残業代なんて出なくてもよくね?と思っていた浅はかな自分

運よく大企業に内定をもらった私はそう思っていた。会社が安定しており定年まで働けるだろう。同年代の平均年収と比較すれば残業代なんて出なくても大丈夫。出世をすれば楽になるだろうし、それまでの辛抱だ。そんな楽観的な考えを持っていた。

結果は2年たらずで退職してしまった。残業代は月に30時間までは支給されていたが、それを超過した分の申請はできなかった。経済的には十分やっていける額をもらっていたし、仮に結婚して所帯を持ったとしてもやって行けただろう。にもかかわらず辞めてしまうというのはもったいなかっただろうか?

どんなところで働いていたか

メーカーの工場。電気系の技術者として設備の保全を行っていた。工場は24時間稼働している。深夜にトラブルが発生すると技術者は呼び出される。眠っていてもいかなければならない。もしお酒を飲んでいればタクシーを呼んで行くことになる。結婚式の初夜に呼び出された人がいるという伝説が同僚の間で語り継がれていた。

工場は休日にも稼働しているので休日にも呼び出される。遊んでいたり休んでいるところを切り上げて工場に駆け付ける必要がある。そのため休日に遠くへ行く予定があればあらかじめ上司に伝えておく必要がある。

残業代とはなんだ

正確には残業代ではなく時間外労働手当というらしい。つまり、どのようなかたちであれ週の労働時間40時間を超えた分の手当が残業代ということだ。深夜や休日に電話で呼び出された際の手当も残業代だ。

会社では残業を減らす運動をしており、残業時間を30時間以内に抑えるように指示されていた。17時が定時なのだが18時までは残業にはならないという暗黙の決まりがあった。それでも退勤が遅れる形の残業は30時間を超えてしまう。

深夜や休日の呼び出しがあったらどうなるのか。残業時間の申請は30時間以内に抑えなければならない。つじつまを合わせるために呼び出された時間の分だけ平日には残業しなかったことにする必要がある。要するに実質的には呼び出しには手当が発生しないということだ。深夜や休日に呼び出されてタダ働きすることになる。

もちろん、工場が止まったのは設備保全が不十分だった技術スタッフの責任という一面はある。しかし、平日の設備保全に使われる時間はほとんどない。利益を上げるための省エネ化、自動化をするように圧力がかかるため、設備点検などの作業は最低限だった。

お金の問題だけじゃなかった

企業は残業代を出したくない。だからこそ労働環境を整えて業務を効率化する、無駄な業務を減らすなどの動機が発生する。では逆に残業代を出さなくてもいいとなればどのような動機が発生するだろう。

真逆のことが起こる。労働環境は悪くていい。
私が事務所で座っていた椅子はボロボロだったし机は小学生が使う学習机より狭かった。パソコンは一昔前のものでメモリはOSが動くギリギリのものだった。工場は夏場50度を超えるので熱中症対策のために休憩をとる必要がある。そのため作業が遅れてしまう。スポットクーラーなどがあれば良いのだが残業代を出す必要がないのでいくら作業が遅れても構わない。

無駄な業務はいくら増やしてもよい。
工場内の雑草を手でむしる作業をした。雑草が生えないようにコンクリートで埋めるとか除草剤をまくとか業者に頼むとかすればいいのにと陰で文句を言っていたことを思い出す。壁や手すりのペンキ塗りなども業者に頼まず自分たちで行った。ドブさらいなどバキュームカーを呼ぶべき場所をスコップで掃除したり例を挙げればきりがない。

残業代を払わないということは配慮は必要ない。何をやらせてもタダなんだから。というかタダなんだから何でもやらせないともったいない。

成れの果て

私には同じ電気技術者の上司が二人いて二人とも課長だった。二人とも優れた技術者だが考え方はかなり違っていた。

一人は指示されたことをやればいいという考えだった、金をもらって仕事をしているのだから指示されたことだけやればいい。その結果悪いことが発生しようが知ったこっちゃない。自分の責任にならないように最善を尽くす。上からの指示よりもっといい方法があると提案すると怒られた。

もう一人の考えは人に評価されなくても見返りがなくても自己満足でやるという考えだった。できるだけいい結果になるように最善を尽くす。自分の管轄でなくともできるだけ協力する。そのように私に語った時の顔は一生忘れないだろう。

二人に共通しているのはあきらめているということだろう。もし私が退職しなかったら将来は二人のどちらかと同じような考えになるという予感があった。会社のために尽くした成れの果て。そのようになりたくないと考えて退職を決意した。

辞めてよかったか?

辞めてよかったかどうかわからない。しかし、戻りたいかと聞かれたら戻りたくないと即答できる。

仮に結婚して家庭を持っていたらどんなにつらくても辞めなかっただろう。それと、過労死とかDVがなぜ発生してしまうのかなんとなくわかった気がする。

辞めた後の健康診断で心臓にT陰性が出たので退職前に検査すればよかった。

学んだこと

自分もそうだったけど、まだ社会に出ていない人は残業代が出ないということがどういうことなのか知っておこう。休日出勤と深夜呼び出しは残業ということも知っておいた方がいい。

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