私の星空 ネパール旅行記 vol.6
2023年8月7日
無理だろうと分かってはいたものの、日の出の時刻に目覚ましをセットしておいた。アラームがなって、うっすらと目を開けると外は真っ白。雨というよりは、濃密な霧が立ち込めている。
ヒマラヤが少しでも見えたら良いなと思って、ここナガルコットまで来たけれど、ヒマラヤどころかホテルの下の階すら、良く見えない。ナガルコットは標高2000mもある街で、カトマンズが標高1400mだから、ここまで一気に登ってきた訳ではないけれど、それでも気温も空気も全然違う。
今日は一度街に降りて、世界遺産の古都、バクタプールを観光するつもり……だけど、昨日のタクシーでの、ここまでの道がヘビー過ぎて、戻ってくることを考えるとなかなか山を降りる気持ちになれない。調べてみると、どうやら今日は街のほうも大雨みたいだし。今まで夕立程度の雨しか降らなくて、ほとんど晴れや曇りだったのはラッキーだったんだな。
あぁ、暇過ぎると、帰ってからの仕事のこととか、次回はインドとセットで、雨季以外にも来れたらいいな、その時はトレッキングしたいわ〜とか余計なことばかり考えてしまう。
部屋でnoteを書いたり、写真の整理をダラダラとしていたら、雲が大きく動いて、隙間から少しだけ、遠くの山にある集落が見えてきた。雲が近づいたり遠ざかったり、空気が動いているのが良く分かる。もしかしたら、霧が晴れるかもしれないし、このままかもしれない。
テラスの椅子に座って目を閉じ、瞑想をする。空気が良いから、息をするのが気持ちがいい。ずっと調子が悪かった喉も元通りになった。
こんなに一面真っ白で、こちらに向かってくるような景色はなかなか無い…と思ったら涙が出てきた。ヒマラヤが見えなくて残念なんて思っていたけれど、やっぱりすべてが与えられているんだな、と。さっさと街に降りていたら、この時間は持てなかった。やっぱり気が向かないとか、腰が重い、みたいな感覚は大事にしたほうがいいなと思う。
なんだか今日はもう一仕事終わったような、さっぱりとした気持ちになり、ホテルにタクシーを呼んでもらって、バクタプールに向かった。街まではタクシーで1時間ほど。
街をゆっくりと歩く。軒先に売っていた150Rsの指輪を買う。細い金色の指輪に、スモーキーな色の石がくっついている。旅先でチープなアクセサリーを買うのが大好き。おもちゃを選んでいる子供みたいにワクワクするし、身に付けるたびに街の記憶が蘇ってくる。
知らない街を歩くって、なんて楽しいんだろう。
バクタプールは、どうやら陶芸が盛んらしい。天日干しした素焼きの器や、轆轤をひく人を見かける。通りすがりのお店で、お香立てが気になった。帰ったら購入しようと思っていた、友人が作っているお香が頭をよぎった。ピッタリじゃん!これにしよう。
「これ私が作ったのよ〜」と素敵な笑顔で話してくれた。包んでもらっていると、雨が降ってきて「ここでちょっと休んだら?」と、店先の座っていた場所を空けてくれる。もう一つ椅子を持ってきて、横に座ってくれたので少しお話しする。
何歳?結婚してるの?何で1人なの?ネパールは初めて?という、一人旅をしていると何度も聞かれる質問にまずは一通り答えてから、私もいろいろと質問をする。ネパールの女性は、結婚をしたら額にティカをして、腕輪とネックレスをつけると教えてくれた。腕輪も意味があったのか!
途中から男性が話に加わってきた。「この子はいつも冗談ばっかり言ってるのよ〜」と。確かに次から次へと謎のジョークを言ってきて笑い転げた。しばらく3人で話した後、彼にズーズーダウのお店に連れて行ってもらうことに。ズーズーダウとはバクタプール名物の、水牛のミルクで出来たヨーグルトで、是非ともこれは食べたいと思っていた。
お店に行く途中、「ここ俺の親族がやっているお店なんだけど、興味があれば見て行く?」という。これもご縁だし、と思って入ってみると、日本語の上手なおじさんが、チベタンボールの実演をしてくれた。
おじさんがチベタンボールの音を出して「手をかざしてみて」と言う。手を近づけると、ものすごく振動を感じてびっくりした。「身体の良くない部分に当てると良いですよ、人間も水分で出来ていますから」と。
おもしろーい!と思って、小さいのを一つ買うことにした。微妙に彫ってある模様や音が違うから、いろいろ見させてもらってピンときたものを選ぶ。2000Rs。これが高いのか安いのか相場がまったく分からないけど、自分が嫌な気持ちじゃなければいいか、と思った。
包んで貰っていると、どこからか知らないおじさんが、陶器に入ったズーズーダウを持ってきてくれた。「ここで一緒に食べましょう」という。
さっきの彼が、私がズーズーダウを食べたいというのを話してくれていたらしい。まさかチベタンボールのお店で、おじさん4人と一緒にズーズーダウを食べることになるとは。ネパールはこういうことが多いなぁ。
そのまま次はチャイをご馳走になる。お店には本当に色々なものがある。全部ネパール産なんですか?と聞いたら、チベットのものが多いとのこと。
ターコイズやラピスラズリで飾られた、小さな仏像を見つけて、こちらもお迎えすることにする。石が丁寧に磨かれていて、とっても綺麗。
おじさんにたくさんお礼を言って、タクシーでホテルに帰る。
またあの山道を登る。とんでもなく揺れて、やっぱり途中から気持ち悪くなったけれど、山に散らばる灯りが、星空みたいで本当に綺麗だ。人の暮らしが描く星空。残念ながら、今回の旅で星を見ることは一度も無かったけれど、これが私にとってのネパールの星空だな、と思った。
あぁ、ネパール最後の夜だ。外はしっかりと雨が降っていて、森からたくさんの音がする。木琴のような蛙の声。水の滴る音。部屋の室外機の音。遅くまで起きている人たちの話し声。
テラスで目を閉じて瞑想をする。今、感じられる音、少し肌寒い湿気を含んだ空気。霧がかった景色や光。そして私の身体。この瞬間を感じられるのは、宇宙で私、ただ1人。同じ条件なんて今までもこれからも1度もない。そしてただ、それだけ。
ただ、ここに居られることが有り難くて幸せだと思った。
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