旋盤加工の奥深さにハマる

旋盤の仕事は初めから出来ました。
こう書くと職人から怒られそうですが、旋盤加工が簡単とかそういう意味ではなく、今まで経験してきたどの仕事より、自分に合っていたということです。

なかなか旋盤を触らせてもらえなかった間に切削加工に関するいくつかの書籍を購入して読んでいたため、手取り足取り教えてくれない職人が話す事もなんとか理解できましたし、何より旋盤のハンドルを握り金属を削ることが楽しかったんです。

旋盤加工で使用する工具は多岐に渡り、用途も形もバラバラで、目の前の図面を読み取り必要な工具を選ぶ。工作物をどうやって掴むか考えて、どこから加工するか決める。
初めからそんなことが出来たわけでは無く、職人が段取りするのを必死で見てメモして、職人が加工した初品と同じ手順で自分でやってみる。

違うと怒鳴られ、正しかったらそっけない。
そんな教わり方も苦痛と思いませんでした。1日でも早くマスターして、全てを1人で出来るようになりたい。

バイトという金属を削る工具は、いまでこそ刃先交換式の工具が主流となっていますが、私の勤めた町工場では、まだまだ研いで刃先を成形する昔ながらの工具も現役でした。

上手く研げば工具が長持ちし、加工品質も安定する。下手くそな工具で加工すれば何度も研ぎ直さなければならない上に、加工精度も悪い。
自分で研いだバイトで上手く削る事が出来た時の感動は忘れられません。

市販の工具では加工出来ない形状の時は、自分で工具を作ることもあります。
こんな時、職人はバイトをこしらえなアカン。と言って工具形状を考え、刃先をロウ付けして自作した工具を研ぎ出して加工します。

早く自分も自作のバイトを作ってみたい。
工具ひとつとっても、旋盤加工の奥深さは私の想像をはるかに上回っていました。

いい加工をしているかどうかは、キリコを見れば分かる。

これも加工業界では有名な話です。
加工したモノを見なくても、加工条件やチャッキングによってキリコの出方が違うのです。
多岐にわたる材料と部品形状。それらに合わせた加工を行う必要があり、職人たちは経験からキリコを見れば、加工しているのが素人か玄人か判断できるのです。

他にも、普通にクランプしては変形してしまうような肉厚が薄い部品や複雑な形状、中心からズレた位置を加工する時などは、治具と呼ばれる、その部品を加工するために特別に用意された工具を用いてワークをクランプします。
そして、その特別な工具も自作するのです。

治具を作れたら一人前、ネジが切れたら一人前、バイトをこしらえられたら一人前。

色んな一人前があり、どれが欠けても半人前。
私は旋盤工の魅力にどんどんハマっていきました。
初めは上手く出来なかった作業も、どんどん出来るようになり、一人前の階段を歩み始めました。
そして入社して5年が経過したころ、なんちゃって一人前ぐらいにはなれたぐらいの時に転機が訪れます。

定年により退職する職人が切り盛りしていた、NC旋盤の部門へ移動することになったのです。

これはハタチの時に抱いた夢を叶えようと動き始めた40歳の物語。

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