通担当の方と初めてお会いするタイミングで,こうおっしゃった方は初めてであった.まだ,産官学の交流が比較的密な関西ではあり得るが,まさか広島でこう仰る方が居られたとは,と印象に残った.「この方,プロだわ」と.

そのため,この方だったら何とかなるかもしれない,という思いで連絡をした.ただ,非常に申し訳ないことをしてしまっていた.呉市役所についたのは,夜の10時であった.なぜそこまで遅れたのかは覚えていないのだが,広島駅近くの「開かずの踏切」を通過したのは,夜の20時29分であった.

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呉市役所に到着し,このアイデアを話をした.そうするとすぐに交通政策課長はNEXCO西日本の事務所へ電話をかけられた.夜中である.
NEXCOの反応も,初めは「??」の様子であったが,その意図をすぐに理解されたようであった.ただし,天応西ICのランプ路で土砂流出があったようだった.その電話の中で,呉市とNEXCOの役割分担が決まった.NEXCOの方でバスが通れるように土砂を急いで撤去するので,呉市の方で関係機関と調整をする,と.

それ以外に,3つ,合計4つの対策を検討していた.

ここまで1時間もかからずのやり取り.呉市役所には3時間ぐらい滞在していた.残り2時間は,ゴルフクラブとクルマの雑談をしていた.「このドライバーは曲がりにくいのでいいよ!」とお薦めを受けた.災害が落ち着いた後,実際にそのドライバーを買ってしまった.確かに曲がりにくい.

後は,「関係機関と調整」と言っても,どこに持っていくかであった.持っていくなら国土交通省の整備局だろうとは思ったが,整備局本局に持っていくか,広島国道事務所に持っていくかは少し悩んだ.(なぜ悩んだのかは,明日書くことに)
呉市役所を出る時には,交通政策課長に,「関係者の調整用資料の内容は一任してほしい」ということと,「誰に持っていくか,2つ選択肢があるので,これも一任してほしい」とお願いした.了承してくださった.今思うと,2回目にあった人間に,よくそこまで委ねてくださったと思う.

呉市役所を出て,国道31号に沿って走る呉線の様子を見ながら帰った.遮断機は外されていた.おそらく,遮断機が降りっぱなしになってしまっていて抜かれたのか,あるいは,当分使われないので,安全管理上抜かれたのかはわからない.ただその光景と,泥まみれの道路,物音しない静けさ・・何とも言えない気分であった.

▼踏切は遮断機が抜かれていた(7月14日深夜)

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坂からは広島呉道路で広島に向かった.下道でも良いのだが,とはいえ疲れていたので,早く帰ろうと.

坂本線料金所を通過し,ETC料金の表示を見ると,いつもと金額が違っていた.半額となっていた.被災地の支援として,割引が設定されたようだ.知らなかった.

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深夜2時過ぎ,自宅着.関係機関と調整するための資料のスケッチだけは,忘れないように作っておいた.翌日9時半には,国土交通省へ出向くこととした.ただ,まだこの時点でどちらに(整備局か事務所か)いくかは決めておらず,そして,資料も1つもできていない.ラフなスケッチだけであった.朝6時に起きて作れば間に合うだろうと思い,眠りについた.



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