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ヒトの生み出す文はすべてXバー理論に従う【生成文法シリーズ補足④】

ゆる言語学ラジオの生成文法シリーズは、動画内でも述べた通り、正確性をかなり犠牲にしています。また、従来の生成文法の入門書で必ず触れているような基礎的な事項も、エンタメ性を優先させた結果、あえて言及していないケースがままあります。そこで本記事では、動画の補足をします。以降、動画に出演いただいた金沢学院大学の嶋村貢志先生からいただいたコメントをもとに構成します。(文責:水野太貴)

今回の記事は、生成文法シリーズ第3回の補足です。

Xバー理論とは何か?

ここでは X′(エックスバー)理論に関し補足説明をします。

この理論では、主要部 X がまず補部 (complement) を取り X′ を形成します。これを「X が X′ を投射する (project)」と言います。X′ は中間投射などと呼ばれます。さらに X′ が指定部 (specifier) をとり X′′ を形成します。
X′′ は最大投射と呼ばれ、これ以上投射しません。つまり X′′′ にはなりません(X′′′ を仮定する人もいましたが)。

重要なのは、補部と指定部に来れるのは最大投射のみだということ。また、補部と指定部は主要部にとって必要なものです。
例えば、動詞の「食べる」なら「食べる人(や動物)」と「食べられるもの」が意味的に必要です。主要部が持つ語彙的・意味的な情報に従って補部と指定部が選択されます。
「太郎がリンゴを食べる」なら名詞句 (N′′)「リンゴを」が補部として動詞 (V)「食べる」と合体されます。そうすると V′ を投射されます。
さらにV′ と名詞句 (N′′)「太郎が」が合体します。そうすると V′′ が投射されます。
これで動詞句が完成します。これ以上投射しません。

以上が、Xバー理論に関する基本的な説明になります。

さて、これまでの記事、そしてこれから登場する樹形図でも、三角形が用いられています。これは本来なら X から X ′ になってさらに X ′′ と書かないといけないところを、端折って書いたということです。

樹形図内の△は省略表記です。「チョムスキーが」の中身は下のようになります。
N’’もN’も、ふたまたにならずにそのまま降りていきます

「チョムスキーが」の樹形図からわかることですが、補部と指定部がいつでもあるわけではありません
「チョムスキーが」というは、何も選択しないので主要部であり中間投射であり最大投射です(この冗長性がのちに問題視されたりしました)。
なのでいつでも「ふたまたニョキニョキ」というわけではありません

最後に、ここでの説明と以下の樹形図は、生成文法を知らない初学者さんでもわかるようにかな~り単純に書いていますので、本当はもっと複雑ですし、そもそもなぜ以下のようになるかに関する説明がありません。
また、さまざまな機能範疇、例えば時制の構造は無視しています。なので専門家の方は怒らないでください(笑)。

堀元さんの発言を樹形図にしてみよう!

それでは動画に出てきた文の樹形図を書いていきます。以下はすべて堀元さんの実際の発話です。

19:55の堀元さんの発言。ナイスエックスバー!

MOD とは(推量の)法助動詞 (modal verb) を表します。MOD は V′′ を補部にとっていますが、指定部はありません。
さらに「他にも」と「メッチャ」は動詞「ある(あり)」を修飾する副詞 (adverb: ADV) として扱っています。副詞は動詞にとって必要不可欠な要素
ではありません(5文型でも副詞は無視しましたよね?)。

副詞などの修飾要素を X′ 理論を使って書くとき、主要部の範疇を投射させません。なので X′ とか X′′ なんかに副詞を合体させても X′や X′′ のままです。
この文ではX′ のレベルで副詞を2つつけていますが、X′ が増えただけで最大投射になっていません。このような副詞の構造を付加 (adjunction) と呼びます。
ちなみに動詞句の指定部「同じような例が」は音声的にないが、統語構造的にはあるとしておきます。ご存じの方はproってことです。

20:35の堀元さんの発言。ナイスエックスバー!

ここでは動詞が受動態であることは無視します。また、堀元さんの発言では格助詞が省略されていましたが、統語的にはあると考えます。
「考えてるヤツめっちゃ回収された」と語順があっていませんが、「考えているヤツ」が移動すると考えます。今は忘れてください(涙)。
鋭い人は名詞句 (N′′)「考えているヤツ(が)」自体が複雑であることに気づくと思います。要は複雑名詞句 (complex NP) ということですね。
「考えている」と「ヤツ(が)」に分解でき、前者は後者の修飾語(関係代名詞)ですが無視します。

20:47の堀元さんの発言。ナイスエックスバー!

(29) では、堀元さんの「あらゆる文章いけるんだ」を「(X′ 理論が)あらゆる文章(に)いけるんだ(使えるんだ)」と解釈して構造を書いています。またこの文章はいわゆる「のだ文」ですがその構造は無視します。
他の解釈の可能性としては「(X′ 理論を使えば)あらゆる文章(が)いけ
るんだ」なども考えられるのですが(こうなると構造も変わります)、僕は堀元さんではないのでとりあえず僕の解釈で構造を書きました。

22:50のナイスエックスバー。

最後に、22:50の発言です。ここでは音声的に発音されない「僕は」があると仮定します。

ということで、堀元さんの発言をすべて樹形図にすることができました!

最後に

ということで、ここまでゆる言語学ラジオの生成文法シリーズ第3回の補足をしてまいりました。
次回は最終回で、原理とパラメータのアプローチについて補足していきます。

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