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むかしの金持ちはみなウイスキーを飲んでいた

日本酒が、高級酒のようにいわれはじめたのは90年代のはじめあたりからだ。

いわゆる端麗辛口ブームである。

それまではポン酒とよんでバカにされていた。

刑務所のごはんを「クサい飯」という人がいるけど、当時の日本酒はまちがいなくクサい酒だった。

庶民の酒であり、赤ちょうちんが似合う飲み物だった。

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それまでは、高級酒といえば洋酒。

といっても、ウイスキーとブランデーだけである。

テキーラだの、ジンだの、ウォツカだのはない。

サイドカーも、マンハッタンも、ジンリッキーもない。

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むかしの映画をみると、金持ちはみなウイスキーを飲んでいる。

以前、石原裕次郎の『黒部の太陽』という映画についての記事をアップしたんだけど、そういう感じがよく出ている。

石原裕次郎が三船敏郎のところを訪ねていくと、ウイスキーをコップに注いてもてなされるシーンがある。

氷も入っていないし、ソーダで割っていもいない。チェイサー(水)もついていない。

どストレートだ。

ウイスキーの濃さは日本酒の3倍くらいある。

今、こんなものをいきなり出されたら、客は「氷か、ソーダかなにかないでしょうか」と聞くだろう。

しかし、裕次郎はあたりまえのようにうけとって、だまってあおるのである。

当時はあれしかなかったのだ。

大手ゼネコン幹部(三船)のウチをたずねていって、出てくるサケといえば、高級ウイスキーしか考えられなかったのだろう。

いま見れば、これもまずしさである。

高級品からにじみでるまずしさというのがあると思う。

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トレンディドラマの全盛期に、主人公はみな"マンション"に住んでいた。

それを見ている人の多くが住んでいたのは、団地かアパートだ。

「東京にいってああいう暮らしがしたい」とあこがれる若者が多かった。

でも当時のドラマに出てきた高級マンションのセットは、今見るとかなり安いっぽい。

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ある時代にある国で多くの人が欲しがるものは、その国のその時代の豊かさのイメージをあらわしている。

ただし、豊かさのイメージには限界があるので、それはそっくりその国のはまずしさを表しているともいえる。

いまのこの国の貧しさをあらわしている、豊かさの「イメージの限界」とはいったい何なのだろう。

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