「社畜回廊」は勝ち組回廊
さいきん「社畜回廊」ということで有名になった品川駅を10年以上前に通勤利用していたことがある。ぼくはあの場所をきらいではなかった。というかかなり好きな場所だった。なぜかというとしょっちゅう物をくれるからである。
朝の品川駅前をあるいていると、出勤途中のサラリーマンむけにカロリーメイトだのアセロラドリンクだのをなにかしら配っていた。「今日は何をもらえるのだろう」と期待しつつ歩いたものだ。
渋谷界隈を歩いてもカロリーメイトやアセロラドリンクはもらえない。せいぜいティッシュペーパーだ。カロリーメイトとティッシュでは原価がちがう。ティッシュしかもらえないということは、その程度の投資にみあった連中と思われているわけである。
品川駅ではエコバッグをもらったこともあるが、中にはマンション雑誌が入っていた。雑誌は読まずに捨てたがエコバッグはいまだに使っている。昨日も、一昨日も、昨年も、五年前も、スーパーにいくときはいつでもこのエコバッグだ。
エコバッグというとアースカラーが主流だが、このエコバッグは真っ赤であり「マンションズ」というタグが付いていた(笑)。しかも生地がごつくてやぶれない。これ一つで10年以上もっているので真にエコなエコバッグである。
これをもらったということはマンションを買いそうな連中の一人として見られたということである。ぼくは派遣社員だったのでマンションを買う予定はなかったが、周りを歩いていた人でマンションの購入を考えていた人はたくさんいただろう。
つまり朝の「社畜回廊」はマンションのローンを組める人たちの歩く場所であり、それなりの場所なのである。そうでなければ「今日の仕事は、楽しみですか」なんて広告はしかけてこない。日雇い労働者の街で「今日の仕事は、楽しみですか」とやるわけない。
ちなみに当時、渋谷駅構内には、壁一面バカでかいドラマのポスターが貼られていた。ドラマが悪いわけじゃないけど、いそがしい人はいくらデカデカと宣伝されてもドラマは見ない。しかしあそこにあれを貼るにはそうとうお金がかかるわけで、渋谷を歩く人はその投資に見合った連中だと見られているということだ。ドラマのデカい広告でも見せておけばドラマを見るだろうと思われているのだ。ただし服は買えてもマンションは買えないと思われているのでマンションズのエコバッグはくれない。ティッシュとドラマの街である。
品川の通勤者が「社畜回廊」などと自嘲できるのは一種の余裕だ。その多くは丸の内を歩いている人と同じ客層であり、今の日本ではあるていど勝ち組に入る。じっさいは勝ち組回廊だ。
あそこを歩く人々を見下すことのできるさらに上の勝ち組もいることはいるけど、そんなにたくさんはいない。あのニュースを見ている日本人の大多数はそこまで行っていないのであれを見下せる感覚がいまいちわからない。
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