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No.7 「非常套的殺人事件」第10~11話

第10話 消失 2日目 午後2時~午後6時
 交番には二人の駐在員がいた、一人は五十くらい、もう一人は三十前半くらいの男性。
 この周辺では凶悪な犯罪なんて無いのだろう。平和そうに二人でしゃべっていた
 僕たちが突然、駆け込み「友達が殺された」なんて言ったため最初は驚きと、冗談だろといった調子だったが5人の慌てふためく形相を見、只事ではないことを察知してくれた。
 パトカーが一台しかなく三十前半の後輩駐在員と僕たちの中の三人が現場に戻ることになった。
 話し合いの結果、僕、川崎、早川先輩で一時間歩いて来た道を戻り、ペンションへと向かうことに。藤くんと品川は先輩駐在と交番で残ることになった。
 クーラーのかかった初パトカーに入る。走りだし、ここで、初めて駐在が名前を教えてくれた。三島巡査と言いここの交番で働き三年目らしい。車内で早川先輩と川崎が今日起こった一連の事件を説明した。
 15分で、元の管理棟へ帰ってきた。
 早速、三島巡査が「ここで待ってろ」と三人を管理棟前に残し入っていった。
 待っていること3分、三島巡査が管理棟から戻って来て、驚くべき発言をした
「死体なんてどこにも無いぞ」
 三人は目を丸くする
「は?」早川先輩
「無いわけないですよ!確かに5人で二宮の刺殺体を発見したんですから、夢なんかじゃないですよ!」
 僕たちは三島巡査につれられて中に入る。
 確かにテーブルの上にあったはずの二宮先輩の死体と血溜まり、ダイイング・メッセージもすっかり消えていた。
「そんな...」川崎が驚く
 テーブルに近づく四人。川崎の足元で『ジャリジャリ』と音がした。川崎が足元を見ると細かいガラスの破片がテーブルのしたに落ちていた。
「なんだよそのガラス」と早川先輩が川崎に近づく
「さぁ、窓ガラスの破片ではなさそう」

「とにかく、他にも友達が死んでるんだろ?どこなんだ」三島巡査が少しイラつかせながら言う。
 早川先輩がまず、蒲田先輩のペンション裏へ案内する。割られた状態の窓から入り寝室に入る。
「ないじゃないか」三島巡査が言う。またも、三人は目を丸くする
 その後も、自信がなさそうに曰く付きペンション、大森先輩の死体がある居間へ誘導する。が、ここにもしたいが無くなっている。
「お前ら俺達大人を騙してるんじゃないよな?それとも、なんかのドッキリだったんじゃないのか?」
「いやいや!蒲田先輩の脈はなかったんだよな
 ?」川崎を見て早川先輩が言う
「はい、確かに蒲田先輩の脈を確かめてみましたがありませんでした。それに二宮先輩もあの血が血のりとかじゃなければ死んでいたはずです」
「あのな、脈なんて一時的に止められるの、お前らミステリーマニアなら知ってるだろ」
 もちろん、僕たち推理小説、ドラマや映画を見てきたらお馴染みのトリックだ。テニスボールなどの大きさの球を脇の下に強く挟むことによって血の循環を脈からでは、わからなくさせる方法がある。当然、三人は知っていた。
「でも...」と川崎は下を向く
「あいつだよ!小田原とかいう管理人!あいつが死体を全部どこか隠してるんだよ!」
 早川先輩が怒鳴る
「小田原先生か?あんな優しい先生がそんなことするはずないだろ!それに昨日の夜は家に帰ってるはずだ、交番の前を彼の車が通るの見てるからな。あの人はこの町では知らない人はいないくらい人気者なんだぞ」
 またも、三人は混乱する。
「わからないじゃないですか!町の人には優しい仮面をかぶってるだけかもしれないじゃないですか!」早川先輩が三島巡査に怒鳴る
「そんな人じゃないことは俺達は知ってる!とりあえず、交番に戻ろう話はそれからだ!」
 曰く付きのペンション裏から出て車に向かう途中、三島巡査が三人に聞く
「何で、ここのペンションだけ立ち入り禁止なんだ?」
「は?8年前、殺人事件があったんでしょ?だからこのペンションだけ使わないように封鎖してるって...」と早川先輩
「殺人事件?そんなのあったはずが無い、8年前なら俺もここにはいなかったが、そんな話聞いたことない。っていうか、この10年近く大きな事件がなかったんだから、この町は平和なんだぞ!」
 さらに混乱してきたのだろう。早川先輩は信じられないと言うような顔をする。
「それ、大森部長の嘘だったってことじゃないですか?蒲田先輩を殺すための」川崎は言う
「先輩を殺すためになんでそんな嘘言わなきゃならないんだよ」
「それはわからないですが、なんか理由があるんですよ、きっと」
 川崎と早川先輩が話しているなかパトカーに入り交番へ戻る

 交番に戻った四人に、待っていた三人はどうだったか聞くが僕たちは首を横にふる。その、意味がわからない藤くんと品川。
 三島巡査が先輩駐在員に報告する。
「死体なんてありませんでした。」
「は?そんなことないだろ!」
 早川先輩と同じ反応を藤くんはする。品川は何が起こっているのかわからずオロオロしながら川崎を見る。
「そうなんだ、ボク達がみた先輩達の死体は綺麗に失くなってた」
 そう川崎が答えると、「管理人が隠したんだ!」と早川先輩がペンションでした反応と同じように駐在員二人に藤くんはした。
 ここでは電波があったので駐在員が管理人、小田原に電話をし、10分後交番に来てもらった。
 確かに大学生8人がペンションをしに来たこと、ペンションの使用説明をした後、そのまま勤務先の小学校へ行き、資料を作成していたこと、帰りは夜8時頃になりこの交番を車で通ったことを説明した。今日の午前中は家にずっといて過ごしていたことを彼の親が証明した。
 彼のアリバイはなくなりそのまま帰された。彼が帰るときペンションの鍵を早川先輩が返していた。
「まぁ、一応そのペンションの周辺は調べておくから、今日は帰りなさい。なにかあったらこちらから連絡するから」先輩駐在員が僕たちに言い、僕たち5人は狐につままれたような気持ちでバスと電車を乗り継ぎ二時間以上かけ僕たちは各自家路に向かった、その道すがら誰もしゃべらなかった。


 ※


 完全犯罪と言えるのではないか?わたしはこの計画に成功したのだ。あの、頭の悪い駐在員達にも気づかれることはないだろう。わたしはこのシナリオが無事に進められたことに満足感を覚え、興奮がおさえられなかった。
 しかし、最後、幕を下ろす前にやらなくてはいけないことが一つ残っている。

 あいつを殺さなくては



 第11話 調査 3日目 午前7時~午前11時
 朝になる、疲れているはずなのに、なかなか眠れなかった。
 ここは、僕の男子寮、寝室の中。顔を洗いに洗面所に向かう。
 携帯が鳴る。
 メッセージアプリのグループメッセージ。『クローズド・サークル 川崎奈保』と携帯の上に表示される。
 アプリを開く。
『昨日の事件は夢なんかじゃない。
 ボク達で調査してみましょう。
 これからボクとヤチは、あの遺書が気になったので大森先輩について調べてきます。
 藤っち、塚っちは二宮先輩について、
 早川先輩は蒲田先輩について調べていただけますか?
 報告会を16時に我らの部室にて行いましょう』
『わかった』と早川先輩、
『OK』と藤くんが返していたので、僕も『了解』と打ち送信した。

 僕と藤くんは月曜は一限と三限に授業がある。その後に二人で集まろうと、決め。僕は歩いて10分の大学へ向かう。
 一限の授業が終わりその場で僕と藤くんは残り、藤くんが近寄ってくる。
「なぁどうするこれから?」
「うーん、僕はあのダイイング・メッセージが気になるんだ。二宮先輩のゼミに行ってみない?交友関係とか何か手懸かりがあるかもしれない」と僕は言い二人で二宮先輩の通うゼミへと向かう
 ゼミの部屋の前に立ち僕がノックをすると、中から「はーい」と元気な女性の声が聞こえる。
 扉が開くと教授とかではないだろう、若い黒髪ショートの女性が現れる。「どちら様ぁ?」
「あ、俺達二宮先輩と同じサークルに所属しています、一年の藤沢と平塚です。二宮先輩についてお話が聞きたく、お邪魔しました」
「え?二年の二宮天祢さん?彼女はここのゼミの生徒だけど...彼女がどうかしたの?彼女に直接聞きに行くのじゃダメなの?」
「いや…聞きに行ける状況ではないので。ゼミの先生か先輩の友達に聞いた方が早いと思いまして...」藤くんが答える。確かに二宮先輩は殺されていました、死んでしまいました何て言ったら、ここでパニックになるはずだ。
「はぁ、それならどうぞ」と言われ中へと通された。中の壁には本棚があり、中には本が並べられていた。ほかにも、ひらがなやカタカナ、漢字の一覧表が壁に貼られていた。
「わたしは三年の原といいます。二宮さんの先輩になるわね。で、こちらは清水先生。日本語の起源や歴史を研究されている先生よ」と後ろに座る四十歳くらいの先生を紹介する。
「で、なにが聞きたいの?」と問われ
 僕と藤くんはここに来る前に考えておいた質問を一つずつ聞いてきた。
 ここでは箇条書きにしてみる


【二宮先輩の交友関係】
 放課後はこの部屋かサークルにいるだけだと、私の知っている友達はゼミの中ぐらいだと原先輩は言う
【彼氏なんかはいたのか】
 いるはずない。男友達がいるところを見たことも聞いたこともない。
【誰かに恨まれていたか】
 ホントになにがあったの?と聞き返されたが藤くんが誤魔化した。でも、彼女が誰かに恨まれるようなことをした、など聞いたことがない。いつも静かで大人しい性格だとのこと。
 最後に
【このマークに見覚えはありますか】
 と、僕はメモ帳に書いておいた二宮先輩のダイイング・メッセージを原先輩と清水先生に見せた。先輩は悩んだが、清水先生は一瞬で壁の方を指差し、こう答えた「これじゃない?」


 ※


 こいつらが、どこまで調査したとしても関係ない。
 完全犯罪なんだから。
 証拠なんて出てくるはずがない。

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