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ミシシッピ州旗のこと

わたしは子供のころから、ずっと旗が大好きだ。旗好きが高じて、今年のはじめには、国旗の図鑑の監修もさせてもらった。そのことは、また日をあらためて書くとして、今回は、とある旗に関するニュースの話。

米国の大統領選挙は、多くの報道のとおり、大接戦になった。大接戦の大混乱のすえ、民主党のバイデン前副大統領が選ばれて、来年には政権が交代する見込み。わたしは日本に住む日本人なので、直接の関係はもちろんない。だけど、勤務先が米国の組織なので、なにかと影響がありそうで、無関心ではいられない。

その大統領選挙の11月3日には、南部ミシシッピ州で、もうひとつの投票がおこなわれていた。州旗のデザイン変更に関する投票。旗好きとしては、こちらにも大きな関心があった。

下の画像は、Mississippi Today紙の今年8月の電子記事からの引用。3000以上集まった候補から、オンライン投票でこの5つの候補に絞られた。最終的にひとつが選ばれ、11月の投票によってその可否が問われた。

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どうして今、ミシシッピ州は旗のデザインを変えるのか。

19世紀半ばのアメリカ南北戦争。奴隷制度の存続をめぐっての対立から、奴隷制を支持する南部11州が合衆国から脱退し、アメリカ連合国を結成。内戦に発展した。その連合国の海軍旗、通称「南軍旗」として知られるのが、斜めの青十字に13個の星が並んだ旗。サザンクロスとかディクシーフラッグと呼ばれている。今でも、ミリタリーショップなどで見かけることがある。英国旗のように、視覚的なインパクトがある、優れたデザインだ。

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Crampton W., 1989. Flags. Dorling Kindersley Eyewitness Guides.より、アメリカ連合国旗とミシシッピ州旗。変更前のミシシッピ州旗には、このとおり、カントン(旗竿側上部)に南軍旗があった。

旗のデザインには、その地の歴史を刻むように、モチーフとして過去の旗の一部が残されることがある。内戦の記憶をとどめるという意味もあってか、以前のミシシッピ州旗にも、この南軍旗があしらわれていた。全く同じでなくても、例えばアーカンソー州のように、南軍旗を連想させるデザインの旗もある。

奴隷制に賛成していた連合国を象徴する南軍旗は、そのまま奴隷制、つまり有色人種差別を肯定する意味になる。奴隷制はとうに廃止されていても、今も差別は残っている。旗のデザインが、人種差別を正当化する目的で解釈されるようなことがあってはならない。こうした理由から、かねてより南軍旗の入ったデザインには反発があった。

同様のケースとして、かつて南軍旗が旗のデザインに含まれていたジョージア州がある。ジョージア州は、今世紀になってから州旗を変えている。以下は、左から1975年、2002年、2019年に出版された書籍に見られるジョージア州旗(Smith 1975; Ryan 2002; Butterfield 2019による)。

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ジョージア州は2001年、リボン部分に小さく過去の旗を並べたデザインに変更したが、その中に南軍旗が見えるせいか、2003年に再び変更した。

現行のジョージア州旗には、サザンクロスの南軍旗は使われていない。しかし、興味深いことに、アメリカ連合国旗にそっくりだ(サザンクロスはあくまで海軍旗)。サザンクロスの南軍旗ほどの抵抗感がないのだとしたら、星条旗に似ているのが理由かもしれないし、単にサザンクロスの方が、南北戦争の象徴と認識されているだけかもしれない。

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Smith W., 1975, Flags through the ages and across the world.より、南北戦争勃発時に掲げられた連合国旗。星条旗の細い縞(stripe)ではなく桟(bar)ということで、スターズ・アンド・バーズと呼ばれていた。

ちなみに州よりも小さな自治体レベルでも、同様の変化があったようだ。例えば、1993年に旗を変更したヴァージニア州リッチモンド市。ここの旧旗は、表と裏でデザインが異なるものだったが、裏面に南軍旗がデザインされていた。以下は2003年の北米旗章学協会のRAVEN特別号『American City Flags』より。

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話をミシシッピ州に戻す。かねてから南軍旗をあしらったデザインに対する抵抗があったものの、州旗変更の話が動いたのは、今年5月のジョージ・フロイド氏の死亡事件に続くBLM (Black Lives Matter)運動以降。事件の1ヶ月後には、投票による州旗の変更の可能性について報道されている。新型コロナ感染症の混乱も続く中、11月の大統領選挙に合わせた投票が実現したのだから、驚くべきスピード感だ。

その投票の結果は、以下に引用するDaily Journalの報道のとおり。中央の、マグノリアというモクレンのなかまの花が目立つ旗。マグノリアの花の真上にある星は、五つの菱形が組み合わされてできている。菱形は、先住民のチョクトー・インディアンの人々が、日用品に入れているデザイン。ガラガラヘビの模様に由来する形だという。単に南軍旗をとりのぞくだけでなく、先住民への敬意と配慮も感じられる、よく考えられた旗だと思う。

旗マニアとしては、この旗を見たとき、アメリカの隣国カナダの自治体の旗みたいだという印象をもった。有名なカナダ国旗は縦三分割の中央にカエデのデザイン。そのカナダの地方自治体旗にも、同様に植物モチーフを配置する例が多い。また、先住民族にまつわる意匠を使うものも多い。米国の、しかも遠く離れた南部のミシシッピ州が、隣国とはいえカナダの地方旗のスタイルを参考にするとは思えない。これからの旗デザインの流れを考えると、興味深い共通点だと思う。

地方旗の変更は、派手な大統領選挙の報道にくらべれば、とてもとても地味なニュースだ。けれど、今の時代を反映し、また、希望も感じられるニュースだと思う。大きなニュースの影に紛れてしまっては残念なので、微力ながら、ここに記録しておきたい。

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