悪夢は鯛の背骨に飾り糸をつけるだけの簡単なお仕事
(Twitterでのツイートを加筆修正してこちらに転載しています)
昨夜見た嫌な夢の話。
十階建てくらいの吹き抜けに螺旋状のエスカレーターが通っている謎の研究所で仕事をしている。
気がつくと陰鬱な気分でトイレに座っていた。ドアの外から同僚らしき人に呼びかけられ、しぶしぶトイレから出る。どうやら、仕事をサボっていたようだ。
同僚に促されるまま螺旋エスカレーター乗り込み、職場がある2階で降りる。チームリーダーっぽい人に早速声をかけられた。
「あなたがやった作業なんだけど…これじゃ、とても使えないわ…」
困ったような申し訳なさそうな顔でそういうと、こちらへお頭付きの鯛を数匹差し出してきた。
チームリーダーはいつのまにか握っていた包丁で鯛の頭をストンと落とし、さらに鯛の背骨に沿って包丁を入れ、左身と右身に分けた、いわゆる二枚おろしの状態にした。
その鮮やかな手技をぽかんと眺める私を尻目にリーダーは鯛の切断面を指指し、注意というか指導めいたもの始めた。
「これじゃあダメなのよ?わかるでしょ?」
わからない。全然わからない。私には身を削がれた鯛にしか見えない。
呆けているような私にリーダーは呆れた声で「こんな結び目では解けてしまうし、売り物にならない」と続けた。
鯛をよくよく見てみると、太い背骨部分に黒い糸みたいなものが巻き付いている。説明を聞いているとどうやら鯛の背骨全体に飾り糸を巻きつける仕事をしているらしい。
意味がわからない。
なんで鯛の背骨に飾り糸を?売り物って…買う人いるの?
用途を尋ねてみたら、鯛を釜飯などにして身を解したときに飾り糸が出てくると美しくて喜ばれるという。
え?調理して解した後に巻いた方が美しいのでは?生のまま、中身が見えない状態で巻くのは技術はいるだろうけど…あの…
「とにかく…これじゃダメだから、次からちゃんとやってね。失敗した鯛はもう使えないから」
大きな銀のバットに整然と並べられた私が飾り糸を施したらしい10数匹の鯛はそのまま廃棄箱に滑り落とされていった。
やり直さなければ…
なんとなく頭の隅ではやり方がわかっているような気がする。
気を取り直して、仕事をしなければ。
今までだって仕事で失敗しても、改善点を見つけて、努力して遂行してきたじゃないか。鯛の背骨に飾り糸を巻きつける方法ははっきりとはわからないけど、意識を仕事モードに切り替えて手を動かし始めればだんだん思い出すはず…
なんだろう…全くやる気が出ない。
頭ではわかっているのだけど、手が全然動かない。今までできていたはずのことができない。私、おかしくなってしまったのだろうか?
説明を受けても、鯛の背骨に飾り糸を巻くことの意義が一切理解できないし、そもそも今までこんな意味不明の業務をやっていたこと自体が信じられない。(夢なので)
このままでは作業できないと判断し、絶望的な気持ちでその場を立ち去った。
螺旋エスカレーターに乗り、ひたすら上に登る。途中で夫や母から電話がかかってきたが、明るく談笑してすぐに切った。
こんなこと、どこに相談すればいいの?鬱なのかもしれない…病院を探さなければ…(これは夢の話です)
たどり着いた最上階には巨大な鯛を飼育する水槽が2つあり、その奥に水槽に挟まれるように建つ白い神殿のようなトイレがあった。
これから背骨に飾り糸を巻き付けられる運命であろう鯛たちの間をすり抜け、神殿トイレの個室にはいる。
最初もここにいたんだな…と直感的にわかった。
清潔なトイレに少し安心を感じながら、便座に腰をかける。
とにかく、このままではいけない。病院を探さなければ…検索しなければ…
長年頑張ってきたのに、このまま無職になってしまうんだろうか…少し我慢して様子を見ればよかったと後悔することになるんだろうか…
思考が沈み、真っ暗になった。
悩みすぎて意識を失っていたのか、スマホを持ったまま、トイレの便座にすわって前屈みになって丸くなっていた。
ドアの外から同僚らしき人に呼びかけられている。行かなければ。
行かなければ…
というところで目が覚めた。
ばっちり9時間睡眠で、とてもさわやかな目覚めでした。
(おわり)