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ネバーエンディングラバーズ

おしょくじくんは、ちょいちょいひとりで出かけては、どこで手に入れたんだか小さな置物を持って帰ってくる。

例えば、何処かの国の守り神とか、片割れのいないシーサーとか、マトリョーシカのいちばん中にいる小さいのとか。
僕にはその価値を理解することがなかなか難しいのだけれど、なんだか全部に哀愁があって、じっと見ていたら、ひとつひとつに物語がありそうでいろいろ想像してしまう。

その日、僕は棚に並べてある置物をひとつ手にとって、おしょくじくんに話しかけた。
燕尾服を着て小粋なハットをかぶったおじさんと、真っ赤なドレスを着て派手なお化粧をしたおばさんがダンスをしている置物で、二人ともとても満足げな表情をしている。それでいてちょっぴり太っちょで、可愛らしい。

「ねえ、おしょくじくん。僕、この置物を見て想像してみたんだ。このおじさんとおばさんは、若い時にダンスホールで出会って、何度か踊っているうちに恋人同士になった。
でもね、おじさんはマフィアか何か、とても危険な仕事をしていてずっと世界中を逃げ回ってきた。でも、おばさんのことを忘れられないから、結婚もしないでひとりで生きてきたんだ。

こっちのおばさんもそう。町の食堂で働きながら、おじさんが帰ってくるのをずっと待っていた。ある時おじさんから連絡が来て、やっと会うことができると喜んで、おばさんはとびきりのおしゃれをしてダンスホールで待っていた。
二人は何十年ぶりかに会うことができて、とてもとても喜んでいたんだ。

でも、そこにもおじさんの追っ手がやってきて、二人はとうとう囲まれてしまった。
もはや逃げられない、そう思った二人は、初めて会った時のダンスミュージックを鼻歌で歌いながら、お互い抱きしめ合って最後の時まで踊ったんだ。」

僕は、いろんな映画や本で見た場面をつなぎ合わせて即興で作った話を、そんな感じしない? とおしょくじくんに話して聞かせた。

ふーん。と、おしょくじくんが相づちを打っているとなりで、たる美とドングリングリンが号泣している。

「チャーリーよく知ってるね。でもちょっとおしい。おじさんはマフィアじゃなくて追っ手の警察の方。もう少しでマフィアのボスを捕まえられるところだったんだけど、逆に追い込まれてしまったんだよね、二人がやっと会えた時に。おばさんの方は、まあ、だいたいそんな感じだったかな。」と、おしょくじくんが言った。

へぇ、なにそれ、ほんとにそんなエピソードをもとに作られたの? この置物。と僕が聞くと、おしょくじくんは、ううん、と首を横に振って「だってさ、そのまま置物になったんだもん、この人たち。」と言った。

「愛の力ってすごいよね。」と言いながら、おしょくじくんはその置物をコトリ、と棚の上に戻した。

置き直されてこちら側を向いたおばさんの顔は、とても幸せそうに見えた。その笑顔はまだ恋や愛がどんなものか知らない僕にとって、とても印象的なものだった。

それから僕はその日、お布団に入って眠りにつくまで、その笑顔を忘れることはできなかった。

#第1回noteSSF #小説 #物語 #イラスト

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