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書評

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2020年8月の記事一覧

書評 #5|三体II 黒暗森林

 圧倒的な科学技術力を持つ地球外生命体の襲来。人類のすべての行動は地球外生命体の監視下にある。侵略の時は四百年以上も先の未来を予見。地球外生命体が持つ唯一の弱点は、人類にとって普遍的でもある嘘や偽りの概念を持たないこと。地球外生命体から「虫けら」と呼ばれた人類。劉慈欣の『三体II 黒暗森林』は敵を欺きながら、果てしない力の差を埋めようとする戦いの物語だ。この後の文中では作品の核心や結末が示唆されているため、気になる読者は読むのを避けてもらいたい。  作中で描かれるのは弱者の

書評 #4|清明 隠蔽捜査8

「他人から好かれるための一番の近道は、好かれようとしないことだ」  アルフレッド・アドラーの『嫌われる勇気』は未読だ。しかし、雑誌の紹介では上記のような内容が書かれていた。生きた言葉として意識し始めたのは最近だが、この言葉の周辺で思い出される記憶も多い。  学生時代や社会人になったばかりの僕は周囲の人間から好かれることを最優先に考えていた。そして、その思いと本心の間で苦しみ、余分な荷を自分自身に背負わせていた。現在でもその傾向は変わらないように思う。人間の本質はそう簡単に

書評 #3|凶犬の眼

 何事にも良しあしがある。その考えがふと頭に浮かぶ場面が最近は多い。なるべく大局的に物事を把握し、本質を捉えたいと思う。そのためには、さまざまな視点に立つことが必要であり、長期的に見ればバランスを見出すことが重要になる。僕が高校生の頃から思っていることだ。この後の文中では作品の核心や結末が示唆されているため、気になる読者は読むのを避けてもらいたい。  柚月裕子の『凶犬の眼』は一言で言えば「バランス」の物語だ。警察と暴力団が持つそれぞれの義が広島の山奥で淡々と描かれていく。両