見出し画像

モモレンジャーの思ひ出

こないだジャッキーチェンの『ベスト・キッド』という映画を見たんだけど、暖かみのある良い作品だった。

いじめられっ子がジャッキーにカンフーを教えてもらって強くなるという話で、舞台は北京市内ということになっている。しかし、トレーニングの最中に、万里の長城をランニングするシーンがくりかえし映る。

北京から万里の長城までバスで片道2時間かかるそうなので「脚力を鍛えるためだけにそこまで行くわけないだろ!」などとつい思ってしまうのだが、そこは映画だから別にいいのである。

しかも、ジャッキーが万里の長城で撮影するとなれば、地元の観光協会などは大騒ぎしてたのしい思い出になったのではないか。

また、北京市内のカンフー道場のシーンでは、フットボール場くらいの広さの中庭に、真っ赤なカンフー着をきた数百名の生徒が整然と並んで一斉に型を演じるのだが、「北朝鮮のマスゲームかよ!」と思いつつ見た。

カンフー道場がそんなめんどくさいことをやるわけないけど、これも映画だから別にいい。見栄えがしてたのしければそれでよくて、リアリティは必要ない。

カンフー道場に出てきた数百名のエキストラの男の子たちも、赤い服を着てハリウッド映画に出演できていい思い出になっただろう。こういうのは見ているほうも楽しいし、現地の人々も楽しいし、まさにウインウインであって、文句をつけているヤツだけが不幸なヤツである。

東京ー神戸30分

おなじことはいろんな映画にあてはまる。『007は二度死ぬ』(1964)という作品は日本が舞台になっているのだが、ショーンコネリーのボンドは、都心の「ホテルニューオータニ」からオープンカーに乗って出発し、30分ほど走って

神戸についた

などと言うので、日本人からしたら「時空が歪んでいるのだろうか」と思ってしまうのだがこれも別にいいのである。外国の人にとっては名神とか東名とかどうでもよくて、たのしければそれでいい。

また、丹波哲郎が指揮している忍者の城がでてきたりするけど、

そんなものあるわけないだろ!

などと思う必要もない。外国人にしてみればエキゾチックな感じが楽しいのでこれでいいし、姫路城で撮影したそうだから現地の人にすればちょっとしたお祭り騒ぎになって、いい思い出になっただろう。

アカレンジャーの中の人

ぼくも子供の頃にそういう思い出がある。地元に秘密戦隊ゴレンジャーのロケがきたのである!こどもたちは学校帰りに

みにいこうや、みにいこうや

と大騒ぎし、どうせならゴレンジャーのサインをもらおうということになったんだけどだれもサインなどもらったことがないので色紙というものの存在を知らない。「とりあえず画用紙でいいんじゃないか」ということになって、みんなで画用紙をもってロケ地に向かった。

ロケ地は地元の海岸から400mほど沖合にある小島で、子供は50円で渡し船に乗れる。しかし現場に行ってみたら、ゴレンジャーはおらず

アカレンジャーのコスチュームを着た知らないおじさん

だけがいた。おじさんじゃなくて「中の人」である。あてがはずれで残念だったけど、とりあえず赤い服のおじさんにサインを頼んだら、しぶしぶという感じで書いてくれた。ただし、そのサインはうちに帰ってすぐどこかに消えてしまったので、自分でも価値を感じていなかったのだと思う。

また、後日、たのしみにオンエアを見たのだが、その磯場のシーンは一瞬しか映っていなかった。

まず、その島から数十キロ離れた海水浴場が映り、そこでアカレンジャーが

トゥッ

とジャンプすると一瞬だけその磯場に着地して、それから全然知らない場所に行ってしまった。

数十キロも離れた海岸からジャンプしているのがそもそもウソくさいし、何時間も見物したシーンが一瞬しか映っていのでがっかりしたんだけど、そんなことを思うのは現地の人間だけで、全国のちびっこは楽しく見ているのだからそれでいいのである。

しかも、そのロケで一番の思い出は帰り道にある。

モモレンジャーがいた

帰りの渡し船に乗ると、なんとそこに

本物のモモレンジャー

が乗っていたのである。ピンクのコスチュームを着た「中のおじさん」ではなくて、本物のモモレンジャーことペギー松山役の女優さん(小牧りささん)が、番組のコスチュームのまんまで乗っていた。

ぼくの記憶にあるのは、白のブラウスに紺のミニスカートなのだが、いま画像検索してみると、白のブラウスに紺のホットパンツだったらしい。長くてすらっとした足をおぼえている。

田舎のオヤジどもは、本物の女優さんの長い足にさぞ悩殺されたことだろうが、ぼくは小学2年生だったので何も感じなかった。そのかわり目はヒザに惹きつけられたのである。小牧さんは

膝小僧にバンドエイドを貼っていた

のだった。「世界を守るゴレンジャーがバンドエイド・・」というリアルさに、がっかりという以上のなんともいえない正体不明の

生々しい感じ

がしたことをおぼえている。今にしてみれば、あの感覚はまだ性に目覚めていない男の子が女優さんの膝のバンドエイドに、正体不明のエロスの先駆けのようなものを感じて、グロテスクな気分に陥ってしまったのではないか。

まあ、あれだけ露出の多いコスチュームでアクションシーンを演じたら、体中に生傷が絶えなくて大変だったに決まっているんだけど。

ゴレンジャーと言えば?

とにかく、戦隊シリーズの記念すべき第一作である「秘密戦隊ゴレンジャー」は伝説の作品であり、当時の子供たちにとってはいまだに神話的な存在として位置付けられている。しかしぼくにとってのゴレンジャーは

モモレンジャーのひざのバンドエイド

のイメージに集約される。いまかりに50代のオヤジどもに、連想ゲームをやって

ゴレンジャーと言えば?

と聞いて、

ひざのバンドエイド!

と答えるのはぼくだけだと思うので、本当に貴重な思い出だ。ロケって現地の人にとっては忘れられない良いものである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?