見出し画像

No.9 「非常套的殺人事件」第14~15話

第14話 真相 3日目 午後7時~午後8時
 
 僕は一瞬、川崎の言っている意味がわからなかった。
 しかし、川崎の顔が僕を睨み付けるようになって、意味を理解した。
「へ?」僕は驚くあまり変な声がでた。

「なんて?」

「平塚武、あなたがこれまでの事件の真犯人だったって言ってるの」
 川崎は冗談を言っているわけではないらしい。顔が真剣だ。
「どういうこと?事件は大森先輩とその妹が計画して行われたって解決したじゃないか」
「あれも、一部分はあってるはずだよ。ボクも解決したと思ってた。でもおかしな点がいくつかあるんだ」
「なんだよそれ?」
「一つは、なぜ大森先輩が森のなかで首を吊って死ななきゃいけなかったのか。ここまで蒲田先輩を殺すために念入りに計画してきたってことは、全てが終わったあと、どこかに逃げるつもりだったんでしょ。しかし、死体で発見された。
 そこで、ボクは不信に思った。森で発見された死体は自殺したのではなく殺されたんじゃないかって」
「ん?それを僕がやったってこと?」
「ああ、蒲田先輩と二宮先輩を殺したのは大森姉妹だろうけど、大森姉妹二人を殺したのは君でしょ?」
「ど、どうやって?僕はずっとみんなと行動一緒だった、それに帰りも途中まで一緒だったじゃないか?」
(やめろ、落ち着け、動揺するな)
「途中までね。そのまま引き返したんじゃないか?戻って大森先輩とあのペンションへ戻った」
「だから、どうやって?もう駅に着いた時には夕方の5時ぐらいだったじゃないか。またあの場所に戻って僕の寮に戻るまでどれくらいかかると思ってるの?帰るの深夜になって電車なんて出てないよ」
「君、車運転できるでしょ?」
(なぜ?)
「ボクは家にそのまま帰らず、君の寮の前で君が出てくるのを待っていた。怪しいと疑っていたからね。そしたら案の定、君が車に乗り運転して寮から出るところを目撃した。ずっと待っていて君が戻って来たのは深夜12時過ぎ。どんだけ長いドライブなんだ?帰りが遅くなって親に言い訳するのが大変だったんだから」
(なぜ昨日から疑われなくてはいけない?)
「なんだよそんなことしてたのか!ごめん、良い忘れてたけど大学に入って運転免許とったんだこの前やっとね。誰にも言ってなかったけど」
 僕はおどける。
「なんで、交番に行くとき言わなかった?」
「あぁ、免許を寮に忘れてきちゃって、それに他の人の車を運転したことないから怖くって」
(回避する方法はいくつも考えてきた)
「それに遺書だってある。あれは大森先輩が書いた字だって二宮先輩が言ってたじゃないか!あれは大森先輩が自分が書いたと思わせるため妹の横にあるテーブルに置いたんじゃないか!」

「だから、なんで
 あれが大森先輩の『妹』だなんて君がわかるんだ?」
「だって、三島巡査が森のなかで大森先輩の死体を見つけたって...」
(あ、しまった)
「そんなこと誰も言ってない。あれが大森先輩でペンションで毒死したのが妹だなんて誰も知らないはずなんだ。逆だって可能性もあるんだ。それに遺書に書いてある『妹』だって嘘かもしれない。『姉』かもしれないだろ。君はさっき、みんなの前で解決きたときもペンションで死んでたのが妹で、森のなかで死んでたのが大森先輩だと自信満々に推理した。そこでボクは確信した。君が少なくとも大森先輩を殺したんだって」
(ミスった。正体をあかして、こいつも殺しておくか、ここには誰もいない。虫が鳴いているだけだ)
 僕は愕然とし首を垂れる
「いつから怪しいと思った?」
「一番はじめて変だと思ったのは。あのペンションの割り振りかな、ボクとヤチ、蒲田先輩と早川先輩、が隣同士なのになぜか君と藤っちは二宮先輩を挟んで離れていた。あれは、大森先輩と君が相談できるように隣同士にしたんでしょ?」
「そんなところから?頭がいいんだね川崎って。
 あーあー完璧だと思ったけどなぁ!
 まぁいいよ話してやるよ。昔話。
 あいつ、恵は高校時代の彼女だった。俺が一年、恵が三年の時に付き合い始めた。とても仲良くて毎日のようにデートしていた。でも、あいつの家族が事故に遭い死んでからあいつは変わった、仲良かった妹も鬱になったと聞いた。それから音信不通に会えなくなり、あいつとの交際も自然消滅。ショックだったね。それで、去年の夏、久しぶりにあいつから連絡があった。2年ぶりだから嬉しかった。あいつの通ってる大学がここだってこと、ミステリーサークルに入ってることわかり、オレは勉強し、やっとここに入学できた。入学して久しぶりにあいつに呼び出され言われたのが蒲田を殺すために助けてくれってことだ。最初は意味がわからなかったが話を聞いて助けたいと思った。また恵とよりが戻れるんじゃないかと思った。だから、オレが計画し、恵に提案した。それを、あいつは忠実に行ってくれた。
妹は自殺だよ本当に。薬を隠し持ってたなんて、オレもあいつも知らなかった。妹があのペンションで自殺し半狂乱にあいつはなっていた。だから、妹を携帯で撮っていた二宮を躊躇なく殺していた。
 でも川崎、証拠は?証拠がなければオレが殺したって決まらない。あ、指紋がどうとかなんて言うなよ!妹も死体を発見した時、少しくらいは触っているはずだならな!」
 オレの口調がだんだんと変わる

 と、川崎が携帯をポケットから出す。
「あ、ごめん。今まで三島巡査に聞いてもらってたの」と通話中になっていた携帯をオレに見せる。

 オレの頭が真っ白になった、と同時に頭に血が昇ったのが分かった。その瞬間オレは川崎の首を両手でつかみ押し倒していた。
「誰に聞かれてたって意味がないんだよ!オレがお前を殺してそのまま逃げればオレは捕まらない!完全犯罪なんだよ!」指に力を入れる。
 川崎の口がなぜか笑みになる。
 そのとき、裏門の外から何かが入ってきた。その速度は速く、オレが首を絞めながら音のなったほうを振り向く前にオレの左脇腹にバットで殴られたような衝撃を受けた。オレは右に飛ばされ、むせる。そして、もう一度、今度は手で押さえていた腹に向かっている強い衝撃が受ける。コンクリートの地面をオレは転がる。
 無理やり目を開けて目の前を見るが、誰だか知らない女が立っていた。(誰だこいつ?)
「ナオ!大丈夫?遅れてごめんね。警察に電話しておいたから」と川崎の方に走りかけよる。
「あぁ間一髪、ありがとう。ヤチ!」
『ヤチ』?品川?
 目の前にいるこいつは、眼鏡を外し、いつものツインテールをおろした品川八千代だった。
「私の大切なナオになにしてくれてんのよ!」
 品川が怒鳴り、腹這いになるオレに近づく
(いつもの、おどおどした品川はどこいった?)
 品川が鞄からガムテープを出しオレの動けない手と足に巻く。完全に動けない。
 川崎も近づく。腹と脇腹に激痛がはしる、あばら骨が折れてるんだろうか。
「か弱いボクが一人で男と歩くはずないだろ?ヤチには何かあったら出てくるように言ってあったんだ。痛かっただろ?
 ヤチって高校時代の陸上部だったみたいなの。得意種目は短距離走。足が鍛えられてるみたい。脚力半端なかったでしょ?あんな俊敏に動くヤチをボクも初めて見たよ」
 横で品川は恥ずかしがっている、いつもの、品川に戻ってるが、見た目が全然違う。
 うまくしゃべれない。

「最後に聞きたいことがあるんだけど。さっき言ってた昔話が本当なのか嘘なのかはわからない。でも、蒲田先輩を殺すのを手伝う動機が大森先輩を助けるためっていうのは嘘でしょ?嘘じゃなければ今頃二人で消えて駆け落ちしてるはず。なぜ、大森先輩まで殺す必要があったの?!」

「あー、それ聞いちゃう?話しても引かないでよ」ようやくいつも通り大きな声は出せないが、呼吸ができるようになる。しゃべれるが手足は動けない。少し起き上がり、三角座りのままオレはしゃべる
「オレは恵と付き合う前から推理小説をたくさん読んできた、そのなかに出てくる殺人事件にオレは惚れた。オレもいつかここに出てくる犯人のような事件を起こしてみたい。そうずっと思っていろいろ計画してきた。そこで恵と知り合い、この大学で再びあったときに偶然あいつが面白い話を出してきた。オレはこれはチャンスだと思い、この計画をつくった。
 昨日の夜、再び車を飛ばし戻ったペンションであいつと会った。あいつがもし心変わりして警察に入っていかないようにな。駆け落ち?そんなの考えてないよ。あいつに会って、案の定、自首してくるなんて言い出した。だからオレは殺した。動機?しいて言うなら人が殺されるのがこの目で見たかっただけ。俺の計画した完全犯罪を試したかっただけだ。そのためにあいつのために計画を立てた。ただそれだけだ。」
「ひどい、人が死ぬのをゲームか何かだと考えてるの?大森先輩が抱えていた悩みを面白い話だなんて」と品川が嘆く
 どこかからパトカーのサイレンが聞こえる。こいつが、呼んだんだろう

「結局、完全犯罪にはならなかったが、お前みたいな小説に出てくるような探偵役に解決されて、思ったより悔しくないな。逆にスッキリしてるよ」とオレは笑う

「これは小説じゃない、現実だ。非常套的な殺人事件なんだよ」

 サイレンの音が、目の前で止まり、パトカーの中から。人が降りてくる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?