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歩みの呪い

ここ最近のあるところに、おじいさんが住んでいました。ある時おじいさんは、図書館に行きました。図書館に入るおじいさん。あったかい空気が、おじいさんを包み込みます。にこやかなおじいさんが、ふと児童書コーナーを見ると、一人の男の子が、絵本を読んでいます。

『ウナギとカレ』という絵本の題名を見たおじいさん。知的に見られたいおじいさん。ふいに、一般書コーナーへ向かいます。何か探しています。…見つけました。『鰻と鮎』本を手に取り、嬉しそうに戻るおじいさん。ドヤ顔で、男の子の近くに座ります。本を開いて読みながら、「へぇー」とか「ほぉー」とか大げさに驚いています。

男の子が、『はらぺこやまなし』を読み始めました。おじいさんは『鰻と鮎』を読むのを中断して、早歩きで本棚へ向かいます。…見つけました。『空腹熱海』いかにも強そうです。満足気なおじいさん。戻って読み始めます。「富士山は静岡のものである。私は曾祖母からそう教えられてきた。……」小説でした。再びわざとらしくリアクションするおじいさん。

男の子が帰ってしまいました。読むのをやめてしまうおじいさん。本の紙をパラパラ漫画のように動かし始めました。1時間ぐらいそれを続けていると、図書館に一人の少年がやってきました。

それとなーく少年を追いかけていくおじいさん。少年が、『バッテキー』を手に取りました。本を探しに行こうとするおじいさん。今度はすぐそばで見つかりました。『投手選抜』少年を見ると、貸出手続きをしていました。手続きを終え、帰っていく少年を寂しそうに見送るおじいさん。

大学生ぐらいの男性がやってきました。目だけで男性を追うおじいさん。男性が止まると、おじいさんはゆっくりと近づきます。『歩き方が9割』本を手に取るところを、胸を高鳴らせてながら確認するおじいさん。万引きGメンの気分です。

Gメンなのか犯人なのか、端から見たらわからないおじいさんは、駆け足で本を探し始めます。…職員の人に、走らないでくださいと怒られてしまいました。

気を取り直して本探しを再開するおじいさん。今度は見つけるのに苦労しています。「走り方が9割」。違います。同じシリーズです。「歩き方が3割」。減ってしまいました。『勇気100%』ちょっと方向性が違うような気がします。

そうこうしているうちに、男性を見失ってしまいました。探しますが見つかりません。諦めかけたその時、「すみません」後ろから声がしました。声をかけてきたのは、探していた男性でした。本棚で空気椅子をしていたおじいさんが邪魔だったようです。

男性は、『行基がみえる』を抱えていました。『歩き方が9割』は、持っていません。おじいさん小さくガッツポーズしました。勝ちゲーです。「みえる」なんて平仮名です。これならさっき見つけた『鑑真が見える』で、余裕で勝てます。

勝利を確信したおじいさん。日あたりのいい窓際に座っていたら、眠くなってきました。うとうとして体を上下に揺らすおじいさん。ついに眠ってしまいました。

目の前の本を取り出す音で目が覚めたおじいさん。『東海道中膝栗毛』先ほどの男性が持っていきました。東海道中膝栗毛に負けるわけにはいくまいと、閉館まで探し続けるおじいさんなのでした。

めでたしめでたし。

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