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No.6 「非常套的殺人事件」第8~9話

第8話 遺言 2日目 午前10時~午前11時 
 「別々で行動するのは推理小説的には危ない」
 という早川先輩の意見に同意し賛成した。
 ひととおり、各自の部屋を6人一緒に見に行くが、なにもない。ずっと、携帯は圏外のまま。
 残りは昨日みんなで見に行った曰く付きのペンション。外見は昨日となにも変わっていない。鍵が上下かかり開かない。
「当然、ここでも圏外のままですね。裏に廻りましょう」と川崎

 ペンションの裏に廻り居間の窓を手すり越しにそれを覗く、そこで皆が衝撃を受ける。
 テーブルの横にあるソファに座る陰がみえる。この状況、あの座高から大森先輩であると窓越しからでもわかる。急いで手すりを跨ぐ川崎と早川先輩。
 鍵がかかっていることがわかり川崎が窓を拳で叩き叫ぶ
「大森先輩!大森先輩!返事してください!」
 だが、大森先輩の頭しか見えない、ピクリとも動かない。

 早川先輩は、近くで石を探し持ってくる
「離れてろ、みんな」戸惑うことなく投げ、窓ガラスを割る
 みんなで中に入りソファに駆け寄った

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 床に小さな瓶が落ちていて、大森先輩の口元は泡がついていた。毒だと、みんなが確信した。
「これ、見てください!」とテーブルに横にいた品川が小さな声を張って叫ぶ
 テーブルには1枚のメモ帳サイズの紙と昨日からある段ボール箱が置かれていた。
 皆がそれを覗くように読む。
『サークルのみんなへ
 ごめんなさい。これから蒲田を殺しにいきます。あいつはわたしの家族を殺した。あいつは覚えていないみたいだけど、三年前、あいつが運転していたバイクで『あおり運転』を私たち家族が乗っていた車にしてきた、そのせいで交通事故に。あいつは何もなかったかのように逃げていった。わたしの両親二人がそのせいで亡くなった。警察にも言ったが、ただの交通事故だと処理された。そのせいで、妹は鬱病になり首をつって自殺した。
 なにも知らずにヘラヘラと生きているあいつを見ているとどうしても許せなかった。
 あいつを殺せればこの世に未練はない。申し訳ないけど身体を残して死にます。箱には蒲田を殺すときに使うロープとペンションの鍵を入れて置きます。鍵は小田原さんに返しておいてね❤ 大森恵』
「部長の字だわ」と二宮先輩
 「遺書の最後にマークなんて部長らしいな」と早川先輩
 川崎が箱をハンカチを手にかけてあける。なかには長いロープと小袋が入っていた。中には4つ鍵が入っていた。蒲田先輩、大森先輩、そしてここのペンションの鍵だろう。
「密室殺人ではなかったってことだな、蒲田先輩が招き入れそのまま寝室で殺され、鍵を奪い玄関扉を閉めて出る」早川先輩が納得したように話す
「自殺することなかったのに...とりあえず警察に連絡しましょう...」
 川崎が言った、そのときだった『カシャカシャ』と音がなり皆が振り向く
 二宮先輩が携帯カメラで大森先輩の死体を撮っていた。
「おい、やめろよ!非常識だぞ!どうするつもりだその写真」早川先輩が怒鳴る
「え?これから警察に教えるんでしょ?この状況を。写真撮って見せなきゃ。蒲田先輩のも撮っといたのよ」とキョトンとしながら言う
「いいんだよ、そんなことしなくて!警察が来て彼らがやるんだよそういうことは」
「いやいや。どうやってここに呼ぶつもり?電波もない。今は車の免許を持っている二人が死んでいないのよ。どういう意味だかわかる?私たちがここを下りて昨日の店の前にあった交番まで歩いていかなきゃいけないってこと!だったらこの状況を早く見せられるように撮っておかなきゃ。用がすめば写真は消すわよ、もちろん!」二宮先輩が話ながら苛立ってるのがわかる。
「あっ」と残りの5人は気づく。たしかに誰も車を運転できない。電波もないため警察へ電話もできない。
「ホントに早川先輩も運転できないんですか?」と藤くんは訪ねる
「あぁ」早川先輩の顔は申し訳なさそうにしかめる
「ここから歩いて一時間くらいかしら?早く出発したほうがいいんじゃない?」二宮先輩が5人を見回し言う。
「みんな荷物をまとめて、管理棟の外で集まってくれ、30分後だ。ペットボトルに水を入れておけよ」と早川先輩が鍵が入った小袋をポケットにしまい5人に言う

 ここは木陰があって涼しいが、ここを出たら直射日光が僕たちを襲うだろう。
 皆がその場を離れ各自のペンションへ向かった。


 ※


 遺書まで書き残してくれるとは、助かった。
 だが、一つ問題が起こった。この問題を回避するにはまだ、あいつに手を借りなくては。
 


 第9話 脱出 2日目 午前11時~午後1時半
 僕はリュックに荷物を全部しまい、空きのペットボトルにキッチンの蛇口から出る水を入れる。玄関の鍵を閉め外に出る。
 前に早川先輩、川崎、品川が管理棟へ向かっている。
 管理棟の前、駐車場で藤くんと二宮先輩を待つ。時刻は11:32になっていた。
 僕は大森先輩の車、大森号の中を覗く。来る途中、店に停めてあったときに感じた《《違和感》》が何か確かめたかった。隣の蒲田先輩の車と見比べたとき、その《《違和感》》がはっきりとわかった。『大森号には、《《あれ》》が無い』

「ここも鍵閉めとかなきゃだな」と早川先輩が鍵を閉めに管理棟の玄関扉へ向かったとき
 目の前のペンションから藤くんが出てくる。
「すみません遅くなって」
「いや、まだ二宮が来ていない」と早川先輩
「あれ?さっきまでここに居たの見ましたよ。俺のペンションからちょうど見えました。15分前くらいかな、一人でここに立っていましたよ」
「藤っち、ホントなのそれ?」と川崎が聞く
「あぁその後は俺も荷物準備したりトイレ行ったりで見てなかったけど、確かにここにいたよ」
「だったら、忘れ物とりにペンション戻ったかな?」藤くんの隣にあるペンションを見ながら僕は言う
 早川先輩が二宮先輩のペンションへ向かい玄関を開けようとするが鍵が閉まっている。
「まさか、あいつ一人で帰ったんじゃないだろうな」早川先輩が怒って戻ってくる
「そんな、まさか女性ひとりでこの道を帰るなんて不安でしかありませんよ」と川崎
「もしかして、管理棟の中で待ってるんじゃないですか?」と品川がいつもの小声で言い、川崎が
「そうだね、見に行きましょう」

 5人は管理棟の中へ入り、右手、居間の扉を川崎が開ける。

 と、その瞬間
「キャー!!」
 女子の悲鳴。僕の前に立っていた、品川の悲鳴だ。品川は川崎の後ろにしがみつき震えている。
「二宮先輩!」と川崎が居間に入り、僕も中に入りそこで見たものは。
 居間にあったテーブルの上に仰向けにされ、左胸に包丁が刺さっている二宮先輩の死体だった。顔が恐ろしいものでも見ていたかのような形相だ。
 テーブルには血溜まりができている。

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「なんで…」早川先輩は混乱し、その目は見開いている
 僕の隣にいた藤くんは吐き気がしたのか、ペンションの外に駆け出す
 蒲田先輩、大森先輩の死体とは違い、とても生々しい。部屋中血の臭いが充満している。
「部長が自殺して終わりじゃないのかよ!誰だよ二宮殺したの!?」
 早川先輩が僕たちを見ながら叫ぶ!
 そこにいた一年生三人は黙ってしまう。
 と川崎が二宮先輩の死体の近づき
「これ、なんですか?二宮先輩の手元になんか書いてあります」と二宮先輩の右手に自分の血で書いたのだろう
 アルファベットの『H』の左上に斜めに線が足されたような図形。

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「なんだこれ?『H』だよな?」と早川先輩
「でも、ここに線が書かれていますよ」と川崎
「『H』を書いてて指が滑ったんじゃないか?」
「そうだとしても、これは二宮先輩からのダイイング・メッセージですよ」
「ダイイング・メッセージ!?まさか推理小説の読みすぎだぞ川崎」
「でも、自分が死ぬ間際にこんなことしないですよ普通」
「だったらなんだ、『H』が頭文字の奴が二宮を殺した犯人だってことか?...って俺じゃないか!?」
 と一人で驚く早川先輩
「僕もそうですよ、平塚のH」
「一応、それなら藤っちもそうなるよ。藤沢は普通Fだけど」と川崎
「とりあえず外に出よう。ここにいたら俺も吐きそうだ」と早川先輩が顔色を悪くし言う
 外には藤くんが立っていた。
「ホントに二宮先輩だったのか?あの死体」
 藤くんが真っ青な顔をして僕に訪ねる。一回吐いたようだ。
「あぁ」と言い、僕がダイイング・メッセージのことを説明したら、僕と早川先輩を交互に見て
「俺はFですから!ここから一番近いけど殺してないからな!」と珍しく叫ぶ
「とりあえず、俺も平塚も犯人ではないと思う。ってかここにいる俺ら全員には居ないはずだ。さっきまでペンションで荷造りしてて。ここに向かう途中で落ち合ったんだから」と早川先輩
「でも、殺してから自分のペンションに戻った可能性もあるんじゃないですか?」と藤くんが反論するが、それに対し早川先輩は
「そんな時間あると思うか?お前も、ここに立っていた二宮を見てるんだろ?だったら11時半の15分前には二宮は生きていたってことだ。その15分間の間にここで殺してペンションに戻ってなに食わぬ顔で出てきたってことか?!」
「それじゃあ。俺達以外の誰かが殺したってことですか?」
 だんだんと、話していて混乱してくる早川先輩と藤くん
「部外者で俺達がここに来てるって知ってる奴、誰がいるんだよ!」早川先輩が早口で叫ぶ
「あ、居ますよ一人」と冷静な川崎
「ここの、管理人、小田原さん」
「あっ」と僕と残りの三人は気づくが早川先輩は
「なんで、あいつが二宮を殺さなくちゃいけないんだ」
「理由、動機はわかりませんが二人は知り合いだったとか。もしくは無差別殺人かもしれません」
 皆が固まる。
「そ、それじゃあ、こんなところ早く出なきゃ。早く交番に行きましょう」と品川が泣きそうになりながら言う


 5人は荷物を背負いながら道を歩く。一番前を早川先輩、川崎、品川、僕、藤くんの順で一列に、皆がお互いに間隔を開けずに歩く。品川は川崎の腕にしがみつき、川崎は歩きにくそうだ。歩いている間みんな黙っている。
 僕は考える、あのダイイング・メッセージはなんだったのか。
 もし、管理人の小田原が犯人だったら『H』ではないっていうことだ。それに小田原の車が再びここに来た音はしなかった。一時間歩いてわざわざ来たのか?それとも、昨日は帰らず近くに車を停め管理棟近くに潜んでいたのか?と僕は推理小説に出てくる探偵のように考えてみる。
 大森号にあった違和感を前をひたすら歩く川崎に聞いてみよう。
「ね、ねぇ」川崎の肩を叩く、一瞬ビクッとする川崎とそれにつられる品川。
「な、何?塚っち脅かさないでよ」
「ごめん、でも聞きたいことがあって。大森先輩の車で気になったことがあるんだけど」
「車?」
「あの車ってカーナビも地図もなかったけど、どうやってここまで来れたの?携帯のマップ?」
「うんうん。そうだよ。ボクが携帯見ながら案内をしてたんだ」
「でも、ここら辺にきたら電波ないよ。直線で来れるような道でもないし、地図なしでは絶対迷うでしょ?」
「それは、わたしも気になって部長に聞いたよ。地図が頭に入ってるんだって言ってた。迷わずここに着いたよ」
「へー、そんなことができたんだ部長って」と僕は納得した

 その後はなかなか誰もしゃべらない。途中何回か休憩をした。約一時間後ようやく見覚えのある道と酒屋の看板が見えてきた。みんなが走りだし交番へ駆け込む。
「すみません!友達が誰かに殺されました!」
 時計は13:25になっていた。


 ※


 ...ダイイング・メッセージまで残してくれるとは。わたしのシナリオが美味しくなるよう度々調味料を足してくれてるようだ。このダイイング・メッセージのおかげでわたしの正体がばれることはないだろう。

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