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「あのときキスしておけば」と「おっさんずラブ」

「あのときキスしておけば」未だに第7話ラストキスシーンの残像が残る中で、貴島Pが手がけたドラマ、「おっさんずラブ」のことも頭から離れなくなっている。

2018年、テレビ朝日土曜ナイトドラマ枠で放送された「おっさんずラブ」は、主人公のもてないポンコツサラリーマン春田創一が、上司の黒澤武蔵と同僚のエリートサラリーマン牧凌太に告白されることから始まるラブストーリーである。
放送開始当初はそれほど注目されていなかったが、出演の田中圭、吉田鋼太郎、林遣都らの達者な演技と面白い脚本や演出が相まって、最終回を迎える頃にはファンによる盛り上がりが大きな話題となり、放送終了後もその人気が社会現象となった。

この作品をあらためて振り返った時、貴島Pが伝えたかったのはちずが春田にかけた言葉、

 好きになるのに男も女も関係ない

このことだったのではないかと実感する。そして貴島Pのその想いは、多くの人の心を動かした。

今年「あのときキスしておけば」の制作が発表された時、その詳細を読んで思わず固まった。

テレビ朝日
プロデューサー 貴島彩理
音楽 河野伸
演出の一人 YukiSaito
金曜日23時15分

ドラマタイトルのデザイン
シックなツーショットビジュアルのポスター
ポンコツの主人公

「おっさんずラブ」を連想させられる要素が満載。と言うより視聴者に「おっさんずラブ」を連想させようという意図が明らかだった。
それに気づいた時、嬉しさと同時に疑問が湧いた。

何故「おっさんずラブ」を連想させる?

おっさんずラブの気配を感じただけでテンションの上がる私のようなファンを取り込みたいのか?
いや、そんな単純な理由の訳はない。過去のドラマを連想させることは、大いにリスクを追うことでもある。

これは、貴島Pが「おっさんずラブ」で表したかった世界の進化系なのではないか。

「おっさんずラブ」では主人公の春田が同性を好きになっていく自分に戸惑いつつ、牧の想いと自分の気持ちを受け入れる姿が描かれた。
「あのときキスしておけば」は、憧れの異性が見ず知らずの同性の体になってしまうという展開である。異性との恋愛すらハードルの高い桃地にとって、とんでもなく高い壁が立ちはだかる。
しかし、巴にしか作り出せない漫画を通して、桃地は自分が巴の人間性を愛していることを自覚し、7話で初めて、自分の気持ちを言葉にして巴に伝える。

もう一つ、この作品が「おっさんずラブ」の進化系だと感じる理由は、おっさんずラブでは触れられなかった「生死」に向き合っていること。

巴が死んだことから始まる巴の母親の物語、田中マサオが死んだことから始まる帆奈美と優太郎の物語が丁寧に描かれ、それらは桃地の成長に大きく関わる。
そして、桃地は巴の死をどう受け入れるのか。

最終回を迎える今日、次々と投下される公式のオフショに桃地とオジ巴の白タキシード姿のツーショットがあり、それはもう春田と武蔵のあの結婚式を思い出さざるを得なくて、大きく心が揺さぶられている。

貴島Pはあのときのキスの向こう側にどんな世界を作り、何を伝えようとしたのか。

今夜静かに見届けたい。










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