"おっちょこちょいな店名"マニアが語るスナック「今でしょ!」の今
おっちょこちょいな店名がスキである。
たとえばスナック「おニャン子クラブ」とかスナック「今でしょ!」といった名前の店だ。
最初はスキというよりむしろ嫌いだった。そういう店名を発見するたびに「こまったもんだ」と思っていた。
店の名前というのはかんたんには変えられないのである。だから、おっちょこちょいな付け方をすると、流行が去った後で困るのだ。
ほっときゃいいのに、ついつい気になる。すでに30年以上ウォッチしているおっちょこちょいな店もある。というわけで、もしかしたら、ぼくはおっちょこちょいな店名マニアなのではないかと最近おもうようになった。
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ウチの近所にかつて、K-〇という某格闘技団体の名前をそのまま流用した店があった。
前をとおるたびに「おっちょこちょいな店主だな、こまったもんだ...」と余計な心配をしていたのだが、その格闘技団体が消滅するとともに、案の定、その店も閉まってしまった。
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しかし人のことは言えない。ぼく自身もその手のおっちょこちょいをやってまっている。
じつは婚姻届けをかなりおっちょこちょいな日に出してしまったのである。未だに結婚記念日がくるたびに妻になじられる。修正もできない。
「オレのK-1な日」と呼んで心の戒めにしている。
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しかし、おっちょこちょいな店の中にはバカにできないものも存在する。
実家の近所にスナック「ゆーふぉ」とスナック「ネッシー」というのがあった。お察しの通り、どちらも昭和50年代のUFOブームとネッシーブームのころに開店した。
だが、どちらもその後30年以上続いた。「ゆーふぉ」に至っては、いまだに営業しているらしい。おっちょこちょいな店名でもこれだけ続けばもはやおっちょこちょいとは言えない。
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実家の近くにはかつて「エイティー〇原」という名前のブティックも存在した。
80年代後半にできた店なので、「あと数年して90年代になったらナインティ〇原になるのだろうか?店主はどういうビジョンで経営しているのだろう」とじつにおせっかいな心配をしていた。
しかし90年代がきても「エイティー〇原」はエイティーのままでシラーッと営業を続けてぼくを悔しがらせた。
やがて2000年が近づくにつれて「聖飢魔II」問題(せいきまつもんだい)もとうぜん発生するわけだが、そこもシラーっと乗り切って、2010年代をすぎても「エイティー○原」のままで営業を続けた。
そのころになってはたと気づく。
もしかして店主は"80歳までがんばるぞ!"という意味で"エイティー"と名付けたのかもしれない。長年誤解したぼくがわるかった!と。
だが、この「エイティー○原」もしばらくまえに閉店してしまったので真偽のほどはわからない。
アイドルグループV6の年長組もいまだに「トニセン(20th センチュリー)」として20世紀を背負って活躍しているので、2000年問題はぼくが思ったほど深刻なものではなかったのかもしれない。
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古谷三敏『レモンハート』という酒マンガがある。ぼくが学生時代からあるマンガだが、今でも連載中だ。
どんなサケを頼んでも出てくる魔法のような店レモンハート。マスターが傾けるサケのうんちくに感心しつつ、ときに常連たちが繰り広げる人情ばなしにホロっとさせられる。そんなマンガで、ぼくもかなり読んだ。
いま流行りのグルメマンガの嚆矢(こうし)だと思う。
ところがある日、妻が練馬区の大泉学園を歩いていて、レモンハートという名前のバーを見つけたという。ぜひ行ってみたいと。
それを聞いたぼくは「そいつは"おニャン子クラブ"のクチだよ。マスターがおっちょこちょいな人なんだろう。古谷先生に訴えられたらどうするつもりなんだ?」という反応をした。
しかしあるときキンドルで『あの頃、レモン・ハートで』という本を見つけてしまったのである。マンガではなく、大泉学園にあるBarレモンハートについて書かれた本である。著者は古谷三敏。
そう!大泉学園のBarレモンハートは、おっちょこちょいなファンの店ではなくて、正真正銘、古谷先生の経営するお店だったのである。
かつて先生自身が店に出ておられ、今はお孫さんが切り盛りされているそうだ。そのお孫さんがまた、あのエアーバンド「ゴールデンボンバー」の元ドラマーときたもんだ。
さすがに東映アニメの大泉学園。「銀河鉄道999」の発車メロディーが流れる大泉学園だけのことはある。
なんとなく敷居が高くなってしまって、いまだに行けない。妻は「もうちょっとお酒の勉強したらいく」としか言わなくなった。
そういうわけで、おっちょこちょいな店名というのはまことに奥が深い。これからも趣味の一つとしてウォッチを続ける。
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