積立投資の長期取り崩し

積立期間とリスクの関係。積立期間が長いほどリスクを下げられる。
さらには。
積立が終了し、それを使うために取り崩す間にもファンドは成長する。
そして、その期間が長ければ、より低リスクでリターンを得られる。

積立期間とそのリターンに関しては多くの記事で解説されており、バックテストでの検証ではおおむね15年以上積み立てればほとんどのケースでプラスのリターンが得られている。
ここで言及している「プラスのリターン」(あるいはマイナスのリターン)は、積立期間終了時の評価額をベースに語られることが多い。
つまり、
 ・積立期間/積み立て方
を変数とし、
 ・積立終了時の評価額(投資元本からの変動)
を基に投資を評価している。
しかし、積立終了時に資産を一括で現金化することは現実的にはあまり無い。そこで今回は、実際の投資の出口を想定し、
 ・取り崩し期間/取り崩し方
の一例をバックテストで検証してみる。

積立期間とリターンの一般的評価

有名な投資家のたぱぞうさんも
「10年だとやや不確実、15年、あるいは20年だとほとんど確実に元本を割れることはないといってよいでしょう。」
とおっしゃっている。

例えばこちらのシミュレーションでは、
5年積立では49回中13回(約26.5%)はリターンがマイナス
10年積立では44回中4回(約9%)がマイナスリターン
という結果になっている。

便宜上ということもあるだろうが、リターンのプラス・マイナス評価は当然のように積立終了時の評価額をベースとしており、あくまで過去実績ベースの一般論ではあるが、
 「5年10年の積立期間だと少し足りないかも。
  15年、できれば20年以上積み立てたいね。」
という定評がある。

では、積立終了時の評価額から投資を評価するのではなく、積立成果を徐々に取り崩すとするならばどうだろう?

積立成果の長期取り崩しシミュレーション

積立終了後に一括、ではなく、よりリタイア後の生活の実情に寄せた形として、積立投資の成果を徐々に現金化していくことを考える。
取り崩しを進める中でも投資対象の価額が変化し、長期の取り崩しであればそれに応じてより高い投資成果が期待できるのではなかろうか?

S&P500に積立投資し、積立終了の翌年から15年をかけて毎年現金化していくことを考える。今回はドルベースのシミュレーションとした。
 ・積立終了の翌年末に保有額の1/15を現金化する。
 ・次の年からは保有額の1/14, 1/13, 1/12, … と現金化比率を上げていき、
  15回目(積立終了の15年後)に全額(1/1)を現金化する。
以上の方法で現金化した総額を計算し、積立終了時の評価額あるいは積立投資額と比較する。

5年積立後、翌年から取り崩した(現金化した)場合のリターン率

5年間、各年末に積み立てた場合の積立終了年を基準年として、翌年から15年間の取り崩しにより得られた総額をリターン率としてプロットした。(実線:5年積立総額 vs. 取り崩し総額)
点線は、積立終了年における評価額に対するリターン率だ。(点線:終了時評価額 vs. 取り崩し総額)
データの最終点(最新データ)は、2008年まで5年間積み立て、翌2009年から2023年までの15年間に渡って取り崩しを進めた総額のリターン(積み立て総額に対して213%、積立終了年の評価額に対して286%)となる。

積立期間としては5年という比較的短期を前提としている、にもかかわらず取り崩し期間1975年~1988年から2009年~2023年まですべてのケースでプラスのリターンを得られている。
たった5年の積立でも長期に取り崩せばプラスリターンを期待して良い、というのは素晴らしい結果ではないだろうか?

グラフをよく見ると、積立終了時点でピークを迎えている場合はその後のドローダウンでリターンが縮小し、逆に積立終了時点でドローダウンしていると、その後の反騰により大きなリターン拡大が得られている。マーケットがいくつもの波を越えながら成長を続けてきた証左と言える。
つまり、
 「積立直後に暴落が発生しても、積立中にピークを迎えても、
  いずれの場合も長期取り崩しによりプラスのリターンとなった」
ということになる。

取り崩しの進め方としては、今回のような単純な方法の他、
 ・必要な金額は市況にかかわらず毎年現金化する
 ・ドローダウンが生じている場合は現金化率を抑える
 ・価額が回復したら今まで抑えてた分も現金化する
などといった工夫の余地がありそうだ。
もちろん、「相場は読めない」ので、淡々と現金化を進めるのがスマートなやり方ではあろうが、こういった工夫そのものを楽しみつつ出口を模索することができるのであればそれもまた一興ではないかと思う。
いずれ、このような取り崩しの工夫についても考えを深めてみたい。

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