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目的は手段を正当化するのだろうか?

「はだかの王さま」という寓話を知らない人はいないだろう。にもかかわらず、いつの時代も人は「はだかの王さま」を繰り返す・・嗚呼。

「すばらしい、りっぱな服だ!」と、みんなほめたたえるのでした。

アンデルセン「はだかの王さま」

「でも、王さま、はだかだよ。」
 とつぜん、小さな子どもが王さまに向かって言いました。

こういう風にいえるのはこどもだけだ。

さて、ぼく自身は、大人の事情ゼロでこのnoteを書いているので、ある意味、こどものようなものだといえる。アクセス数で食ってるわけではないし、失うわけにはいかない信用も地位も持ち合わせていないので、いわゆる無敵の人に近い。

であるからして、こどものようなスタンスで「王さま、はだかだよ。」というような話を今日はしてみようと思う。あらかじめ言っておきますが、多くのエライ人にとっては、けっして耳に心地よい話ではありません。

O谷選手の話から斬りこんで、ベトナム戦争、そしてウクライナ報道につなげていきます。

O谷選手をめぐる騒動

話題のニュースに対してああだこうだいうのはホントはイヤだし、だまっていたい。しかし、ウクライナ報道をめぐる根本的な問題をわかりやすく説明するには、O谷選手の話から説明するのがわかりやすいので、ここから始めよう。

かれをめぐる疑惑と、ウクライナ報道には共通点があって、それは、あからさまな事実から多くの人が目をそらそうとしている、ということだ。

みんなにとって望ましい未来を実現するために、不都合な現実から目をそらそう

としている点が同じだ。

「O谷さんに活躍してもらいたい」という願望

ぼくを含めて多くの日本人は、O谷選手にさらに活躍してもらって、ワールドシリーズを制覇してもらいたいと思っているだろう。

彼の活躍を望んでいるのはなにも日本人だけではない。人気が凋落しているMLBにとっても、人気回復のためのかけがえのない存在だし、アジア市場を開拓するうえでも欠くことのできない起爆剤だ。

事情はドジャースも同じことで、彼に投資した資金を何倍にもして回収しなければならない。

スポーツメディアもしかりで、このスーパースターの活躍を通じて、スポーツ界がさらに盛り上がることを望んでいる。

このように、いまのところ

O谷選手がさらに活躍する未来こそ望ましい

という点で、多くの人の利害が一致している。

そして、この「だれにとっても望ましい未来」を実現するためには、不都合な事実からは目をそらしてもいいのだと多くの人が思っている。

スマホを触ったことないの?

ぼくだってO谷さんが賭博に手を染めていたなどとは思っていない。

とはいえ、昨今は、銀行から1万円動かすにもスマートフォンで2段階認証が必要な時代だ。7億円ちかいおかねが自分の口座から引き出されているのにもかかわらず、彼がそれに気づかなかったという主張を丸呑みするのはムリである。

もし本当にそうなのだとすれば、O谷さんは、そんなありえないことが起こった背景を相当気合を入れて説明しなければならない。

たとえば

銀行の二段階認証はこれまで全部〇平さんに任せてきたので、スマホはいちども触ったことがありません

とか

銀行から1円引き出すにも、いつも〇平さんに頼んでいました

などなど。そういう風に説明してもらえば納得できなくもないけど、その点をあえて説明しようとしない時点で、あからさまな事実を隠蔽しているような気持ち悪さが残る。MLBもドジャースもそこから目をそらそうとしているし、世間もそうだし、ぼくもこないだまで目をそらしていた。

理由は、できればかれに活躍してほしいからである。O谷さんが活躍するためには、あからさまなウソを容認してもいい。正しい目的のためには、まちがった手段でも許される、と思っていた。都合の悪い事実からは目をそらしたかった。

このよう書いてくると

まあまあまあ、そんな細かいことに目くじらを立てなくてもイイじゃないですか

という風にいう人もいるだろうが、そこをナアナアで済ましていると、それが積み重なった挙句に、メディアは、権力を監視するという役割をいつのまにか担えなくなり、その先にベトナム戦争があり、ウクライナ報道があるのだ。

アメリカ政府のついた嘘

スピルバーグの『ペンタゴン・ペーパーズ』を観ながら、そういうことを思った。

この映画に描かれているのは、ベトナム戦争の頃のNYタイムズのスクープである。当時、国防総省の機密文書を、NYタイムズがすっぱ抜いたのだ。

その機密文書には、政府が「ベトナムでは勝ち目がない」とわかっていたにもかかわらず、国民には「勝てる」とウソをついて大量の若者を戦地に送っていたことが記されていた。

これは国民に対する背信行為だといえるが、とはいえ、そもそも機密文書を盗み出すこと自体が国家に対する背信行為なので、NYタイムズが国家反逆罪に問われる可能性もあった。

アメリカを裏切ったのははたして政府なのか、それともNYタイムズなのか?

映画のラストでは、NYタイムズに無罪判決が下る。その直後にウォーターゲート事件が発覚してニクソンは退陣に追い込まれるので、アメリカを裏切ったのは、NYタイムズではなくて政府だったというのが当時のアメリカの判断だった。

このように1970年代には、メディアが権力の監視装置としての機能を果たしていた。

「善意のウソ」は許されなかった

とはいえ政府だって、悪意があってウソをついていたわけではないだろう。当時は、共産主義=悪だとされていたので、ホワイトハウスは「このままではアメリカが"悪"にほろぼされてしまう」という追い詰められた恐怖心からウソをついたのだろう。言い換えれば、政府は、

アメリカにとって好ましい目的を達成するためには、国民にうそをついてもいい

と判断したのだと見ることもできる。

以上を、ウクライナ報道に置き換えてみるとこうなる

・ロシアは悪であり、民主主義陣営が善である。

・善が悪に打ち勝つのが「全人類にとっての好ましい未来」だ。

・好ましい未来を実現するためには、都合の悪い事実は隠ぺいしても構わない。

・いいかえれば、正しい目的を達成するためにはまちがった手段を使っても許される。

ウクライナ紛争が始まって以来、こういう暗黙の合意が、先進国の主要メディアのあいだで成立していたように見える。

現在では、ベトナム戦争当時のNYタイムズのような、権力に対抗するメディアはいないので、報道全体が大政翼賛会化している。官民を挙げて、都合の悪い事実から目をそらそすことが行われているように見える。

だからこそ、ネット上にそれへの対立軸が生まれて、社会の分断という事態に陥っているのではないか。

目的は手段を正当化するのか

ちなみに専門家でもなんでもないぼくが2年前に知っていたことを列挙しておくと、

・紛争開始当初から、ウクライナに勝ち目はないと言われていた。

・当時から、ロシアの砲弾10発に対してウクライナは1発しか持ち合わせがないことを一部のまともなメディアは指摘していた。

・兵士の犠牲者数もウクライナのほうが多いと推定されていた

さらに
・経済制裁はロシアに効き目がなく、むしろNATO諸国の首を絞めるだけだということも指摘されていた。

そして現在、その通りの未来が訪れているのだが、その「不都合な事実」を主要メディアは発表しなかった。

そもそも、紛争の引き金をどちらが引いたのかについても十分な検証はなされていない・・というより、検証はされているんだけど主要メディアはその事実をいっさい掲載しない。

悪いヤツがやったに決まってるだろ!だって、そいつらは悪いんだから。

という幼稚園児のような理屈がまかり通っている。

ブチャの虐殺も、双方の軍が加担していたことが大体明らかになっているのだが、西側メディアでは一切公表されない。

なぜこのようなわい曲がまかりとおっているかといえば、

目的は手段を正当化する   by トロツキー

とみんなが思っているからだ。良い目的のためにはウソをつくことも許されると思っている。

O谷選手に活躍してもらうためなら、ウソも許される・・

共産主義の拡大を防ぐためなら、ウソも許される・・

"悪のプーチン"をほろぼすためなら、ウソも許される・・

ついでに、"悪のフセイン"をほろぼすためなら、イラクに大量破壊兵器などなかったにもかかわらず、あるとウソをついても許されるのであった。

人間は歴史から何も学ばない

歴史から学ぶことができるただ一つのことは、人間は歴史から何も学ばないということだ   by ヘーゲル

という言葉をぼくなりに言い換えるなら、

人間は「はだかの王さま」を何百回読んだとしても、「すばらしい、りっぱな服だ!」と言うのを止めないものである

といったあたりになるだろうな。

ここまで指摘したことは、O谷選手の問題と同じで、希望的観測を捨てて目を開けばだれにでもみえることだ。えらい学問がなくても、現場にいなくても、影響力がなくても

王さまははだかだ

ということくらいは、子どもでもいえるし、ぼくでもいえる。にもかかわらず、エライ人たちがよってたかって「王さまがはだかだ」ということを言えないというのは、じつに不思議に感じるけど、大人の事情ってのはまあそういうもんなんだろう。

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