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#1 『人と物3 小津安二郎』 〜ゆるり書評〜

さぁ、始めていきましょう。
デビュー戦です。
1作目に選んだのは、

『人と物3 小津安二郎』MUJI BOOKS

でございます。
MUJI BOOKSの『人と物』シリーズの3作目で、映画監督の小津安二郎氏(以下敬称略)を取り上げています。出版元の株式会社良品計画はもちろんあの無印良品の運営元です。

今回は本書について以下3点に絞ってゆるりと掘り下げてみます。

◆シリーズの構成から見えてくる、人を知る為のピースとは
◆素の自分を残しておくということ
◆日常の描写を映画で表現するということ

では、早速始めて参りましょう。



◆シリーズの構成から見えてくる、人を知るためのピースとは

まずこのシリーズ全てに通じる共通の構成があり、冒頭から順番に以下の通りとなっています。

①取り上げられている人物=小津安二郎の愛用品を写真で収めた「くらしの形見」
②本人の執筆文の中でもパワーワードを抜粋した「小津安二郎の言葉」
③本人がこれまでに残している複数の短編
④本人並びにゆかりある人物を解説した「この人・あの人」

このシリーズ構成が本書の目的を端的に表わしているわけです。

つまり人を知るためには、その人の視点を感じる言葉に触れ、愛用した物に触れ、ゆかりある人を知ることが必要である、ということです。

そしてその目的を達成するための最短且つ最小をまとめたのがこのシリーズということになります。A6ほどのサイズで160ページのとてもコンパクトな本書を読むだけで、「映画監督の小津安二郎」というよりは「小津安二郎」という人にフォーカスが当たっているように感じられるでしょう。

さらに少し踏み込んで言えば、日常的に人は自然と他者を知るためのピースを何気ない会話や出来事や周囲の人々からかき集め、理解に努めようとする生き物です。そうした一種自動で行われていることを構成として形にすることにこそ本書含めたシリーズの大きい意義の1つを感じずにはいられないのです。



◆素の自分を残しておくということ

構成を理解した上で本書を読み進めると、1つの考えに突き当たります。

素の自分の見たものや感じたものというのは、思いのほか残っていないのではないか?

現在残すという作業の多くをスマートフォンのカメラが担っています。またインスタグラムやフェイスブックにアップすることで本人の意図する形で残っていきます。ではそうしたものがどれだけ素の自分を残せているのでしょうか。

本書には小津安二郎の日常の風景描写から映画監督としての経歴や考え方などが素のまま書かれているように感じられます。解説や論説というよりはコラムと言ったほうが良いでしょう。そしてどの文章も良い意味で生々しい。決して自分を大きく見せることなく謙虚に、しかし自信のある部分は自分はできると言い切ることができる。飾らない言葉の数々により、小津安二郎の人としての愛嬌を感じずにはいられないわけです。

ここでは最も好きな言葉を引用しておくこととします。

人間の眼はごまかせても
キャメラの眼はごまかせない、
ホンものはよく写るものである。
(「小津安二郎芸談」1952年)

果たして小津安二郎にはスマートフォンを通して見る現在の日本がどう写るのでしょうか。



◆日常の描写を映画で表現するということ

小津安二郎はご存知の通り映画監督です。1番代表作としてあがるのはやはり「東京物語」でしょうか。本書でも短編の多くは映画監督しての視点や考え方を本人なりの言葉で語られています。

特に注目すべきは、日本の日常を描写することへの執念、というよりは構築する考え方が大変強固である点にあると思います。それは映画という1つのコンテンツの本質が何かを指すことにもなっているのです。

つまり映画とは、細部に至るまで作り手の意図の上に生み出された偽物・作り物の世界である、ということです。

短編の中では撮影法や俳優の演技について明確に構築された方法論が述べられ、また時には既存の方法論を疑いあえて打ち破った話など興味深い内容の連続です。明確に構築された偽物・作り物の世界である作品を鑑賞し、自分の日常に重ね合わせ哀愁を感じる。映画体験が素敵に感じられる大きなポイントなのではと、本書を読みながら気付かされたのです。本書の短編の中にはそうした映画監督ならではの視座に富んだ話に溢れています。



いやはや、1作目にして長くなってしまいました。
思考のスイッチが切れた音がカチッとしました。
ここまでとしましょう。

素人の文章は大変読みにくいかと思いますが、熱量だけでも感じていただければと。
最後に、本書は税込550円という金額に見合わない素敵なものになっております。
ぜひお手に取っていただければと。

では、次回乞うご期待。



yururi

※作品情報
タイトル:『人と物3 小津安二郎』
出版元:株式会社良品計画
価格:税込550円

#ゆるり書評  #小津安二郎

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