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『リコリス・リコイル』のキズはどこに刻まれているか?


こんにちは。筆者のユルグです。

今回も恒例、「奥行きのあるラジオ~2022年夏アニメ終わったよ編~」で紹介された、視聴本数50本の中から3位なった作品『リコリス・リコイル 』の投稿文の全文(加筆修正版)です。
最後におまけとして【2022年夏アニメランキングベスト50】もあります。


⚜はじめに


巷のハケン『リコリコ』は3位。
どこまで欲張るかで評価が変わってきそうな作品。キャラクター造形と作画クオリティという長所と、どこまで詰められて考えられているのか不明な設定と展開が気になるという短所の両方がはっきりしているといえる。
視聴者が乗りたいと思った作風と制作側のシンクロという幸福なマッチングが様々なレイヤーで微妙にズレていたのが観測されたのがむしろ興味深い。その中で1話から指摘されていた意見と最終話後に抱くことになった2点について少しだけ考えたあと、それら本作の瑕疵キズといえるものの意味について少しだけ記したい。

⚜リコリコ世界の軋み

初っ端の世界観説明にある社会の危険分子を法外に排除するという現行の法治国家としてはあってはならない設定と、さらにその治安維持の任に就いているのが年端もいかない女の子であるというグロテスクさにぎょっとしたものだ。
一見そうは見えないが殺処分の保安処分というとんでもないディストピアであるはずのその世界が、異常に、しかし平凡に、不気味なほど明るく描かれているのは、意図的なものなのではあろう。しかし、DAが(まねけではあるが)さほど否定的に描かれることなく、むしろそれに敵対する真島が登場することから、結局最後までこの社会システムをどう評価すべきなのかという視点がどこか宙に浮いてしまった感がある。これは「予防拘禁」と検索すると「リコリス」とサジェストされるほどには議論を呼んだようだ。つまり「制作者側はもしかしてこういった世界が良いものと考えているのではないか?」というわけだ。What do you think?

「この作品はフィクションです」で処理されるはずのかような外的な雑音は実際のところ問題含みである。
千束が真島が目論むDAの暗部の社会的暴露という目的に葛藤することもなく、己の信念に従った行動を貫いたのであるのだから、彼女はこの社会の負の部分を背負う意思と、それでも叶え体現したい“なにか”を示してくれなくてはならない。
つまりこれは「千束の心臓の問題」に関わる。作品が明確にDAとその恩恵に与っている社会を糾弾しなかった展開、つまり他のリコリスたちの犠牲を等閑視する残酷な世界を維持することと引き換えに際立たせたものが何であったかが問題になっている。それはうまくいっているのか。

⚜ふたりのありうべき関係性


残酷な社会システムと引き換えに描くものとすればそれは「千束とたきなの関係性」となる。そこで重要な要素となる「千束の心臓の問題」、つまり死を覚悟して生きてきた千束の意志もまたどこか宙に浮いてしまったのではないかということが気になるのだ。
たきなも、ミカも、千束からの「生きたい」という言葉を聞くべきではなかったか。
思えば本作の魅力のかなりの部分は千束の独特のパーソナリティから発していたはずだ。あのどこか芝居がかった言動とリアクションは彼女があと僅かな命であることが視聴者に告げられて初めてより深く理解されたはずだ。そうであるからこそ千束がたきなとのであいをあれほどまでによろこんだことが何よりも尊い。
短く生きることを覚悟した千束と、ともに生きてほしいたきなの対立を最後までもっと深めて描き、かあるいは(意図しない吉松の死によってなどで)望まぬ生という、どちらにせよ視聴者にとっても苦味のあるラストとなるべきだった、そういえるだろうか?ここでも制作側は視聴者の乗りに乗ろうとしてそれが結果的に作品の完成度という指標からはズレてしまったように感じてしまう。

⚜まとめ

整理すると、あるべきではない社会システムを打ち倒すことがもはやできない(するべきではないとではかなり話が違ってはくるが)という絶望的な現状認識の反映の具現化、その汚濁の中で、だからこそひときわ輝くものとして「千束とたきなの関係性」を描くというのであれば、それは一つの選択であり強度のあるものになり得ると思われるが、千束の余命という重要なところを曖昧にしてしまったことで不全感を残すものとなってしまったのではないだろうかというこにとなる。彼岸花としての、死屍累々のリコリスと引き換えに存在する関係性として、もっと真正面から描かれていればどうであったか。Again. What do you think?

ともかく諸説紛々、様々なツッコミを入れながらの視聴は楽しい。贅沢で豪華にもかかわらず「こういうのでいいんだよこういうので」という深夜アニメの生態系であるべき、あってほしいニッチを占める作品であることは間違いない。

と綴ったところでこうした瑕疵キズの意味をひっくり返してしまうことが本作の真意のようなものとして受け取るべきではないかと思い直すこともできよう(なんだか非常に持って回った言い回しにならざるをえないのだが)。

⚜彼女の意志、彼女の自由


筆者は以下のように記した。

千束が真島が目論むDAの暗部の社会的暴露という目的に葛藤することもなく、己の信念に従った行動を貫いたのであるのだから、彼女はこの社会の負の部分を背負う意思と、それでも叶え体現したい“なにか”を示してくれなくてはならない。

たきなも、ミカも、千束からの「生きたい」という言葉を聞くべきではなかったか。

短く生きることを覚悟した千束と、ともに生きてほしいたきなの対立を最後までもっと深めて描き、死かあるいは(意図しない吉松の死によってなどで)望まぬ生という、どちらにせよ視聴者にとっても苦味のあるラストとなるべきだった……

④死屍累々のリコリスと引き換えに存在する関係性として、もっと真正面から描かれていればどうであったか。

こうした筆者(視聴者)の期待に反抗する、あるいは脱臼することこそが本作の提示した価値観なのかもしれないということ、それもまたありうる見方だろう。

①②③にあらわされる千束への(死すら望む)過度な期待。のたきなとのありうべき期待。それは真島や吉松が千束へ求めた期待と同根のようなものに見えてくる。
であるならば千束の意志とは、真島の求めたDAという社会の歪みをただすことでも、吉松が用意した殺しの才能のある種公共的な活用でも、視聴者が欲したたきなとのありうべき関係性でも、そのいずれでもない彼女特有の自由、その不可侵性にこそ宿りうるものではないか。
千束は真島の、吉松の、わたしたちの期待と願望をはっきりと拒否する存在だった。
幾重にも重なる彼女の縛めから解放すること、いや、解放するというのもおこがましい言い方だろう。彼女は徹底してわたしたちに無関心なのだ。いつもフィクションの少女になにかを背負わせる構造についてあらためて考えてみること、それが本作の瑕疵キズに見えたものをひっくり返してころがり出たものとなる。

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2022年夏アニメランキングベスト50

1.メイドインアビス 烈日の黄金郷
2.よふかしのうた
3.リコリス・リコイル
4.Extreme Hearts
5. 連盟空軍航空魔法音楽隊 ルミナスウィッチーズ

6. ちみも
7. Engage Kiss
8. シャインポスト
9. プリマドール
10.てっぺんっ!!!!!!!!!!!!!!!
11. 彼女、お借りします 第2期
12.邪神ちゃんドロップキックX
13. 咲う アルスノトリア すんっ!
14.新テニスの王子様 U-17 WORLD CUP
15.ラブライブ!スーパースター!! 第2期
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17.5億年ボタン
18.うたわれるもの 二人の白皇
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20.ユーレイデコ
21.最近雇ったメイドが怪しい
22.東京ミュウミュウ にゅ~
23.ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅣ 新章 迷宮篇
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26.はたらく魔王さま!! (第2期)
27.メガトン級ムサシ シーズン1特別篇
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37. オリエント 第2クール淡路島激闘編
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39.オーバーロードⅣ
40.ようこそ実力至上主義の教室へ 2nd Season
41.黒の召喚士
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43.異世界迷宮でハーレムを

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