マガジンのカバー画像

書評

97
運営しているクリエイター

2024年4月の記事一覧

書評 #94|もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚

 クロアチアという国と紅白のユニフォームを身にまとう選手たちをより身近に感じさせてくれる。延長戦やPK戦も含めた異常なまでの勝負強さに象徴される「粘り」を連想するが、それは歴史や経験から培われたものと認識させられる。 「クロアチアは小さい国かもしれないが、勇敢で闘争心があり、献身的で全力を尽くす国民なんだ」 数々の戦いを眼にし、クロアチアに抱く印象と合致する言葉に初めて出会った気がした。クロアチアを率いる、ズラトコ・ダリッチの言葉は像の輪郭を濃くする。  名のある選

書評 #93|オシムの遺産(レガシー)彼らに授けたもうひとつの言葉

 深い洞察による本質を見抜く力。イビチャ・オシムを一言で表現することはおこがましい。その視点と思考力は宇宙のような無限の広がりを帯びる。しかし、周囲の人々の言葉を通じてオシムに触れ、そんな言葉が頭に反響している。  考えること。その一つ一つに真剣に取り組むこと。サッカーに対して本気で取り組んでいたであろう、ジェフユナイテッドの選手たちはその真意を理解し、全身全霊をかける。論理的な精神論とも言うべきか。その二つが合わさって初めて、個人は本領を発揮できるのかもしれない。  本

書評 #92|ドイツサッカー文化論

 ドイツのサッカーを大局から細部まで見つめた一冊。ドイツ人のメンタリティについて繰り返し言及される。それは「大きな責任を自ら背負いたい」という願い。徹底した勝利へのこだわりが、そのように言語化されていることに納得する。  日本と比べ、ドイツにおけるサッカーの歴史は長い。しかし、その年数だけによって栄光が築かれているわけではない。体系立てられたプロサッカーとアマチュアサッカー。教育システム。主要な国際大会における敗戦を教訓とし、改革を推進する姿に合理性を重んじる国民性が垣間見

書評 #91|フットボールヴィセラルトレーニング 無意識下でのプレーを覚醒させる先鋭理論[導入編]

 フットボールにおける個人の上達。人それぞれが異なる強みや弱みを持ちながらも、それらをいかに発展させられるのか。無意識と耳にすると複雑に映り、その面も否めないが、教える側と教えられる側の双方から「上達する」ことの意味を言語化している。  教えられる側を瓶ではなく炎になぞらえている表現が印象に残る。それは一般的な仕事にも通じる。情報を詰め込むのではなく、成長や向上する意欲を燃えさせる。一方でいわゆる「楽しいこと」や「得意なこと」ばかりでは意欲が燃え続けることはない。人間は緊急