チェイサー禄

第四話 謎の老婆
3人はエレベーターで一階に降りると売店へと向かっていた。売店に入ると中には武器を携えた男が1人品物を選んでいる。3人は決して大きくはない売店を隈なく探した。
「リン、ドリー、そちらに何か見つけたか?」
「いや、こっちには何もねぇ。至って普通の売店だな」
「俺これにする!」
ドリーとライゼンとは裏腹にリンはパンを選んでいた。
「おい、リン。お前ってやつはな、一応試験会場探すために来たんだぜ?」
「うん、だけど軽食買いにも来たし」
「そりゃそうだけどよ」
「それに俺いい考えあるし」
リンはニコリと口角を上げる。ドリーは頭を掻きながらライゼンを呼んだ。合流したライゼンの手にも飲み物が握られていた。
「お前もかよ」
少し呆れ気味にドリーが言葉を放つ。
「ドリーは良いのか?」
「あぁ俺はいい」
3人はレジへ向かう。そこには老婆が1人座っていた。
「680pl(パーロ)になります」
しわがれた声を発する。リンとライゼンはお金を出した。
「ねぇ、おばあちゃん。チェイサー試験のこと何か知らない?」
「おいリン、知ってても答えないだろう」
ドリーは再び呆れ声を発した。すると老婆は店の奥へと姿を消した。そして、暫くした後1枚のカードを商品の横に置いた。3人はそのカードを覗き込む。そこには試験参加書と書いてある。
「ばぁさんこれいくらだ?」
「700plになります。ただ、」
「おっしゃ、それじゃこれを三枚くれ」
ドリーは食い気味に身を乗り出す。しかし、老婆は首を横に振った。
「このカードは一枚しか御座いません」
3人は顔を見合わせる。
「ばぁさん店は何時まで開けてるんだ?」
「21時です」
ドリーは古びた腕時計に目を落とす。針は20時40分を指している。再び3人が顔を合わせるとリンが言葉を放った。
「俺に譲ってほしい!」
3人の間に少しの沈黙が流れる。
「リン、ライゼン表に出ろ」ぶきをた
沈黙を破ったのはドリーだった。ドリーの掛け声と共に3人は店の前へと出る。ライゼンは柱に寄りかかるとリンとドリーは向かい合った。
「リン、おめぇには悪りぃが此処は譲れねぇ。俺は一刻も早く大金を手に入れなきゃいけねぇからな」
ドリーの言葉にリンも頷く。
「うん、ドリーの覚悟も生半可じゃないよね。でも、俺も譲れない」
「店が閉まるまでのリミットは20分10分で蹴りをつけるぞ」
ドリーは袖をまくるとリンに飛びかかる。リンはリュックを瞬時に下ろすと軽やかにドリーを交わした。そして、すかさず拳を繰り出す。ドリーは正面から受けると腕を掴み振り回して投げた。リンは空中で身を捻ると壁を蹴る。そしてその勢いのままドリーの腹めがけて頭突きを繰り出した。
「ぐぅ」
ドリーが腹を抑え、口を開ける。
「負けるわけにゃいかねぇな」
口の周りの涎を拭うと再びリンへ殴りかかる。今度はリンも正面から拳を受けた。リンの唇から血が垂れる。
「ドリー、俺もだ!」
リンは歯を食いしばると再び走り出す。ピピッピピッ ドリーの付けていた腕時計が音を発した。
「時間だ」
ライゼンが冷静に声をかける。殴り合っていた2人の手が止まった。2人は持ち物を再び持つと顔を見合わせる。するとドリーが口角を上げた。
「俺の負けだ。ここまでボコボコにされたのは久々だぜ。あのチケットはお前に譲るよ」
リンも口角を上げると手を出した。
「ありがとう。どうやったらお金が手に入るのか分からないけど、必ず合格してくるよ」
「るせーよ。金ならいくらでも手に入れる方法はあるだろうよ。気にすんな」
2人は握手を交わす。すると売店の扉が開き、そこから、店の中にいた男が出てきた。手にはチケットが握られている。
「いいもん見せてもらったぜ、負け犬さん。因みにもう一つの情報は 問題は七の先 だぜ」
2人は目を見開く。顔を見合わせると売店の中へと勢いよく入る。そして、後からライゼンもゆっくりと中に入った。
「おい、はばぁ、あれは俺たちのもんだろうが!」
ドリーは怒声を浴びせる。
「いいえ、お題はいただいておりませんから。それはそうと此方の商品はこれでよろしいでしょうか?」
ドリーはテーブルを強く叩く。リンは肩に手を当てた。
「すまねぇリン、、」
「仕方ないよ。他の店を探そう」
2人が落ち込む中ライゼン1人は視線を泳がせていた。
「此方の商品はこれでよろしいでしょうか?」
「う、」
「ちょっと待った」
リンが首を縦に振る直前、ライゼンが机に手を出した。
「これも追加でもらおう」
手をよけるとレジ横に置いてあった サプライズフリー と書いてあるグミが姿を現した。
「それじゃあ、合計で700plになります」
ライゼンは追加分の料金を置くと続けて言葉を放った。
「追加オプションも頼む」
老婆は目を見開くと品物を2人に渡し机を人差し指でコンコンと2回叩いた。すると机から変な四角い箱が出てくる。3人はその箱に目をやった。
「こりゃどういうことだ?」
ドリーは目を丸くする。
「単純なことさ、あのカードはブラフ。そもそも、このおばぁさんは大事なことを言ってくれていた。あのカードには値段はついていないと」
「そんなこと言ってた?」
「確かに言っていた。お前たちはおばぁさんの声を遮り、早々に外に出たから聞いてなかったのだろう」
「やったー!それじゃ、3人で行けるんだね!」
「ラッキーだぜ!」
「まあ、ここからが本題だろうな。さっきの男の言葉問題は七の先と言っていたからな」
老婆はボックスに手を当てると奇妙に手を振り回し始める。
「その通り、お主らギリギリじゃったな。受付は21時まで。後、三分じゃな」
老婆は手を止め、目を見開いた。
「こ、これは、」
老婆の額に汗が滲む。
「良かろう。そこまでテンション上げんでもよろしい!ババアのババ抜き対決〜!」
急に大声でテンションを上げる老婆に3人は苦笑いを浮かべた。
「ゴホン、ここに、ニ枚のカードがある。わしから見て右からa.bとする。もし、ババを引いてしまったら残念じゃが今回はお引き取りいただく」
3人は静かに頷く。
「それでは、三人に問う。線路には二つの道がある。aの道には一人の若人、もう一方のbの道には五人のしわがれた老人がいる。さあ、どちらを助ける?」
店内に沈黙が包む。するとドリーが勢いよく机を叩いた。
「ふざけるなよ、人の命をなんだと思ってんだ!どっちを選ぶ!?選べるわけねーじゃねーかよ!」
殴りかかろうとするドリーをライゼンが止めた。
「よせ、ここで殴っても何も変わらない。寧ろ、」
ライゼンは言葉を止めた。
「そうか、これは単純なゲームだ」
「これ、これ以上の私語は認めないぞ」
老婆が言葉を呈した。
「残り、十秒」
老婆がカウントダウンを始める。ライゼンは心の中で祈っていた。 「二人とも気づいてくれ」

「しゅーりょー」
老婆が高らかに声を上げた。
「三人とも、ごうか、」
「ちょっと待って」
リンが老婆の声を遮った。老婆とライゼンは目を見開く。そして、リンは両方のカードを手に取った。
「助けたい方を選ぶんだよね?両方じゃダメかな?」
「ほう、」
「俺さ、やっぱりどっちかって選べないよ。だからさ、電車を止めるじゃダメかな?って」
リンの言葉に少し戸惑いを見せながらも老婆は少し悲しそうに微笑んだ。
「その選択肢に後悔は無いのかい?」
リンは大きく頷く。
「よし、三人とも合格じゃ。ここをまっすぐ行くといい。少し急いでな」
老婆は立ち上がると後ろのカーテンを開けた。そして、3人はその中へと進んだ。

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