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国際宝飾展をちょっとだけのぞいてきた。

国際宝飾展(通称IJT)は、毎年1月、東京ビッグサイトで行われている、大規模なジュエリーショー。

私が今の仕事を始めてから、ほぼ毎年、勤務先はIJTに出展している。一時期はオンサイトでの鑑別もやっていたのだけど、ここ数年は、いろいろな事情により、インテイクのみだったり、宣伝だけだったりする。オンサイト鑑別では、連日狭いブースの裏側に隠れての仕事で、普段とは勝手が違って大変なことばかりだった。けれども、高度な分析機器に頼る前に鑑別するのは良い勉強になるし、その非日常性が楽しかった。また、仕事の合間をぬって、他のブースを見物に行ったりするのも楽しかった。

ここ何年かは、出展ブースが減り続けていたものの、国内・海外のディーラーから最新情報を教えてもらったり、海外の鑑別機関や教育機関の関係者と交流できる、とても貴重な機会だった。

昨年は、オリンピック準備の関係から、東会場から西会場に移った。面積は減ったけれども、特にルース(裸石)エリアは大盛況で、休憩時間に観てまわろうとしても、なかなか進めないような状態だった。時期的には、武漢での新型肺炎が報道され始めたころ。直後のタイミングの米国アリゾナ州でのトゥーソン・ショーは、ぎりぎり開催されたけれど、その後のラスベガス、香港、バーゼルなどの、世界のおもだったジュエリーショーは、ことごとくパンデミックの影響でキャンセルになってしまった。

そして今年。規模がさらに半分に制限され、会場はビッグサイト(国際展示場)から少し離れた青海展示棟。直前に、二度目の緊急事態宣言が出て、開催されるのかどうかすら危ぶまれたけれど、予定どおり開催された。

今回、わたしは担当から外れていたので、平日の会場には赴いていない。最終日の土曜日に、個人的に、数時間だけ足を運ぶことにした。いつもの出展社バッジではなく、来客としての入場者バッジを首からさげるのは、なんだかちょっと気楽だ。

余談だけど、受付では、名刺から判断して、小売商とか卸商とかデザイナーとか、何種類かのバッジがわたされる。わたしのような鑑別機関は、典型的な該当項目がないので、毎回困ることになるようだ。個人で来場する同僚や友人は、それぞれバイヤーになったりクリエイターになったり、どうやってなのかVIPになったりしていた。今回、わたしは”宝飾品に関心がある方”だった。まぁ、間違ってはいない。

小規模な青海展示棟。かなり広くとられたブース間の空間。通路と呼ぶより、広場に近い。外国人の渡航が制限されている今、当然のことながら、海外招待客の姿はない。展示会のガイドブックも、いつもあった背表紙がない。見知った業者さんたちに挨拶しようと、出展リストをたよりにブースに出向く。そこで、目にする「出展とりやめ」の張り紙の数々。いつもすれ違えば必ず声をかけてくださっていた方々と会うことも、ほとんどなかった。現実は厳しい。

どうしてもネガティブな印象ばかり書いてしまうけど、何もかもが悪いわけではない。展示ケースに並ぶ製品のクオリティを見ていたら、良いものは確実にあるし、そうしたものは価格設定も強気だ。出展社の内容や方法には、新しい技術を使ってインパクトある演出をしているところもあれば、ソーシャルメディアと連動させているところもある。展示会のガイドブックにある市場動向によれば、昨年の反動でポジティブな予想をしているけど、きっと従来の分析方法では見通しきれない何かがある。

詳しくは書けないのだけど、最近わたしが担当した某ジュエリーブランドの企業研修でも、セールス側からの質問内容に、業界の変化の兆しを感じた。わたしはジュエリー業界では、製品の流通や販売とは直接の関係はない、鑑別という特殊な立場だ。とくに質の高いジュエリーには、質の高い鑑別と、それを裏付ける研究で、宝飾文化を支えられたら最高だと思う。かつて世界恐慌後に素晴らしい宝飾文化が発展したように、ポストコロナに新たな進化が訪れるかもしれない。なんて期待をしつつ、いつもと違うIJTのネガティブとポジティブ両方の側面を眺めた。

今回、帰り際に立ち寄った真珠店のブースで、最後のひとつになっていたピンを買った。アコヤ真珠に二匹の猫をあしらったもの。なかなかかわいい。我が家で飼っている二匹の猫にも通じるデザイン。残り物には福がある。アコヤ真珠のイヤリングとあわせて、妻へのお土産にした。



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