おっさんずラブ2016単発を見て考えたパラレルワールド

おっさんずラブ2016単発(以下単発)は、2016年12月31日に「年の瀬 恋愛ドラマ第3夜」として、貴島プロデューサーの発案により主人公のサラリーマン春田創一、上司の黒澤武蔵、後輩の長谷川幸也の三角関係が描かれたドラマです。私がこの単発の存在を知ったのは、2018年おっさんずラブ不動産編(以下S1)のリアタイ時で、情報源だったTwitterからでした。

単発は既に配信されており、2018年10月に購入した円盤にもあったので、見ようと思えばいつでも見られたのですが、S1の世界に浸っていたかったのと、未知のおっさんずラブを見てしまうのが勿体ないという気持ちからずっとそのままにしていました。

が、最近「肌色の記憶」という落合モトキさんが出演しているリモート劇を見たことがきっかけで、ついに配信で視聴しました。

そこには、繰り返し見たS1の春田と武蔵、春田と牧のエピソードが詰め込まれておりびっくりしました。
おっさんずラブseason2のインザスカイ(以下スカイ)が終わって半年経った今、単発見て驚いてること自体がかなりズレてる状態だなと思いつつ、S1やスカイで見慣れた春田や武蔵と違う姿が興味深かったです。

春田はポンコツではない、とこにでもいそうな感じのサラリーマンで、武蔵も失敗した部下を怒鳴りつけたりするよくいるタイプの上司です。
春田は自分の感情をストレートに表すキャラクターで、優しくて思いやりのあるS1春田に慣れているこちらとしてはハラハラしたりもするですが、S1にはないリアリティを感じられました。

武蔵の方も、春田の気持ちにお構いなくグイグイと迫っていくのですが、S1の武蔵のような上司然とした包容力は見られず、好きの感情がむき出しのその姿もまた新鮮でした。

春田や武蔵、そして春田と同期の湊あすかもストレートな物言いをする中で、春田に想いを寄せるハセの穏やかさとしなやかな強さが際立ちます。単発、S1、スカイを通していちばん自然体で自分を表現しているキャラクターだと感じられました。

この4人の想いが錯綜する単発は、春田がハセを受け入れるような結末なのですが、そこに至るまでの流れとエピソードが膨らませられてS1全7話になっています。S1では、最終的に春田と牧が結ばれ、2019年に公開された劇場版おっさんずラブでは、春田と牧の絆の深まりが描かれました。

そして2019年11月から放送されたスカイは、春田と武蔵はそのまま、設定と他の登場人物ががらりと変わる内容で、パラレルワールドと表現されました。
この展開には多くのファンが様々な思いを抱くこととなりましたが、私はとにかくおっさんずラブチームの作品を見たかったので、スムーズに新しい物語に入り込み、今も各々の世界を楽しんでいます。

今回、単発、S1、スカイの3作品を見て強く感じたのは「S1からスカイ」よりも「単発からS1」の方がパラレルだな、ということでした。
S1は、単発のサラリーマンという設定や、春田+武蔵+ライバルという人間関係を踏襲しているのですが、同性同士の恋愛の描き方に大きな相違があります。

以下、単発での描写です。

・春田が武蔵に告白されたことを笑い話としてハセに話す
・春田が倒れた武蔵の上に乗っているところを目撃した後輩が、春田はゲイだと言いふらし、同僚が春田を避ける
・ハセに告白された春田が「気持ち悪い」と言う

2016年当時の、同性愛への一般的な認識はこのようなものであったのかと思います。それから2年後のS1の世界では、風呂場での告白を冗談だとごまかした牧に向かって、春田が「男同士でキスなんてまじねえから」と言い放つシーンがありますが、同性を好きになる事への否定的な台詞は他に見当たらず、それも牧の切なさをより鮮明にする効果があったように思われます。
S1の他の登場人物は、牧との交際宣言をした春田に拍手を送り、武蔵と春田の結婚を祝ったりして同僚の「好き」の感情をそのまま受け入れています。

この点において、スカイはS1の延長線上にあります。物語の序盤から主要人物の成瀬と四宮が同性愛者であることが分かり、春田を好きになった武蔵が「そもそも春田くんは男だ」と自分に確認をする場面がありますが、その部分は掘り下げられることなく話が進んでいきます。
春田が成瀬に告白するくだりでも、成瀬という人間そのものを好きになっていることが痛いほど伝わってきます。

人が人を愛することに男も女も関係ない、というおっさんずラブの根底を成すテーマを考えた時に、S1とスカイに並行して存在するのは単発であった、と思えたのでした。

おっさんずラブシリーズはスカイで完結、と言われていますが、春田と武蔵の二人で描ける世界はまだまだ存在します。
このおっさんずチームが次のパラレルワールドを創造してくれる日を、期待をこめて待ち続けます。

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