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No.3 「非常套的殺人事件」第1~3話

第1話 始まり
意気揚々と高鳴る気持ちと共に正門を跨ぐ。
念願だった大学に合格し、今日から大学生活を送る、ぼく。
 入るサークルもすでに決定済み。
 オリエンテーションを終え、午前中で帰宅する他の生徒とすれ違い、僕は一人、ミステリーサークルのある3号館の2階へと階段をのぼる。
 これが部室か?教室の扉の前に『クローズド・サークル』と書かれている
その扉のノブをにぎりおもいきってあける。何かが起きるという不穏な予感と共に。

第2話 出発 1日目 午前9時~午前10時
7月中旬。おととい、長かった梅雨が明け、何日も続いた雨が嘘のように快晴の日。雲ない水色の空、カンカン照りとはこういうことを言うのだろう。車のクーラーがなければ蒸し風呂だったであろう。
 出発して30分ほどたった頃、隣に座る藤くんが前に座る先輩たちにむかって
「結構、山奥にあるんですね」
 朝、出発する前に一人ずつに配られたかわいい花柄の表紙『旅のしおり』に書いてある行き先をスマホで調べながらテンション低めで訪ねる。
「埼玉県で一番安い宿泊施設らしいからな、電波もなかなか入らないみたいだ。でも安心しろ!今の時代ポケットWi-Fiという便利なものがある」
 運転している蒲田仁《かまたひとし》先輩が片手でポケットから出した携帯用Wi-Fiをだしながら言う
 車中はこの先輩の音楽プレイリストが流れている
「マジですか?!さすが準備いいですね!」とテンションが戻った藤くん
(らしい?みたい?)
「あれ?先輩たちが調べて決めた場所じゃないんですか?」
 僕が、訪ねる。
「あー、場所は大森部長が一人で調べて決めてたからな、俺たちはそれに賛成しただけだ」
 助手席に座る早川流之介《はやかわりゅうのすけ》先輩が後ろを向きながら答える。
 大森とは我がミステリーサークルの部長、大森恵《おおもりめぐみ》先輩、この『旅のしおり』を作った張本人である。サークル1(8人しかいないが)の美少女(美女というよりこう呼ぶ方がしっくりくるのだ)。
 先ほどまで前を走っていた女子部員たちの車はいつの間にか消えていた。ずっと前に、追い越したか、先を走っているのだろう。
 一時間ほど高速道路を走ってる途中、藤くんがスマホ見ながら
「あと、一時間くらいはかかりそうだなぁ、ちょいと寝ててもいいっすか?」先輩二人に訪ねる。
「おう」と蒲田先輩
「悪い!塚っちゃん着いたら起こしてくれ!」
「うん、いいよ藤君」
『塚っちゃん』とは僕のこと、平塚武《ひらつかたけし》だから『塚っちゃん』。入部して自己紹介のときにつけられた。同学年からはそう呼ばれている。僕も、隣で眠りにはいる彼、藤沢良和《ふじさわよしかず》のことを藤くんと呼ぶようにしている。

 僕は窓越しに深いため息をつく。これから始まる、このたった二日間で僕は変わり大学デビューをするつもりだ。

 第3話 到着 1日目 午前10時~午後11時 
 高速道路をおりて15分くらいがたった。建物と建物の間隔がだんどんと広くなってくる。田舎町についた証拠だ。
「俺らが泊まるペンションまでもうすぐだ。コンビニが見えたらその手前を右に曲がって20分ほど走れば着く」蒲田先輩がカーナビを横目で見ながら言う。
「あ、そのコンビニで停まってもらってもいいですか?買いたいものがあるんで」と、早川先輩
 藤くんは、隣で口を大きく開けて熟睡中。(コンビニ着いたら起こしたほうがいいだろうか?)
「あ、ここか?」と蒲田先輩
 チェーン店ではない、自営のお店だ。山田屋と酒屋と看板が出ている。向かい側に交番がある、バス停もある。
 駐車場にはいる。駐車場には一台すでに停まっていた。女子たちが乗ってる大森号だ。
 結局、迷った末、藤くんを起こすことにした。
 先輩たちは先に降りて店に入っていった。
「あれ?着いたか?」まだ、朦朧《もうろう》としたまま目を開ける
「いやまだ、コンビニだよ。なんか買ってく?」
「じゃあ塚っちゃん炭酸とスナック菓子買ってきてくれない?あとで払うから」
 そう言ってイヤホンをつけなおし目を閉じる。
 車を出て店に向かう途中、隣の車、大森号を覗く。
 助手席に黒髪にアイマスクとイヤホンをつけた二宮天弥《にのみやあまね》先輩が寝てるのが見えた。(アイマスクまでしてたら、ペンション着くまで起こす気にならないな)
 店から3人の女子たちがしゃべりながら出てくる。
 わたしに気づき同じ一年の川崎奈保《かわさきなお》が「塚っち!お疲れ!」と片手を降り近寄ってくる。その後ろ、金魚のフンのように品川八千代《しながわやちよ》が着いてくる。
「な、何、買ったんですか?」
 なかなか女子との会話は慣れない。最近になってまともに目をあわせて会話できるようになったが、挙動不審は治らない。
「その敬語どうにかならないの?まぁいいけど。ヤチがトイレ行きたいって言うから着いてっただけ、ボクたちは準備万端で来たからお菓子も飲み物も平気!」
 ヤチとは品川のことである。八千代だからヤチ。品川が少し顔を赤くして「みなまで言わないでよ」というように川崎の半袖シャツをつまんで引っ張る。
「わたしはお酒必要かなっとおもってアルコール低めの飲み物を買っといたわ、蒲田君たちも今買ってるみたいね」
 ゆっくり歩いてきた大森先輩がいう。やっぱり背が低い。川崎の肩までくらいしかない。
「部員の半分は未成年ですよ...」僕は唯一、大森先輩とはなかなか目が合わせられない。
「決めた!」急に川崎が大声をだしビクッとなる。
「塚っち、ヤチ、この合宿中にその異性に対するシャイな部分を克服しよう!塚っちゃんは敬語をやめること、ヤチはボクにくっついてばかりじゃなく積極的に男子に話しかけられるようにしよう!二人の宿題だからね!」
「え?!」
「え?!」
 急に出された宿題に二人同時に苦笑いし困惑する。
「でも...」
「いいじゃない!二人とも大学デビューはまだみたいだし!」
 品川が何か反論しようとしたのだろうか、その前に大森先輩が前のめりになって川崎が出した案に乗ってくる。
「わ、わかりま...わかったよ。頑張ってみる」
 僕は無理してみる。
「おい、塚ぁ買いモンするなら早く済ましちゃえ」
 蒲田先輩が店からでてきてた。後ろには早川先輩。
「それじゃあ先に向かってるからね。管理棟に駐車場があるからそこに停めて、管理棟の中で落ち合いましょ。ここから車で20分くらいかしら。」
 3人が車に乗り込む。品川はまだ困った顔をしたまま川崎のあとに車に入る。
 ふと、その彼女らが入る車内をみて《《違和感》》を感じる。その違和感がなんだかわからない。

 買い物を済ませ車に戻る、藤くんは再び爆睡している。この先のペンションまで出発する。

 藤くんが言っていたように山奥だ。舗装されていない道路を上下に激しく揺られながら走ること10分ほど、ようやく着いた。その揺れで藤くんも目を覚ましていた。


   ※


 ようやく、復讐の時が来た。ここがお前の死に場所になる。


   ※

 わたしの計画にはどんなことが起きようと狂いはしない。どんなことがあっても、回避できるよう準備してある。この事件を解ける人はいないだろう。だれもわたしの正体を暴くことはできない。
 


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