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No.8 「非常套的殺人事件」第12~13話

第12話 解決 3日目 午後4時~午後6時
 藤くんはこれからアルバイトがあるからと、報告会には欠席した。
「悪ぃ、川崎たちにも謝っておいてくれ。ダイイング・メッセージの意味はわかったんだ。でも、この人が二宮先輩を殺したとはまだ、信じられない。川崎たちのと話し合って解決してくれ」
 と言い残し大学を出てしまった。
 僕一人でサークルの部室に入ると、もうすでに残りの3人は座って待っていた。
 僕は藤くんがアルバイトで来れないことをみんなに伝え、パイプ椅子に座る

「それじゃあボクたちから」
 と、川崎と品川が立ち上がる

「部長の交友関係とか家族について調べておきました、部長の高校時代の後輩って方がちょうど、ここの二年生にいて彼女から話しを聞いたんだけど、やっぱり部長の両親は交通事故で同時に亡くしている。三年前だよ。ということは、部長と蒲田先輩が高校三年生のとき。
 遺書を信じるなら蒲田先輩はバイクであおり運転をし交通事故を起こし、それが運悪く部長の家族が乗ってた車だったってことだね、そこには部長と妹さんも乗っていてバイクに乗っていた蒲田先輩の顔を見ている。そしてたまたまここのサークルに二人は入ってしまった。それか、復讐のため部長が大学もサークルも蒲田先輩と同じにしたのかもね。早川先輩、蒲田先輩について何か分かりましたか?」
「とくに情報はなかったよ。蒲田先輩の友達に話しを聞いたけど、彼のバイクの運転は荒かったらしい。何回か警察に停められてるけど、交通事故を起こしたなんて聞いてないみたいだ。まぁ誰にも言ってないだろうけどな。あと、二人が付き合ってたって、あれはただの噂だって聞いた」
「やっぱり。その部長の友達が言うには、部長には高校生のときは付き合っている仲の良い年下の彼氏がいたみたいなんだけど、両親を亡くして別れたのか二人で歩く姿は一切見なくなったらしいの。二宮先輩についてはどう?塚っち」
「うん、僕と藤くんは先輩のゼミにいってみたよ。交友関係はあまりなかったみたい。ゼミの先輩たちと僕たちサークルの中でしか友達はいなかった、もちろん付き合っている人なんていないって聞いたよ...」
 僕は二宮先輩が残したダイイング・メッセージの意味を伝えたくて、心臓が激しく鳴っているのがわかる。
「で、あのダイイング・メッセージなんだけど」
 と言った瞬間、早川先輩の携帯が鳴る。その画面には電話番号だけ表示されている。
 早川先輩がごめんと、電話に出る
 とすぐにスピーカー状態にして僕たちにも聞こえるようにしてくれた。僕たちは聞こえるように近づく。
 話している声が誰だかすぐにはわからなかったが、昨日の交番にいた三島巡査だとわかった。深刻そうな声で
「先ほど、君たちが泊まっていたペンションの周りを調べていた。奥の公園があっただろ?そこのさらに奥の雑木林の中から女性の首吊り死体が発見された。持ち物が何もないため身元がわからない。これから調べてもらうが、お前たちの友達の一人かもしれない」
 僕たち四人は数秒間沈黙したが、早川先輩が口を開き
「その女性の特徴を教えてください」と聞いた
「背が小さかったな、はじめ発見したときは中学生かと思った」
「はぁ?」と早川先輩が驚く
 そのとき、僕は確信へと繋がった。川崎も何かわかったのだろう。顔を上げなにかを閃いたか、と思ったらまたうつむいて何かを考え始めた。
「これから人を増やし周りを調べてみるつもりだ、何かわかり次第電話する。そちらも何かわかったら教えてくれ」
 と三島巡査は言い電話が切れる
「誰なんだよその死体は」と早川先輩が呟く
「塚っちその、二宮先輩のダイイング・メッセージて...もしかして」
「うん、そのまさかだよ。
 二宮先輩のゼミでは主に、日本語の起源を調べていました」
「日本語の起源?」早川先輩が聞く
「そうです。僕たちが日常的に使う、ひらがなやカタカナ、漢字がどのように作られ、使われてきたのか、簡単に言えば日本語の歴史です」
「それが、あの『H』みたいなマークとどう関係してるんだよ」
 僕は携帯の画面を開き、さっきゼミの部屋で撮ったひらがなとカタカナ、『字体の由来』と書かれた表を三人に見せた。五十音順に横に五文字、縦に続いた二つの表だ。

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「ひらがなもカタカナもすべて漢字の一部を変えてできたものでした。この『阿』から『ア』ができるように。
 そして、この中で一つ、二宮先輩が残したダイイング・メッセージと似ているものがありました。これです」と僕は指をさす。
 それはカタカナの『レ』の下にある

『ヱ』その横には『恵』と書かれている。
 早川先輩と品川は驚き言葉がでない。川崎はなぜかうつむき考え事をしている。
「この『え』と読むカタカナ『ヱ』を90度回転させると、ほら『H』に似た形になりますよ」続けて僕がしゃべる
「じゃ、じゃあ、二宮を殺したのって...」
「はい、『恵』という名前を持つここの部長、大森先輩です」

「は?部長はあの曰く付きのペンションで毒飲んで自殺してたじゃないか!」
「はい、確かに死んでいました。僕もさっきの電話が来るまでどういうことかわかりませんでした。が、今一つ線がつながりました。
 か、川崎も分かってるんだよね?」
 と川崎に問いかける。
「あ、うん。わかってる、《《たぶん》》生きてたってことだよね」
「そう、大森先輩は生きてたんです」
「だから、俺達全員見ただろ、脈をしっかり診たわけじゃないが、大森先輩は死んでただろ!」
「はい、あれが大森先輩でなかったらどうです?」
「は?大森先輩のそっくりさんだったってことか?」
 早川先輩は混乱している。
 僕はうなずき
「そっくりさん、ではなく双子です」
 品川もやっとわかったようだ。
「そう、大森先輩には双子の妹がいたんです。遺書に書かれた妹は鬱病で自殺したと書かれていましたが嘘だった。つい最近まで生きていたんです」
「それでは、おとといの夜から昨日までの僕の考えを説明します。
 1日目僕たちが焼き肉歓迎会を終えそれぞれペンションにもどり寝静まったとき、
 大森先輩の妹が蒲田先輩のペンションを訪れる。先輩の顔と同じなので、蒲田先輩はなにも疑わずペンションのなかに誘う。
 そこで、睡眠薬を入れた飲み物か何かを渡したのでしょう、殺すときに暴れられないように。すんなり受け取り睡眠薬を飲んでしまい寝てしまった蒲田先輩の首にロープをかけ絞殺、外に出て鍵をかける。
 曰く付きペンションに戻り、殺したことに後悔したのでしょう。毒を飲んで自殺を図る。鬱病だったってことは本当だったかもしれませんね。
 翌朝、私たちが妹の死体を発見していた、その間も大森先輩がどこか近くで潜んでいたんでしょう。蒲田先輩のペンションの前で電波が入ったのは、部長が近くにいて携帯Wi-Fiを持っていたから。それに気づき携帯Wi-Fiの電源を切る」
 少し喋り疲れ、僕は持ってきた飲み物を飲む
「それじゃあ、二宮先輩が殺されるとき見たものって」と品川
「うん、大森先輩だよ。だからあのような幽霊でも見たのかというような恐い形相になった。そして、死ぬ間際に『ヱ』を書いた」
「それで、俺達が交番に向かっている間に大森先輩がすべての死体をどこかに隠して、自分も耐えきれなくなり森のなかで首を吊って自殺をした。ってことか」
「はい、それしかないと思います。」
「じゃあ動機は?なんで二宮は殺されたんだ?」
「たぶん、写真じゃないですか?」と品川
「そうだね、二宮先輩は蒲田先輩と大森先輩の死体をカメラで撮った。
 写真に残ると双子だと分かってしまうようなものが体にはあったのではないですか?完璧な犯罪にしたかった大森先輩は、そのことを知られないよう口封じのため殺した。管理棟のテーブルの下に細かいガラスが落ちてたじゃないですか。あれは二宮先輩の携帯を割って落ちた破片だと思います」
 早川先輩は納得したような顔をしている。一、。川崎はまだ何か考え事をしている。
「川崎、そんなところかな?他に考えがあるなら教えてほしいんだけど」
「う、うん。ボクもその考えであっていると思うよ。早川先輩さっきの三島巡査に伝えておいてください。あと、塚っちあとでそのひらがなとカタカナ表の写真送ってくれないかな?」

「しかし、ホントに推理小説のような事件だったな。しかも、塚が探偵役なんてな」
「常套的っていうんですよ」
 と僕は言うと早川先輩が三島巡査に電話をかけすべてを伝えた。

 あとから。各死体があった管理棟、ペンションの周りの地面から埋められた3人の死体が発見された。

 すべて、解決され安堵する部員たち
 僕もあとで藤くんに伝えるつもりだ。

 ※


 見事な探偵役だった。全員まんまと騙されている。このまま幕を下ろし、わたしはこの事件を墓場まで持っていくことにしよう。
 



第13話 告白 3日目 午後6時半~午後7時
 僕は今日の授業がすべて終わり、帰宅するため裏門に向かう。もうこの時間は裏門から出る生徒は少ないのだろう、案の定誰も見あたらない。歩くのは僕一人だ。
 と思ったそのとき、後ろから
「塚っち!」と声が聞こえた
 振り向くと川崎が笑顔で近づいてきた。
「お疲れさま、探偵役見事だったよ。これから寮に戻るの?」
 と、僕の横を歩く
「うん、川崎も?」
「そそ、家はこの近くなんだけどね」
「実家なんだっけ?」
「そうそう、ラクでいいよ。ご飯は勝手に出てくるし」
「羨ましいな、実家が大学の近くにあって、家事も任せられる。僕も最近やっと家事をまともにできるようになったから」と僕は笑って見せる。
 あれ?女の子とうまくしゃべれてる気がする。
「そういえば、品川は?」
「あぁ。ヤチの家は反対方向だから...正門から帰るんだあのコ」とすこし寂しそうだ
「そういえば、塚っち敬語じゃなくなったね!よかったよかった。ボクの宿題のおかげかな?」
「そういえばそうだね。あんなことがあって、気持ちも変わったのかも、ありがとう」

「ふーん」と川崎

 裏門を出る手前僕は、川崎の横顔を見る。
 夏の夕日が沈み暗くなっていき、電灯が川崎の顔を照らしている。すこしいつもより頬が火照っている気がする。今まで思わなかったが、僕はそのとき初めて川崎がショートヘアの可愛い女子なんだと知った。僕の心臓が強く打たれているのがわかる。

 急に川崎がこちらを向く。
「塚っち、あのさ...」
 さっきより頬が赤い…気がする

(え?女子から告白される?しかも川崎から?)
 僕はラブコメに出てくるような主人公にでもなったかのような気持ちになる。僕も顔が赤くなってるのだろうか。周りを見渡すが誰もいない。








「君、犯人でしょ?」

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