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書評

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2021年9月の記事一覧

書評 #46|天上の葦

 太田愛の『天上の葦』は読者を掴んで離さない。処女作の『犯罪者』に匹敵する引力だ。渋谷のスクランブル交差点で空を指差して絶命した正光秀雄。九十六歳の指の先には何があったのか。奇想天外な起点から物語は幕を開ける。  鑓水、修司、相馬の三位一体は健在。三人が本著で立ち向かうのは国家だ。その急先鋒である公安警察との手に汗握る攻防戦は読み応え十分。散りばめられた伏線。リスクや危険の種がはびこる中を三人は駆け抜けていく。そのスリル。そのスピード感。それは真夜中から朝にかけて街をスーパ