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No.4 「非常套的殺人事件」第4~5話

第4話 集合 1日目 午前11時~午後1時
 車から荷物を下ろす。荷物といっても1日分の着替えぐらいなので軽い。携帯の時計は11:36になっていた。車で二時間半か。木陰が多く風も通ってるので夏の太陽が出てても、暑苦しくない。
 横に大森号。その横にももう一台ある。

 三角屋根の木造の家、いかにもペンションだ。
 木造の扉の横には『管理棟』と札が張られている。蒲田先輩が扉を開け四人が入る。
 玄関に入ると目の前にカウンターがあらわれる。小さな病院や薬局のカウンターのように小さいカウンターだ。だれも立っていない。入って左手に二人掛けのソファが2つ向い合わせで置かれている。「あー、こっちこっち」
 入って右にある扉の奥から声が聞こえる。この奥に女子たちがいるのか。
 開けると居間だった、大きなテーブルがあり椅子がちょうど8脚、長方形の長い辺に3脚、細い辺に1脚ずつ置かれている。誕生日席というやつ。
 

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 テーブルの奥がカウンターキッチンになっていて、そのなかで女子四人が荷物を出している。
 食材を冷蔵庫にいれてるのだろう。
「いらっしゃい!」川崎が笑顔で僕達の前にボケて出てくる。その後ろに立つ品川。
「お前の家じゃないだろ」蒲田先輩がツッコむ。
「昼御飯は持ってきてるでしょ?適当に食べちゃいましょ」と大森先輩
『旅のしおり』の持ち物の欄に『□昼食』と会ったので、さっきのコンビニでおにぎりと炭酸飲料を買っておいた。
 と、いきなりキッチンの左奥にある扉が開いた。眼鏡をかけた見た目童顔な男性が入ってきた。男子四人は一瞬かたまる。
「あ、みんな揃ったようだね。電気もガスも全部の棟に通ってるから安心してね。」
 僕は急に笑顔でしゃべりだした彼に対し警戒する。
 大森先輩が横に立ち
「紹介するわ。ここ一帯のペンションを管理している小田原さん。」
「よろしくね。小田原です。28歳!普段はこの町の小学校教師!独身!彼女無し!
 ご心配なく。ここの確認、点検は一通り終わったからオレは帰るよ、残念だけど...」
 と横の女子たち(大森先輩だけか?)を見ながらしゃべってる。
「ここ全体の鍵は部長さんに渡してあるから、各自もらってね。各部屋の使い勝手は前に部長さんに教えてあるから聞いてね。
 何かあったらここに連絡して。携帯Wi-Fiもってるって聞いたから問題なさそうだね。」と、電話番号が書かれた紙切れを蒲田先輩に渡した。
「それじゃあね!」と、現れて5分も経たずに姿を消した。人見知りの僕は安堵する。あの見知らぬ車は彼のだったのだ。

 テーブルに8人が座り昼食をとりながら大森先輩が一人立つ。
「それでは、改めまして。○○大学ミステリーサークル通称『クローズド・サークル』夏合宿を開催します。遅くなったけど、新入生四人の歓迎もかねてるから楽しんでいってね。二日と短い間だけどよろしくね」
 はい。と、挙手する二宮先輩。ツヤツヤの長髪黒髪、前に卸したら貞子だ。
「大森先輩ひとつ質問いいですか?」
「どうぞ」
「合宿にこの場所を決めた理由を教えてほしいです」
 横に座る藤くんがサンドイッチ片手に頷いてる。
「あー。気になる?」と、目を細め怖い顔を作る大森先輩。
「安いっていうのも理由だけど、もうひとつ理由があるの。説明してもいいけど、引かないでね」
 怖がりな藤くんは大森先輩をジッとみてる。
「実はね、ここには管理棟を合わせて10軒のペンションがあるの。そのうちの一軒は鍵と南京錠がかかってて封鎖されているの?」
「の、呪われてるんですか?」と藤くん
「いや、それは分からないけど、8年前そのペンションで事件があったらしいの。殺人事件よ」
「は?マジで?」と蒲田先輩
「同じように合宿で来てたほかの大学生一組のうちの一人の女性が殺されたらしいの。でも、すぐに犯人がその元彼だってわかり捕まりました。その犯人はまだ獄中よ」
「8年前っていったらまだ俺たちは小、中学生だな」と早川先輩
「犯人もすぐ捕まり解決したから、ニュースや新聞にも大きく取り上げられなかったみたい。でも、曰く付きペンションの近くで泊まれるってミステリーマニアには好条件な場所でしょ?理由はそれだけよ。あとでそのペンション、みんなで見に行きましょ」
 藤くんが口を開き。
「あの...そういう曰く付きがある場所ってミステリー映画や小説のなかでは再び事件が起こるんじゃないでしたっけ?ほら、ジェイソンとか」
「ははっ、藤!それは物語のなかの話だ。フィクションだ!それにそういうのは雪山っていうのが定番だ。それに、もし何かが起こっても連絡することができる。Wi-Fiも俺のがある、車もある。怖がる必要ないぞ」蒲田先輩が笑ってる。
「そうだよ、そんなのは映画や小説、漫画、アニメの世界のなかだけだから、心配要らないよ」と川崎
「はぁ...」その顔はまだ不安が残っている。
「そう思って、怖がりな藤くんの泊まる場所は事件のあったペンションから一番遠いここの向かい側にしておいたから」
 と、大森先輩は壁の向こう側を指差す。

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 一人ずつ一枚の紙が配られた。そこにはペンションの配置図が書かれており、そのなかに僕達の名前が入っている。僕は向かって右沿い真ん中、大森先輩と二宮先輩の間だ。左側、管理棟のある道沿いには手前から品川、川崎、早川先輩、蒲田先輩の順だ。
「他に、質問ないかしら?食事はここでみんなでとりましょう。今日の夜は歓迎会ということで焼き肉にしましょう。お肉と野菜買ってきてて今冷蔵庫に入れたし、車にホットプレートがあるからそれで食べましょう。
 夜は女子たちで準備するから、明日の朝食は男子たちが用意してね」
 大森先輩のこの肉という単語で藤くんの顔に明るさが戻った。
 そのあともたわいない会話が続き。午後1時を回る。
「それじゃあこれから鍵を渡すから、各自の荷物を置いて、この一番右上の事件のあったペンションの前で集合しましょう。それと、この管理棟は鍵を開けておくから出入り自由よ。向こうの玄関にある受付台の後ろにトランプとかあるみたいだから自由に遊んじゃって。」


 ※


 お前がそんなにヘラヘラしていられるのも今日で終わりだ。


 ※

 ちょっと、これからの段取りをあいつと話しておかなくては。




 第5話 準備 1日目 午後1時~午後5時
 各ペンションの外見は管理棟と変わらず、どれも木造であった。
 僕は取手の上下にある鍵を開け中に入る。一昨日までの梅雨のせいだろう。ムワっとした湿気が顔に覆い被さる。靴を脱ぎ、壁伝いに手を這わせ電気のスイッチを探す。電気がつき廊下沿い各部屋を開け確認しながら奥に入っていく。洗面所と風呂場、寝室とトイレ。奥に居間がある。居間に入り、空気を入れ替えるため、奥のカーテンを開け、大きな窓を開ける。ここを出ればベランダにでる。

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ベランダにはプラスチックの一人掛けの椅子が置いてあるが雨が溜まり乾燥してできたような汚れがついている。中に戻り虫が入らないよう網戸を閉める。
 部屋のじめっとした空気が去っていくのが肌でわかる。
 管理棟にあった半分ほどのテーブルが置いてあり、椅子が4脚入っている。その横にソファと、テレビがある。キッチンと冷蔵庫は小さいが一人で1日生活するには充分な大きさである。クーラーもあるが自然の風で満足できる環境だ。
 ソファを触りホコリがかぶってないことを確認しリュックを下ろす。さっきの管理人(小笠原といったか?)が全てのペンションを掃除したのだろうか?大きな手間だったろう。
 携帯の時計を見て13:30と表示されていたので、トイレで用をたしてから外に出る。ちょうど前を二宮先輩が通り、お互い会釈をし僕は彼女をついていく。
 管理棟からこの奥の2つのペンションまで、一直線に道が引かれ少し坂になっている。一番奥に公園がある。幼児用の遊具が3つとフットサルができるくらいの広場になっている。そのまた奥は木で覆われていて太陽が出てていても暗い。
 集合場所である、ペンションの前に着いた。すでに藤くん以外の五人は着いていて、その曰く付きのペンションの周りを各自(川崎と品川は一緒に)、観察している。
 僕と二宮先輩も玄関の前に行く。入り口の柱と柱のあいだに一本のプラスチックのチェーンが張られてあり『立ち入り禁止』と書かれたこれも、プラスチックの札が掛けられている。二人で、それを跨ぎ二宮先輩が扉に鍵がしまっていることを確認した。
 そこに、「遅れてすみません」藤くんが到着。
 僕と二宮先輩が振り替える。
「あれ?他のみんなは?」と僕に話しかける
「みんな、裏に回って事件現場を見にいったんじゃないかな?ここは鍵、閉まってるし」
 そう答えると、藤くんは一瞬身震いをした。「僕たちも、行ってみましょう」と僕は二人を誘ってみる。
 ペンションの右を廻り、裏のベランダがあるところに来た。五人はベランダを囲っている木造の手すりを跨ぎ中へ入っているようだ。蒲田先輩が携帯のライトをつけながら窓に顔をつけている。カーテンは開いているようだ。
「暗くて見えづらいが、そこのテーブルの上に箱があるみたいだ」
 大森先輩も覗き「ホントね。段ボールかしら?テーブルにのってあるわね。事件現場はこの居間で起こったらしいの。首を絞められた女性がソファに座った状態で発見されたらしいの。その時この窓の鍵が開いていたらしいわ」
 早川先輩と川崎も同時に覗く。僕たち3人も手すりを跨ぎ中に入る。
「あの箱の中身は管理人さんの荷物か何かですかね?何も聞いてないんですか?」
 早川先輩が大森先輩に聞くが、大森先輩は首を横にふる。
 全員が手すりを跨ぎ越える。そこから右に曲がり寝室のあるほうへ歩いていく。寝室はカーテンが閉められていて中は見えない。
 曰く付きペンションの見廻りは終わり、各自、自由行動となる。
 僕は藤くんと管理棟に向かう。曰く付きのペンションに何もないことを安心して藤くんは安堵しているようだ。
「塚っちゃん、夜、暇なら川崎たち誘ってカードゲームなんかどうだ?」
「ごめん、藤くん。夕飯と歓迎会が終わったら部屋に戻って今書いてる小説を書いちゃおうと思ってるんだ」
「あー、そっかぁ、作家さんは遊んでる暇ないくらい忙しいのな。まぁいいよ先輩たち誘ってみるから。今書いてるのは終わりそうなのか?」
「まぁもうすぐだよ」
「できあがったら見せてくれるって約束忘れないでくれよ」
「わかってるって」
「あ、川崎!品川さん!」
 管理棟に向かって歩いている二人に気付き藤くんは声をあげ手を降り近寄る。
「二人もこれから管理棟に?とくにやることないならお菓子食べながら遊ばない?この時間なら塚っちゃんは構わないだろ?蒲田先輩と離れると携帯でゲームもできなくなるし退屈なんだよ」
「うん、この時間なら大丈夫」と答える
「ボクは構わないけどヤチはどうする?宿題のために一緒に遊んどく?」川崎が隣にいる品川に向かって話す。品川は渋々頷く。
「なに宿題って?」
「あ、藤っちはいなかったから知らないか。来る前に立ち寄ったお店で決めたんだけど、この二人異性に対しておどおどしすぎだから宿題を出したの。塚っちは私たち同学年の異性に敬語でしゃべらないこと、ヤチはボクばっかりにくっついていないで積極的に男子と話にいくこと」
「いいねそれ。塚っちゃん女の子の前だと挙動不審だからね」と藤くんがにやにやしながら言う
「高校も男子校だったからまともに女性と話したことないし。慣れようとは思ってるんだけど、なかなかうまくいかなくて...ここにくる前から一応決めてはいたんだ変わろって」僕は呟く
「だったらなおさらこの合宿がいい機会じゃん、大学デビューできなかったんだから合宿デビューしちゃいなよ」と川崎は他人事のように笑って話す。(僕たちの気持ちもしらないで)

 管理棟に入り居間には入らず左手にあるソファに四人向かい合わせに座る(なぜか僕と藤くんではなく品川が僕の隣に座らされている)、カウンター裏においてあったトランプを藤くんがもってきて遊ぶ。ゲームをしながら会話がはじまる。主に藤くんと川崎がしゃべっている。
「あーあ、もっとイベントがある合宿だと思ってたのに、夜の歓迎会だけがメインイベントとは、ちょっと残念」と川崎
「部長の『旅のしおり』は可愛くていいんだけど、中身はシンプルすぎると思わない?近くに大きな川もあるみたいだし。夏らしく川下りや川遊びしたかったのに」
「えっ?川遊び?」品川が「そんなことしたいの」っという顔で川崎を見ている。
「お金あんまりかけたくないってことじゃないの?ここだって、埼玉で一番安い宿泊施設みたいだし」
 行きの車で先輩から聞いた情報を自分で調べたかのように話す藤くん
「えーそれにしたって、安くしすぎ。夜に花火もしないなんて。ボク、ちょっと期待してたのになぁ大学の合宿。明日10時にチェックアウトしてそのまま帰るなんて早すぎ。帰りにどこかよってくださいってボク、先輩たちに言ってこようかな」川崎は文句たらたらだ。
「誰か、午後に用事があったりするんじゃないです...あ、ごめん、するんじゃない?」また、敬語になりそうだったので言い直す。藤くんは笑っている。
「それだったらしょうがないけど...」川崎は残念そうな顔を作る。
 品川は「ほっ」と安心している。(そんなに川遊びがしたくないのか?)
 ゲームと会話が藤くんと川崎のおかげで盛り上がった。
 会話のなかでミステリーを楽しむためのメディアは何かという議論になり。
 僕と川崎は小説派
 藤くんはアニメや漫画
 品川はドラマや映画と分かれ長く論じていた。
 あっというまに時間がたち時計は16:30になっていた。
 玄関の扉が開き大森先輩と二宮先輩が入る。夕食の準備があるからと居間に入っていった。「それじゃあ、ボクも」と川崎と品川がついていった。二人残されお互いのペンションにいったん戻ることにした。戻る際、大森先輩から「6時に集合ね、他の二人にも伝えておいて」と言われ管理棟を出て、早川先輩のペンションへ二人で向かう。そこには蒲田先輩も居てテレビゲームをして盛り上がっていた。藤くんも、参戦することになり僕は一人ペンションに戻った。書いている小説を少しでも進めちゃおう。


 ※


 刻々と日は沈み昼から夕方へと近づくなか、いつもの症状がわたしの頭を襲う。本当にうまくいくのだろうか。先ほどまでは、うまくいくと自信を持てたが、時間がたつにつれネガティブな考えが押し寄せてくる。
「大丈夫、あいつがどうにかしてくれるはず」
 そう自分に言い聞かせて、そのまま時間が経つのを待ち続ける。


 ※

 最終確認も済み、あとは、時間が流れ明日になるのを待つのみ。

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