なんとなく筆が進んだので少しストーリーをば

序章

湿っぽい雪がサササーと降ってきた。今季の初雪だ。
雪が降ろうが嵐が吹こうが俺のルーティーンは変わらない。
身支度を整えて家を出て、詰所へ向かう。
道の所々に融雪用のミスティックキューブが設置され、それらは青白い光を放っている。
エオリアの街はすっかり冬の装いへと変化していた。
街ゆく人々はみな水分反射魔法(ウォータープルーフ)を使い、雪を弾いている。
当の俺はというと戦闘魔法は疎か水分反射魔法などの通常魔法も勤務時間以外使わせてもらえない三級魔術師なので傘とブーツを装備するしかない。
「今日の巡回はオーリバイス平原だっけか…冬になると魔物が大量に湧くからポーションは多めに用意しておかないと…」
考え事をしており注意力散漫になっているところで通行人にすれ違いざまに勢いよくぶつかってしまった。
バッグにいくつか残っていたポーションとこの街で使えるお金、トークンが地面に散らばった。
「す…すみません!!」
前見て歩けよな!と言いかけたところで顔を上げると、そこには同僚のエリムが心配そうな表情をして立っていた。
「なんだエリムかよ」
言葉を発したところで俺に気づいたのか、ムスッとした表情に瞬時に切り替わった。
「なんだとはなんだ!そもそもお前が僕にぶつかってきたんだろうが!」
そんな事を言いわれつつ手を貸してくれた。立ち上がって衣服についた雪を払い落としたところでところ我に返り、もともとは俺が前を見ないで歩いていたのが悪かったと謝罪した。
彼は直ぐに機嫌を治す。全く感情の読めないやつだ。
「ポーション買い足しに薬局に行くんだがお前も来るか?」
得意げな顔をして彼は切り返す
「ぶつかったお詫びにおごってくれたらついていく」
全く都合のいいやつだ。だったらついてこなくてもいいと言うとまた機嫌を損ねてしまいそうな気がしてあえなく了承した。

エオリアの薬屋ではカフェのように席につき、お茶を飲みながらじっくりとポーションを選ぶ文化がある。
席に座るやいなや彼は背負っていたリュックからアーツを取り出す。
見たことない代物だった。
「お前そのアーツどこで手に入れたんだよ?!」
するとエリムの表情がいきなり曇りはじめた。また俺余計なこと言っちまったか?そう思った矢先、
「シュテラ、まさか忘れちゃったの??」
思いもよらない言葉を受け、固まってしまった。彼は泣きそうになっている。
その場を取り繕うように思考するより先に言葉を発していた。
「あ〜それこの前のエフィラス高原の強化演習のときに見つけたんだっけか、いや〜俺忘れっぽくてさ〜あはは〜」
「ねえシュテラ本当に覚えてないの??」
重ねるようにして言葉を返された。彼の目が一瞬凍りつたように見えた。
思い返してみるとここ一週間の記憶が欠落していることに気づく。しかし俺は彼を心配させまいとこの場を収めようとする。
「昨日からの気温差が凄くって一時的に記憶が飛んじゃったのかな〜なんて」
彼は怒ったような悲しいようなよくわからない表情でとっさに緊急用のテレグラムアーツで誰かを呼び出したようだ。
俺には彼が何をしているのかがわからなかった。
「ごめんシュテラ、僕もう君に会えなくなるかもしれない。」
俺はわけも分からずしばらく放心状態になった。
我に返ったとき、すでに彼は目の前にはおらず、上官と医務官の手によって拘束されていた。
「上官!何が起こったか説明してください!!」
とっさに上官に事の次第を尋ねるが答えてくれない。
両手を二人に持たれながら薬屋から出される。
去り際にエリムが見えたような気がしたが、気のせいだろう。
俺は薬屋の正面に停められていた車に乗せられる。
これからどうなってしまうんだ。
不安を更に増幅させられるように俺は目隠しをされ、おまけになにかのポーションを飲まされ、眠った。

「シュテラ…済まない…」
彼の目には涙が浮かんでいた。

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