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精神科で、隣の女の子に話しかけた日

彼女の手足はガリガリだった。
金髪は傷んできていた。
メガネは何度もずれるし、
リュックは肩から落ちそうだった。
黒いワンピースはもう2サイズ下げていい。

声はか細くて、少しドキッとした。
「………月1くらいです。」

めちゃくちゃ間があった。
当たり前だ。

病院で隣の人に、いきなり通院頻度を聞くのはおすすめしない。

でも、身体が先に動いた。
普段は考え抜いてから行動するタイプなのだけれど。




それから、彼女はポケットにスマホを丁寧にしまって、私の話も聞いてくれた。

2回目の通院であること、同じ先生に診てもらっていることを話す。

そこで彼女は、先生は話をよく聞いてくれて好きだと言う。

薬局までの道を並んで話した。
お互い、越えてはいけないラインはよく見えていたと思う。




私たちは「森の外」にいる。
共通点はそれだけだったのに。


彼女の待ち番号を呼んだのは、声のよく通る、はつらつとした薬剤師さんだった。

薬の説明が始まる前、私は振り返って窓のほうを向いた。
急にバスの出発時間が気になった。



テレビでもあれば、
話をしている親子でもいれば、
私も同時に呼ばれれば、
私はバスの時間を気にしていなかったかもしれない。

彼女は会計を済ませたのだろう。


バスに向かって走って行った。




薬剤師にも、私にも無言で、リュックの左肩を落としながら走って行った。




眠るための薬と、食欲が出る薬をもらった彼女は、初めて見た時よりも小さく見えた。




パタパタパタと駆ける音が軽くて、泣きそうになった。


私たちが繊細なのか。
自分でも自分がよくわからない。
それで病院に来たのだから。

次のバスの時間には余裕がある。

私は、どの薬剤師さんに呼ばれるかだけを気にしていた。


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