上役に「自分のクラスの子どもの鉛筆の持ち方の指導をしてください」と言われた後輩がちょっと困っていた

しつけは学校教育の中で行われるべきものか

 鉛筆の持ち方や箸の持ち方ってどこで誰に教わったのだろうか?
 ほとんどの人は親、またはおじいちゃんかおばあちゃんではないだろうか。しつけとは躾と書くように、わが身を美しくしてくれるものだ。我が子が美しく見てもらえるように、親が責任をもってしつけをするのだ。箸の持ち方でもそうだろう。すごく魅力的な異性がいて、おしゃべりも完璧、でも、食事を一緒にしたとき箸の持ち方がぐちゃぐちゃで食べ方が汚かったら、百年の恋も冷めてしまわないか。
 ペンや箸の持ち方がきれいな人は、改めて正しく教えてくれた人に感謝であろう。

 ところで、最近授業中に鉛筆の持ち方を教えろと上司に言われて困っていた後輩がいた。たまたま授業を見にきた上司が子どもの鉛筆の持ち方を見て、気になったそうだ。いや、その後輩だって、なにもしていないわけではない。書写(書き方)の時間もある。
 上に「家庭の役割だー」なんてようなことは書いたが、学校でももちろん持ち方は教える。しかし、現実的には、教えたいし教える気はあっても、週に一回の書写だけでは時間的に難しい。書写だって、毎週毎週持ち方を教えてるわけにはいかない。実際のところ、30人子どもがいたら20人は間違っている。じゃあ、黒板の前に立って「こうやって持つんだよーーー」って教師が言って子ども全員の持ち方がきれいに直ったら、明日新型ウィルスに対するワクチンと特効薬ができて全てのイベントが復活するぐらいの奇跡と同じぐらい奇跡だ。
 給食中なんて、そんな暇は1ミリもない。宿題見たり授業の補充で個別の指導をしたりしながら給食当番の指導。今はウィルスのせいで、子どもに触らせてはいけないものがたくさんあり、それは教員が配る。そうこうしていると、たまに牛乳瓶割る。そりゃイラッとして怒りたくもなるけどぐっとこらえる。
 いただきますさせて、残った給食を配り、ゴミ回収の準備をして、まだ見てない宿題見て、早い子が食べ終わったぐらいでようやく食べ始める。で、一瞬で食べ終えて、食べるのが遅い子を励ましながら、片付けを見守る。ゴミの分別ができてないと、やり直しをさせ食べるのが遅い子をまた励ます。
 箸の持ち方?見る暇もないよ。

 後輩もやる気がないわけではない。むしろ、若いだけあってやる気に満ちあふれている。ここで、現実に絶望してしまっては、有望な人材がまたへってしまう。

 私は、子どもに指導するときは、いつでも、知的好奇心をくすぐるようにしている。要は、<興味をもたせる>ことが大切だ。では、鉛筆の正しい持ち方にどう興味を持たせるのか。鉛筆って正しく持った方が良いんだ!って思わせたいんだが……。
 後輩は上司にいろいろと言われたそうだ。

・東大に合格した人の中で8割の人が正しい鉛筆の持ち方をしている。
・手が疲れない。
・文字を正しく書くことができる。
・勉強に対するモチベーションが上がる。(正しくきれいにも字が書けるようになるためやる気アップにつながるという理論らしい)
・素早く書ける。

 ううむむむ……。なんだかどれも苦しいなあと思ってしまうのは私だけだろうか?
 私も改まってこんな指導したことはない。鉛筆にせよ箸にせよ、その都度その都度声をかけるしかない。何しろ根気がいるし、時間もない。時間がないのを言い訳にするのは良いことではないのを承知なのだが。

 だが、何回かこんな話をしたことがある。これは、子どもたちにも評判が良かったようで、なるほど気をつけてみようという反応であったのを覚えている。

 だいたい、鉛筆の持ち方の正しくない子どもは、握りすぎていることが多い。そうすると、鉛筆がノートに対して垂直に立っているか、あるいは、鉛筆のお尻の部分が体とは反対方向へ向いていることが多くなる。そうすると、肝心の鉛筆で字を書いているところが自分の手で隠れて見えなくなってしまう。そうなると、手で隠された鉛筆の先を見ようとするから、右利きの人は首や体を左に傾けてしまい、姿勢が悪くなってしまう。これが良くないことの一つ目。なぜ姿勢が悪くなるのかをひとつひとつ説明してあげたら、納得していた。

良くない鉛筆の持ち方

良くない鉛筆の持ち方をすると書いているところが見えない

 実際に良い持ち方をすると、自分が今書いている字がはっきりと見える。

良い鉛筆の持ち方

 子どもには、書いているところを両目で見ることが大切なんだよと話す。
 あなたも勉強する時に書いて覚えることがあるだろう。それは、漢字や計算、英単語、社会の語句など、様々である。これの良い点の一つ目は、手を動かしながら覚えること。動作をしながら覚えるのは大切なことである。
 もう一つは右目で見ることが大切なんだよって話す。
 漢字や計算は左脳を使う。左脳を働かせるということは、右目からその情報を脳に送った方が良い。
 良くない鉛筆の持ち方の写真を見ると明らかだが、これでは書いているところが右目で見えない。体や首を左に傾けても、左目では見られるが右目でも見ようと思うと、けっこうキツい体勢になる。それでは疲れてしまうし、右目から左脳に情報を送りにくい。これが良くない鉛筆の持ち方をしない方が良い二つ目の理由だ。
 正しい鉛筆の持ち方をするということは、勉強においても実はとても効率的。理にかなっているのだ。

 エビデンスと言えば大げさだが、子どもたちに「右目で見た方が脳が覚えやすいんだよ!」なんていうと、「へえー!」って感じで反応し『やってみよう!』という子どもが増えていく。


 上手に知的好奇心をくすぐってやって、子どもたちと一緒に成長していくつもりでがんばりなよ、なんて後輩と話していたら、「すごく説得力があります」なんて言ってくれた。喜んでもらえたようだ。
 それが大事よ。
 これからも、自分が納得したことを子どもに伝えてあげてくださいね。
 がんばって!

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