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きみのためなら

アイスクリームが好きだ。

ひやっ、とろ、ふわ〜。一粒で二度どころか三度おいしい。お店でつくってくれるやつもいいけど、コンビニやスーパーに売ってるやつの方がいい。つくってくれるやつは、すぐに溶けてしまう。だから、あせって食べなくちゃいけない。味わっている余裕がない。一方、売っているやつはカチンコチンといっていいほどかたい。ソフトクリームならぺろぺろと少しずつなめながら、ゆっくり味わうことができる。

できれば脂肪分たっぷりの濃厚なのがいい。かき氷でもなく、糖質ゼロでもなく(ダイエットはしなくちゃいけないのだけど)。

ハーゲンダッツ、レディーボーデン、ゴディバ…昔はなんでもよかった。


でも、きみに会ってからは違う。
もう、きみしか見えないんだ。

きみと出会ったのは、冷たい雨の日だった。「金のワッフルコーン ミルクバニラ」…いやいやいや。「金の」とかつけちゃう時点でやばいでしょ? ふつうのソフトクリームとたいして変わらないのにネーミングだけそれっぽくして買わせようとか、そういう魂胆でしょ?

第一印象は、最悪だった。

当然、すぐに食べたいとも思えず、放置。恋愛だったらこんなことありえない。付き合ったばかりなのに既読スルーしているようなもの。そのくらい、きみはどうでもいい存在だったんだ。


おなかがすいて眠れない。

そんなせっぱつまったときに思い出したのが、きみだ。暗くて冷たい部屋の奥深くで眠っていたきみを起こし、夢中で食べる。

なにこれーーーーー!!!!!!!!!!

包み込んでくれるようなやさしい口どけは、まるでおかあさんのおなかの中にいるよう。食べれば食べるほど、心がゆるゆるとほどけていく感じ。冷たい食べ物にありがちなトゲトゲも、まったくない。「おいしい」というよりも、衝撃だった。

その日から、きみとのハネムーン(蜜月)が始まった。

週に3回、夏になれば毎日、きみと過ごした。きみと一緒にいるためなら、ごはんを抜いても、おなかをこわしてもかまわない。きみのためなら、なんだってできた。

どれだけの日々をきみと過ごしただろうか。どんなに悲しいことや辛いことがあっても、きみがいれば笑っていられた。恋人を1日で振ってしまうような人間なのに、きみには飽きることがまったくない。むしろどんどん好きになってしまう。

このままきみと一緒にいたら糖尿病になってしまうのではないか? シュガーホリックになってしまうのではないか? そんな不安がよぎることもある。

でも、もし体も心もこわれてしまったとしても、かまわない。きみと一緒にいられれば、ほかにはなにもいらない。

そしてぼくは今日も、セブンイレブンに向かう。


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