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あやまちの恋

都心のオフィス街に位置する中堅企業「アストラコーポレーション」。ビルの高層階にあるオフィスからは、忙しげに行き交う人々や車が小さな点のように見える。その一角にあるオフィスでは、34歳の経理担当、あやみが今日もデスクに向かっていた。

あやみは2歳の娘を持つ母親で、家庭内では夫との関係が冷え切り、ワンオペ育児に苦しんでいた。会社では経理とEC部門を担当し、日々の業務に追われていたが、それ以上に上司や同僚からの嫌がらせが彼女を悩ませていた。

新たに営業部に配属された41歳のゆうじ。彼はバツイチで育児経験もあり、製造部から店舗販売、そして営業に異動してきたばかりだった。ゆうじは新しい環境に慣れるのに精一杯だったが、ある日、あやみから突然メッセージが届いた。

「こんにちは、ゆうじさん。少しお話したいことがあるのですが…」

最初は仕事の相談かと思っていたゆうじだったが、メッセージの内容が徐々にプライベートな話題に移っていく。彼女の苦しい胸の内が伝わってくるメッセージに、ゆうじは次第に心を開くようになった。そして、あやみが会社の若い製造部長、加山と親しくしているのではないかとぼんやりと感じていたが、それが本当に恋愛関係にあるのかは確信が持てなかった。

日を追うごとにメッセージのやり取りは増えていき、やがてゆうじはあやみから食事に誘われるようになる。メッセージや会う機会が増えるにつれ、二人の距離は縮まっていった。

ある夜、あやみは「加山とは何もない」と言い切り、むしろ家庭内の問題とワンオペ育児に悩んでいることを打ち明けた。

あやみとゆうじの関係は徐々に深まっていった。二人は隠れるようにして会社の外で会い、あやみの家庭の問題や仕事のストレスについて語り合った。ゆうじは彼女の話を親身に聞き、アドバイスや慰めの言葉をかけることで、あやみの心の支えとなっていた。

やがて、あやみは夫との離婚を本気で考えるようになった。彼女の決意は固く、ゆうじにその気持ちを打ち明けた。ゆうじもまた、あやみに対する想いが強まり、付き合っていた彼女と別れることを決意した。

一年が経ち、二人の仲は社内でも噂されるようになった。あやみの同僚である女性たちは、彼女の不倫関係を知りつつも、あやみを責めることはなかったが、加山は違った。彼は自分の権力を自分の女と思い込んでいたあやみに誇示するために、ゆうじを解雇することを決意した。

加山はあやみの同僚たちからの圧力も受け、会社の上層部に対してゆうじの解雇を強く主張した。結果、ゆうじは解雇され、隣県の会社に就職することになった。

◾️新たな生活

解雇されたゆうじは、新しい職場で再スタートを切った。隣県の穏やかな街に移り住み、新たな職場での環境は彼にとって心地よいものであった。一方、あやみは月に2〜3度、子供を連れてゆうじのもとを訪れるようになった。二人はこのようにして関係を続けたが、ゆうじはあやみが離婚後すぐに自分と一緒になることを望んでいた。

週末になると、あやみは娘の手を引いてゆうじの新しい家に訪れた。彼の住む街は、緑が多く、子供たちが遊ぶ公園や、地元の人々が集まるカフェが点在していた。あやみと娘はゆうじと一緒に、公園でピクニックをしたり、近くの動物園に出かけたりするのが常だった。

ある晴れた日の午後、三人は近くの公園に行き、ゆうじが用意したサンドイッチを食べながら、楽しいひと時を過ごした。娘の喜んで遊ぶ姿を見守りながら微笑むあやみ。ゆうじはそんな時間が堪らなく幸せだった。

ゆうじの家には、あやみが娘と一緒に泊まるための部屋が用意されていた。週末の夜、彼らはリビングで一緒に映画を観たり、簡単な料理を作って食事を楽しんだ。娘が寝静まると、あやみとゆうじはワインを片手に、将来の夢や日常の出来事について語り合っていた

ある夜、あやみはゆうじに向かってこう言った。「ここにいると、本当に心が落ち着くの。まるで家族みたい。」

ゆうじは微笑みながら答えた。「僕も同じ気持ちだよ、あやみ。いつか、本当に一緒に暮らせる日が来るといいね。」

彼らはこの時間が永遠に続くことを願いながら、それぞれの生活を続けていた。ゆうじは新しい職場での挑戦に打ち込み、あやみもまた仕事と育児の両立に努力していた。彼らの週末のひと時は、まるで夢のような時間であり、現実の厳しさを忘れることができる貴重な瞬間だった。

そんな時間が数年続いたが娘の成長に合わせ、
あやみの交友関係が広がっていくと2人の距離に微妙な変化が起きていく

◾️あやみと恭子の出会い

あやみは娘の新体操教室で恭子と出会った。恭子もまた娘を同じ教室に通わせており、教室で顔を合わせることが多かった。二人は自然と会話を交わすようになり、次第に親しくなっていった。

ある日、教室が終わった後、あやみと恭子はカフェでお茶をすることにした。子供たちが楽しそうに遊ぶ姿を見ながら、二人は育児の悩みや日常の出来事について語り合った。

「新体操を始めてから、娘が本当に楽しそうで嬉しいわ」とあやみが言うと、恭子も頷いた。「うちの娘も同じよ。新しい友達もできて、本当に良かったと思うわ。」

共通の話題が多いことから、あやみと恭子はすぐに打ち解け、頻繁に連絡を取り合うようになった。彼女たちは週末に一緒に子供たちを連れて遊びに行ったり、互いの家を訪れたりすることで、友情を深めていった。

◾️別れの予感

時が経つにつれ、あやみは次第にゆうじから距離を置くようになった。あやみと恭子は、かつてあやみがゆうじと行こうと言っていた場所へ旅行に行くことになった。この旅行が原因で、ゆうじとあやみは大喧嘩をすることになる。

「どうして僕と約束していた場所に、恭子と行くんだ?」と、ゆうじは感情を抑えきれずに言った。

あやみは困惑した表情で答えた。「私にとって恭子は今、大切な友人なの。あなたには理解してほしい。」

ゆうじは更に問い詰めた。「離婚の話だって進んでいない。僕はずっと待っているのに、あやみ、君にとって僕は都合のいい男だったのか?」

あやみは沈黙した後、静かに答えた。「そんなつもりはなかったわ。でも、現実を直視しなければならない。今は自分自身と娘のことを一番に考えたいの。」

その口論の後、二人は明確に別れを告げることなく、自然と会うことがなくなった。あやみは離婚することなく、職場での不安やワンオペ育児からくる寂しさを抑えあたりまえの生活に向かって歩み始めた。ゆうじは寂しさの穴埋め恋愛から目覚め新しい環境で前を向くことを決意した。

二人の関係は、一瞬の輝きを見せたが、最後には静かに終わりを迎えた。しかし、彼らが共に過ごした幸せな時間は、永遠に心に残る思い出となった。あやみとゆうじは、それぞれの道を歩み続けることで、新しい幸せを見つけることができるのだろう。

7年間のあやまちの恋は間違いなく幸せだった
そして幸せな終わり方だったのかもしれない

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