No mundo sem forma

 気付いたら、私は形のない世界で迷子になっていた。あたり一面色だけ。私は焦り、悲しみ、なんとかこの状況から抜け出そうと考えた。そこにあったはずの形に思いを馳せた。私は細々としたものが好きだったはずだ——飾り付きの椅子の脚や、ネクタイピン、財布のステッチ、上等なナイフなどが。友達のジョンのことや、恋人のセシリアのことを思い出した。彼女が「素敵だ」といつも褒めてくれた私の高い鷲鼻はどこへいってしまったのだろう。もしも"形盲"が私だけで、世界は昔のままだとしたら、私がかつて持っていたものたちや私の安全は保証されないのではないか。
 しかし、私はそのうち色のない世界に慣れていった。上の方に青色が広がっていれば気分が明るくなり、黄色と黒の一帯は避けて歩くようになった。桃色の中では喜びに満たされたし、赤色と戦った。
 果たして、私は本当に形ある世界で生きていたのだろうか?ありもしない理想に囚われているだけではないだろうか。なんにせよ、私は昔から同じように生きてきた気がする。つまり、私が脅威だと感じるものを危険として避け、私が好みそうなものを愛した。変化を感知するたびに、自分が信じられる物語を作って一喜一憂していた。私は私という傾向の集合体であり、世界のあり方とは一切関係がなかったのだ。私がブラックボックスでしかないのなら、観察者は誰なのだろうか。この世界に箱は存在しないのだから、考える意味などないのかもしれないが。

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