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シャッター

(Twitterで書いたつぶやきを転載してます)

#怖い話をかくからリツイートして

 このタグがついたツイートを読んでいて思い出したちょっと怖かった話を書こうと思います。夏の夜に少しばかりのお寒い嫌な気持ちを届けられたらなと思います。よかったら読んでいってください。

私が大学生入ったばかりのころ、相変わらずダイエットをしていて、夕方のウォーキングを習慣にしていた。いつもは家の近所を歩いていたのだが、その日はなんとなく「友達がバイトしてるレンタルビデオ店まで歩いて帰ってこよう」と思い立ち、気軽に家を出た。

…ところまでは良かったのだが、相変わらず距離の感覚が崩壊しており、片道1時間くらいかかってしまうことがビデオ店に到着した時点で判明した。「こんなにかかると思わなかったから携帯電話を持ってこなかったの失敗だったな…まあ、運動運動!(適当にごまかしている)」

ビデオ店でバイトしている友達に軽く挨拶をし、店の横にある自販機で麦茶を買い、さあ、1時間歩くぞ!と気合を入れたとき、

「カシャッ」

かすかにカメラのシャッター音のような音が聞こえた気がした。

なんとなく周りを見回したけれど、ビデオ店のお客だけでなく、すぐそばにあるスーパーやマクドナルドのお客で人通りが多く、結局、よくわからないまま帰路についた。

結構疲れてきていて、無心で歩いているうちにバイトしてる友達から聞いた「シャッター男」の話を思い出した。お店でバイトしている女性店員の後姿だけを盗撮する男が出るという話で、友達は一時期、バイトの帰りが遅くなったときは彼氏に迎えに来てもらっていたと言っていた。(店長は何も対策してくれなかったらしい)

かなり前の話だったのですっかり忘れていた。

ちょっと怖くはなったものの「まあ、まだ19時前だし、私の帰り道は大通りで人通りも車通りもあるから、できるだけ急いで帰れば大丈夫でしょ。いざとなったらコンビニから家族に電話して、迎えに来てもらおう」と思うことで不安を誤魔化す。どうにでもなる、なんとでもなる。

そう思っていても小心者なので焦りを感じて、せかせかと頑張って歩く。

しかし、夏とはいえさすがに周りが薄暗くなってきた。予想外だったのは国道沿いなので人通りはそれなりにあるだろうと思っていたが、田舎かつ電車の駅などから遠い場所のため、車はビュンビュン走っていても、歩いている人はほとんどいないのだ。

車で走り去る人は歩道のことなんてイチイチ見てないだろうし、たまにすれ違う自転車も一瞬で通り過ぎるだけ。うーん、微妙な感じだなぁ…まあ、事件もあまりない田舎だしそうそう変なことは起こらないと思いたいが…とにかく早く帰るために懸命に歩くしかない。

「カシャッ」

今度は確かに聞こえた。携帯カメラのシャッター音。背中がゾワゾワし、どっと汗が噴き出てくる。え?シャッター男の話なんて思い出したから空耳した?!でも…

おそるおそる後ろを振り返ると、かなり後方をパーカーを着た若い男性が歩いていた。手には携帯電話を持っているが写真を撮っていたという確証はない。この距離でシャッター音なんて聞こえるか?という微妙な感じ…男性との距離はまだ結構あるし、念のため、最寄りのコンビニに一旦寄ろうと決めた。

運動の汗なのか冷や汗なのかよくわからない汗をかいていると、前からランニングをしているおじさんが走ってきた。電灯がない暗闇から荒い息で突然現れたので一瞬ぎょっとしたが、後ろの男性のことを気にしていた私にとって、その場に3人目として現れたおじさんはすごくありがたい存在だった。まあ、あっちは一生懸命走ってるので一瞬ですれ違うのだけど。

気持ちが逸っているせいか、そんなに遠くないはずのコンビニが全然近づいてこない。

「カシャッ」

また聞こえた…怖いっ!どうしようどうしよう…もうマラソンのおじさんももう見えるところにいない。どうして携帯忘れてきちゃったんだろう。だって、たまたま行っただけだよ?偶然遭遇して、かつ、狙われるなんてことある?

頭の中で後悔やら恐怖がぐるぐると踊り始めていた時、男性はすっと側道に入っていった。

「あれ?」

行ってしまった…よかった…よかったぁぁぁぁぁぁ!!安易だがめちゃくちゃホッとした。シャッター音はしたけどこちらを撮ってるかはわかんなかったわけだし、シャッター男じゃなかったら失礼だったかもしれないな…シャッター男だったのかもしれないけど。とりあえず行ってくれて本当によかった…

少し落ち着きを取り戻し、さあ帰ろうと再び歩き出した時、後ろから荒い息と規則的で軽やかな足音が聞こえてきた。

「ちょっと!そこの娘!」

声をかけられたことに驚き、振り返ると、さっきすれ違ったランニングのおじさんだった。

おじさんは少し小さな声で続けた。

「ちょっと危ないから、そこのコンビニまで一緒に行こう。そこまで付き添うわ!」

え…危ない?
おじさんに促されて少し駆け足になる。

「あんたの後ろにおった男なぁ、さっきすれ違った時にちょっと様子がおかしぃて、なんか妙やなぁって気になってたんよ」

私には少し早い小走りのペースにおじさんが一刻も早くこの場から私を連れ出そうとしてくれているのを感じた。

おじさんは言いにくそうに続ける。

「あんたも後ろの男、気にしとったやろ?あいつ、他にはわからんようにやってたつもりなんかもしれんけど、携帯構えてあんたをずーっと追ってたんよ。ぴったりと」

思わず、息をひゅっと飲む。あぁ…シャッター男じゃん…確定だよ…

「でも…さっき、脇の道に入っていったみたいで…」

おじさんは首を振って小声でささやくように言った。

「ちょっと後ろ見てみ…?」

最小限の動きで後ろをちらりと見てみると…男が曲がっていった脇道の茂みに黒い影がさっと消えた。

「な?」

困った顔のおじさんに目線だけで返事をした。

「わし、さすがに気になって少し走ってから引き返してきたんよ。ただの通行人で何もなかったらそれはそれでええんやし」

汗がダラダラと流れ落ちて、どんどんと息が上がる私とは対照的におじさんは淡々と話を続ける。

「ちょうどわしが戻ってきたときにあの男があっちの側道に入っていったんが見えたんよ。それで気のせいやったかなって思ってわしも帰ろうとしたんやけどな」

「あいつ、道曲がってすぐにあんたからは見えん位置で止まって、あんたの様子をうかがってたんよ。」

コンビニの明かりがどんどん近づいてくるのに、どんどん視界が暗くなる。

「そんで、あんたが前向いて歩きだした途端にな、走って道を引き返し始めたんよ」

私はさっき見た黒い影が走って自分に近づいてくるところを想像してしまい、思わず吐き気を催してしまった。怖すぎる。

「わし、さすがにそれ見るともうちょっと声かけずにはおれんかってな。びっくりしたやろ?ごめんな」

いやいや!おじさんは恩人です!

だって、おじさんが声かけてくれなかったら…

あんなに遠く感じたコンビニにはあっという間に到着した。コンビニにあった公衆電話から家に電話をし、迎えに来てもらうことになった。

おじさんは私が親に迎えに来てもらえることを確認した後、私からの必死のお礼を居心地が悪そうに受けて、「気ぃ付けるんやで?じゃあな!」と先ほどと同じ軽やかな足取りで去っていった。

10分も経たないうちに迎えの車が来て、その10分後には家の中でお茶を飲んで、お風呂に入っていた。

家族の前では「怖かった~、何もなくてよかった!油断したらいかんねぇ、これからはもっと気を付けなきゃ…」というテンションでいたが、1人で風呂に入っているといろいろな感情や恐怖が胸にこみあげてきて、涙が出てきた。

何もなかった。そう、「何かが起こる前」に終わった。

いや、違うよ?わかってる。

これは単に「偶然に運よく」終えることができただけだ。

もしおじさんが気にして引き返してくれなかったら?もし声をかけて連れ出してくれなかったら?

私…一体どうなってたんだろう…

想像に難くないそれについて考えることを風呂の湯気と涙でぼやけた視界のせいにして事実を直視しないことでしか放棄できなかった。

多分、何かあったらまず責められるのは私だろう。

私が夕方に散歩なんてしてたから?携帯電話も忘れてたし、私の注意が足りなかったの?私が迂闊だったの?ねえ?私が悪いの?

なんで被害にあった側が偶然すれ違っただけの女を勝手に付け回して背後から写真を撮ってるクソ男の本当に勝手な「お気持ち」に振り回されなきゃならないの?

誰でもよかったんだよ、あいつは。マジで。容姿も服装もシチュエーション関係ない。ただそいつの勝手な「狙った枠」に当てはめられただけ。その枠に私はいれてほしくなかったし、誰もいれるな!!!!

…という事情と気持ちを当時の知り合いに相談したら、

「え…それって偶然見かけられただけで男の人に目をつけられたって自慢?何もなかったんだし、自意識過剰なんじゃない?ぷっ…」

と嘲笑され、私はそっと目と心を閉じた。それからこの話は10年以上誰にもしていない。そして、いずれなかったことになっていくのだろう。


この話で本当に怖いのは一体何だと思う?


答えはあなたが今見ている画面に映っているのかもしれない。


おわり















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