「一対多の丸見え現象(仮)」について

僕が思いつく程度の現象には心理学者や社会学者がすでにかっちょいい名前を付けているはずなんだけど、思い当たらないので(仮)としている。

たとえば、新卒面接で就活生の側は一所懸命に対策を練るだろう。そして用意周到に面接の準備を行うわけだが、何百人何千人と面接を繰り返している人事担当者から見れば学生の意図などは全部丸見えというか「またこのパターンかよ」みたいなことになる。あの現象のこと。

たとえば大学教師が講義室で200人に対して教えているとする。学生側はこれだけいるんだからオレ一人くらい見えないだろうと高をくくって内職しているのだが教壇からは丸見えである。この現象である。

今思い出したけど「情報の非対称性」だ。やはり(仮)よりかっちょいい名前。そういやポッドキャストのまとめでやったことがあった。経営者と従業員が給与の交渉を行う際、経営者には全員の給与が丸見えだけど従業員には自分の給与しか分からないので前者が圧倒的に有利になるという現象を指す。

ここであるエピソードを思い出した。以下、面白いので読んでください。

かつて小池重明(こいけじゅうめい)という伝説のアマチュア棋士がいた。破滅型のギャンブラーでありながらプロ棋士に連戦連勝して大山名人にもコマ落ちで勝っている。テレビドキュメンタリーでもなんどか取り上げられた。

90年代、僕がその番組を見た数日後、ある教師に連れられて飲み入った。その人はアマチュア棋士としては名の知られた人だった。僕は将棋のことは分からないけど小池重明のテレビを見てすごく面白かったという話を振ってみたら「対戦したことがある」とさらっと言うのである。

「で、どんな感じでした?(興味津々)」
「どうもこうもなかったよ。。。」

当時、先生はまだ学生であり、読売新聞杯の決勝で対戦したのだそうだ。
なんせ相手は伝説の小池重明だ。勝てないまでも一泡吹かせてやりたいと奇策を練っていったらしい。

しかし会場に入って即その気が失せたという。

重明氏は十人くらいの借金取りを引き連れて現れたそうだ。優勝賞金百万円の分け前を取ろうとコバンザメのように彼を取り囲んでいる。

重明氏自身「さっさと終わらせたい」雰囲気がありあり。
どうせ何を指しても見透かされるのだからと最短時間で投了できる手を打ってさっさと負けて準優勝の50万をもらって帰ってきたと言っていた。

重明氏と当時の先生の間には明らかに情報の非対称性がある。

こざかしい奇策を使っても伝説の棋士から見れば丸見えであり「めんどうなガキだな」と思われて終わりだ。正攻法で負けて正解だったと僕も思う。

ネットでの情報発信も同じだろう。百戦錬磨のベテラン勢から見れば僕みたいなシロウトがこざかしい手を使ったところで丸見えのはず。正攻法で愚直に行くしかない。

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