見出し画像

お義兄さんは若頭 正月変・・じゃない正月編

お義兄さんは若頭 ~正月編~
                  ゆりの菜櫻

「瑞貴、お前は数の子とウィンナー、どちらが好きだ?」
 義父と母、そして長兄が新年の挨拶回りに出掛けてしまい、瑞貴が雅弘と二人っきりでおせちを食べていると、雅弘がいきなりそんなことを尋ねてきた。
 折りしも、目の前には母お手製の数の子がある。瑞貴は子供の頃から数の子が大好きであった。
「数の子かな。母さん、よく元旦、仕事が休めないときがあったんだけど、おせちだけは、仕事が忙しくても作ってくれていて、僕が好きな数の子なんか、食べきれないくらい用意してくれてたんだ。だから数の子は格別な思い出があるかな」
「ふーん」
 雅弘が面白なさげに長い相槌を打ってくる。意味がわからず、瑞貴はじっと雅弘を見つめていると、彼が片眉を上げた。
「俺の自家製のウィンナーだぞ。食べたくないか?」
「え!? 義兄さんの手作りなんですか?」
縦のものを横にもしそうにない義兄が、わざわざウィンナーを作ること自体、驚きを覚える。
「それ、美味しいんですか?」
「まあ、お前の料理次第だな」
「料理って……今から作るのは嫌ですからね。まだおせちがこんなに余ってるんですから、これを食べてからにしましょう」
「なに、言ってるんだ。お前、いつも旨そうに食ってるじゃないか」
「え? いつも?」
 義兄の手作りのウィンナーなんて食べた覚えがない。覚えが……。
 シーン……。
 嫌な予感が脳裏を過ぎり、恐る恐る目の前の義兄に声を掛けた。
「に……義兄さん?」
「これが美味しいかどうかってのは、お前次第だろう? ん?」
 『これ』と言いながら、義兄は股間を指差していた。ようやくウィンナーの意味がわかり、瑞貴は飛び上がった。
「なっ! ななななな……何言ってるんですかっ! に、義兄さんっ!」
 瑞貴は数の子を箸で摘んだまま、慌てて後ずさる。そんな瑞貴を追い詰めるかのように、正面に座っていた雅弘が立ち上がると、傍へと寄ってきた。
「姫はじめのついでに、ウィンナー、食ってけ。な?」
「嫌ですっ! 義兄さんっ!」
 正月早々、瑞貴はウィンナーを食べるハメになるのだった。
 数の子よ、さらば。
                       おわり       

SSの作品は、2011.11.30発売のこちら


その後、2019.07.20月に、レーベルを変えて再発売されました。
その時の表紙はこちら、わかりやすいようにタイトルの最後に「改!」と入れてあります。

このSSの初出はコミケでの無料配布カードだった気がします。(うろ覚え)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?