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書評

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2023年4月の記事一覧

書評 #72|TACTICAL FRONTIER 進化型サッカー評論

 サッカーの奥深き魅力が詰まった一冊だ。「奥深い」という言葉を多用したくない。詳細をはしょり過ぎているように感じ、その一言で終わらせてしまうのがもったいないとも思う。「宇宙的」とでも表現すべきだろうか。正解はないが、尽きることのない、再発見と新発見のサイクルに今日も思いを馳せる。  突き詰めると、サッカーに勝つ最適解を世界中の人々は求めている。探求自体は複雑かもしれないが、行き着く先は往々にして簡潔だ。相手をいかに欺くか。いかにして想定を超えるか。綻びを生むか。その連続であ

書評 #71|女子サッカー140年史:闘いはピッチとその外にもあり

 「女性がサッカーをすること」は戦いの歴史であり、それは現在進行形であることが伝わる。  何と戦っているか。それは社会のルールであり、そのルールから利する、主に社会的実権を握っている男性ということになる。既得権益はもちろんのこと、男性の視点から定められた「女性の理想像」への抵抗。男女を問わず、人間としての本質を守る戦い。そう表現すると大袈裟に聞こえるが、決してそんなことはない。性別による制約を超越し、理想の自分を追い求める人生を。他人と競い合わないように育てられた女性の闘争

書評 #70|セリエA発アウシュヴィッツ行き〜悲運の優勝監督の物語

 衝撃を覚える作品名。「セリエA」と「アウシュヴィッツ」の二つの言葉は僕にとって水と油のように交わらない。しかし、時代によって常識が変わることも事実である。第二次世界大戦が席巻した当時のヨーロッパにもサッカーは存在した。しかし、サッカーも、サッカーに携わる人々も、人種差別主義という名の圧倒的な力にひれ伏し、価値観をも覆された。それは世界各地であらゆる差別が横行し、戦争が続く現在も繰り広げられる日常だ。世を魅了し、喜怒哀楽を発露させるサッカー。その魅力と、それが平和の上に成り立

書評 #69|バルサ・コンプレックス “ドリームチーム”から”FCメッシ”までの栄光と凋落

 歴史を駆け抜けた気がする。FCバルセロナの栄枯盛衰。「大聖堂」と表現されるクラブはバルセロナで現在も完成に向けて歩みを進める、サグラダ・ファミリアと重なる。地元の象徴であることはそのままに、ヨハン・クライフの手によって異常なまでにクオリティを求めるクラブへと進化し、世界的な名声を得るに至った。奇跡のような高みへと到達した一方、その過程は再現性に乏しい奇跡であったことも否めない。  サッカーを体系立てたクライフ。合理性の追求がその根底にある。当然ながら、体現することは容易で