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「死にたい」を「殺されてたまるか」に置き換え生存ダイエット

戦争は終わり、武器は放棄だ、楽器を鳴らそう、一緒に歌おう。

……みたいな世の中になればいいよなって思う。
「そんなの嘘くせえ」とも思う。

アゼルバイジャンとアルメニアの武力衝突で90人以上殺された。
ニュースにされないところで今夜も死ぬほど死にたい人がいる。
生きたいのに生きられない人、生み育てたいのに育てられない人がいる中で、「出生率がやばいので子供を産んでくださいね」という政策が取られ、世界各国せーの、ほいっ。で武器が購入され、要するに「だって誰かがおれたちを殺しに来るかもしれないからおれたちも殺す能力を持っておかないといけないじゃん?」という意味のことががなんかこう敵基地攻撃能力とか防衛費とかそういう漢字が多くてもっともらしい言葉で正義っぽく議論されていく。そのような様子をスマホ越しに眺めては「まじで人類ずっと殺し合いしてんな〜 だる」ってなって、連載エッセイに人類滅亡ボタンの話を書いたりする。

そのような一文筆家であるわたくしのもとに、妄想の中で定期的に人類滅亡させているようなどうしようもない大魔王であるわたくしのもとに、「死にたい」が届く。「生んでください」の国での「死にたい」が届く。

「死にたい」っていうのは実際「殺されかかっている」っている状態だよなあって思う。何にって、人間の弱さに、卑怯さに、欲望に。

実際、戦争で殺されるのも死にたさに殺されるのも同じだ。たとえ他人を文字通り殺してでも土地が・金が・誇りが・名誉が・自分は優れているという感じが欲しい人間というのは存在していて、そういう人が人になんかめちゃくちゃなことを言う、めちゃくちゃなことをやる、めちゃくちゃなことをやらせる。「がんばれ!」って言いながら。「それが愛だ、努力だ、役割だ、正しさだ、会社を国家を愛する人たちを守るということだぞ」みたいな感じで。

おんみずからは戦にお出にならない偉い方々がそうおっしゃる。

で、人が死ぬ。

あれは、殺されてるんだ。

「死にたい」は「殺されてたまるか」に置き換える。

渡されたナイフを、渡してきたやつに向けるけど刺さないってバランスでなんとか生きてきた。怒りで生きてきた。怒りのあまりに刺してしまいそうになったら「は? こんな下らんやつのせいでおれが犯罪者になるのむり。こんな汚いやつの血を浴びたくない」と思うことでなんとか自分の中の攻撃衝動を抑えてきた。

渡されたナイフは、間違っても自分には向けない。

「あれが敵だ」と思えるやつにも向けない。

2015年ごろのパリで、ハッピーヒッピーな曲を歌ってピースフルな感じを出しているストリートミュージシャンの人がいて、YouriMennaさんと言って、いい声だなあと思って、公式サイトをブックマークに入れていた。

ジョンレノンの「Let it be」とか、ボブマーリーの「No woman no cry」とか、「あるがままにね。泣かないで。力を抜いて。大丈夫だよ」みたいなことを言ってくる感じの平和な曲をいっぱい演奏していて、そういう世界的ヒット曲は多くが英語で、まあボブマーリーはジャマイカクレオール語混じりだけど、ジャマイカがイギリスに侵略されて英語の影響を受けたことで生まれた言語がジャマイカクレオール語なのであって、世界的に平和を訴える曲の英語率の高さよ……って思って、パリにはいろんな出自の人たちがいて、YouriMennaさんはフランス語でもLet it beを観客たちと合唱しようとして、でも、シャンゼリゼの観光客にLet it beをフランス語で歌える人は超少なかった。

事実上のド覇権言語・英語により訴えかけられる平和。

一瞬の気まずい沈黙を、多言語話者であるYouriMennaさんの朗々としたフランス語歌唱が繋いだ。

2020年の世の中はストリートミュージシャンがストリート演奏できない状況で、YouriMennaさんはどうなっちゃったかなあと思って公式サイトを見に行ったら、潰れていた。マジかよと思って一生懸命探したらインスタグラムが3週間前更新だった。今度はなんかイタリアで歌っているらしかった。

ジョンレノンは殺され、ボブマーリーも殺されかけた。人間には自分の邪魔になる人間を殺すことで思い通りにしようとするやつというのが一定数いて、マジでやばくて、でも、ジョンレノンもボブマーリーもすでに死んでいる世の中で、より多くの人に記憶されているのはジョンレノンやボブマーリーに銃を向けたやつの名前ではない。ジョンレノンやボブマーリーの音楽のほうだ。

嘘つき。嘘つき。嘘つき。キレイな嘘ばっかり歌いやがって。ハッピーでヒッピーなミュージシャンたちがどんなにラブアンドピースを歌ってもそういうのは大体ワールドワイド覇権言語たる英語だし人類は引き続き殺し合っており、わたしは何も信じられず、でもジョンとボブの曲が50年とか歌い継がれてるってことは事実あるんだよな〜っていう気もして、5年前のパリのLet it be合唱風景を眺める。

わたしは10年間文筆業をやってきて、一体何度「死にたい」を受信したかしれない。それぞれにワンアンドオンリーな「死にたい」を「死にたい」としてひっくるめさせていただくのは大変恐縮なのだが、ここであらためて申し上げるほかない。

「生きてください」とか「死なないで」とか、わたしは言わない。

ただ、「あなたを殺させてたまるか」、って、思うのだ。

自殺は「自分を殺された」の略だと思っている。わたしは人にそれをさせる仕組みをじいっと見ている。そいつにおしりを剥き出してペチンペチンしてやりたい気持ちになる。バーカバーカ。人類バーカ。欲望まみれの弱虫毛虫。超古代から殺し合い。本当にどうしようもねえな。自分が人類であることがほとほと嫌になる。滅亡だ、自分含めて!

……みたいな怒りで、やけくそで、今日もなんとか暮らして行って。

怒りは中国語で「生気」と言う。生気にあえて着火する。怒ってる顔には怒ってる顔なりのビューティがあると思ってて、「わたしが悪いのです」って思わされてると人間は怒ることができないんだけど、「わたしが悪いのです」って思わされてる人ほど実際怒ったときにやばい。生気、燃やしてこ。

美容雑誌の表紙にはなりづらいであろうバチギレ顔。

怒りで命を輝かす。

「死にたい」を「殺されてたまるか」に、置き換え生存ダイエット。

可愛くニコニコいなさいよ〜というしつけに応じず、わたしは、美しく怒る。あなたを、殺されてたまるか。って。

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