宮本武蔵の「助けてくれ」

「助けてくれ」と頭を下げるには勇気がいる。

動物にたとえれば相手に腹を見せて寝転がるようなこと。
ちんけなプライドを捨てなければならない。

本当に困った時、
ぼくはすなおに「助けてくれ」と言えるだろうか。

井上雄彦氏の『バガボンド』というマンガがある。
宮本武蔵の生涯を描いている。

第26巻では、すでに吉岡を打ち滅ぼし、天下無双の呼び声が高まったのちの武蔵が「助けてくれ」と武家に土下座するシーンがある。

当時の武蔵は、しばらく剣を置いて農村で田植えに熱中している。
その村を飢饉が襲う。餓死者が増えていく。

その村人たちを救うための「助けてくれ」だ。

剣を振り回したら誰にも負けない。
そういう男が、村人の食料を乞うために土下座する。

頭を下げられた武家の側は、天下無双が自分に頭を下げているという事実に、そうとうの重みを感じている風だ。

そりゃそうだろう。天下無双なんだし。
チャンバラをやったら誰にも負けないんだし。

だが、武蔵の側にそういった葛藤は見られない。
下げたくない頭を無理やり下げている感じはまったくないのである。

ただ必死に頭を下げる。

「どうか助けてくれ」と。

これがすごいよね。

イネや土や水やおひさまがなければどんなに剣が強くても役に立たないということを肌で知っている天下無双。

純粋に剣を振ってきた人が、純粋に鍬をふるう。
その純粋さから出た「助けてくれ」だ。

あれだけ強い武蔵が助けを乞うのだから、僕らがためらう必要はない。

本当に困った時にはスパッと頭を下げて「助けてくれ」と土下座できるようになりましょう。お互いに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?