私の価値

『それで、icoがすごい可愛かったんだ!』
私は友達に送りつけ、話題になる事を考えながら送信した。すると
『そうなんだー』
こんな短文で済ませやがって。そんな思いでまた送る。
『好きだったよね!今度一緒にいこうよ』
『気が向いたらね』
ため息をつき、ベッドに寝返りを打つ。量産系自称カースト上位の層はいつもこうだ。かといってサブカルに生きている者たちとも気があうわけでもない。教室でも私は声をかけても交わす言葉は挨拶と巷で流行っているicoについて話す時だ。流行りに乗っかってるのは全然いいし、話題に乗りたいのはわかる。ただし自称カースト勢に上から目線で物事を言われたりマウントを取られたりするのが鼻に付くしなぜそうするのか意味がよくわからなかった。そういうと1人でもいいじゃんという意見がある。ごもっともだ。しかしうさぎメンタルには多少きついものがあるのだった。

「つっまんないー!!!!」

私は誰もいるわけでもないのに、いや、いないからこそ大声で叫んでやった。少しスッキリした。ラインに通知は来てたがつまんないので無視、インスタを開く。そこには日々充実している方々の充実した日記が散漫してた。たぶん、その方々も大変な事があった上で楽しいと思った事があるから乗っけているのであって常に楽しいのではないというのは百も承知である。しかし私にはその楽しいと思った事が明らかにすくないのである。そこでの友達の投稿をみた。

『今日は歩夢とイルミデート!とっても楽しかった。これからもずっと…』
『さっちゃんday!これは月一でやるしかない!あいしてる!』
『このクラスもあと少し、後悔しないように楽しむ!!』

私はインスタを閉じた。
そこでラインを開き、連絡相手を探した。しかしそこには連絡もとりやしない登録だけした(友達)がたくさんあるだけだった。トークの最終履歴を辿っていくが、大した連絡もしてない。中学の時には不満をぶちまけた友達もいたが今は疎遠だ。なぜだろう、歳をとると心を言葉にする事が恥だと感じる。何かのドラマが言ってた。繋がる努力をしないと心は溶けていくぞ。*そんなモヤモヤが私を襲った。

ベッドから起き上がり、冷蔵庫を開ける。そこには昨日の残りとゼリーとヨーグルトがあったので、ぶどうのゼリーをとる。最近甘いもの取りすぎかなと考えながら頬張る。頬張るといえば、美容院で髪を切ってる時、頬が痩けていて自分でも嫌になった。嫌なこと思い出したなと思いながらコタツにはいる。お気に入りのイヤホンをつけて目を閉じる。icoが私を癒してくれる。大丈夫だって、仕方ないって、1人じゃないよって。お前に何がわかるって思うことも、歌に乗せると癒される。歌は偉大だ。盗んだバイクで走り出す。尾崎豊が流れ始めた。私は不意に自転車を漕ぎたくなった。

夜は寒い。私はコートにマフラー手袋カイロを持つ最強の装備で家を後にした。自転車を漕ぐと顔面がめっちゃ寒い。しかし、その寒さがちょっとだけ気持ちよかった。学校を通りかかった、自転車を止めた。朝礼台に寝っ転がる。そこには満天の星空が広がっていた。街の灯かりこそあったが、私の心には関係なかった。小さい頃から星を見るのが好きだった。キラキラしていて、ここじゃないどこかに連れて行ってもらえそうだから。冬のツンと冷たい空気とは相性がよく、空に転がる宝石たちを眺めるのが生きる一つの糧だった。ゴダイゴのスリーナインに何度涙したことか…。私は手袋を外し、全身で感じる。もうここには用はない。私はまた自転車を転がした。

きつい坂を登り高台に出た。こっから街を一望できる。街には残業を頑張る方々により美しく瞬いていた。暗いところから見ると余計に光って見えるもんなんだなあ。ここは中学生の時よく部活帰りに遊んだ場所だった。恋愛から音楽のこと、ついでに将来の不安。あの頃はこんな時間がずっと続くんだと感じてた。しかし、それにはタイムリミットがあるのだと知るのは後のこととなる。元気にしてるだろうか、今は他の友達と笑っているだろうか、ちゃんと恋愛してるだろうか、また不安に襲われていないだろうか、みんな前に進めているのなら私は嬉しい。
また私は自転車を転がした。

あてのない旅は続く。寒いから眠気はなく、長らく体を動かしていなかったので明日の筋肉痛の方が心配であった。一晩漕ぎ続けてやろうと思いゆっくり漕いだ。街はもう静まりかえっていて、公園でキスをするカップルをみた。寒くないんだろうか。あ、あったかいのか。とうとう知らないところまできた。そして潮の匂いがする。次第に波の音が聞こえ、風が少し吹き始めた。そこの埠頭で私は自転車を止めた。

灯台のある端っこまで行って座る。波の音は不規則ながら安心させるから不思議だ。やっぱめっちゃ寒かった。ここの星とのコラボレーションもなかなかだ。

なぜこんな事になってしまったのかなあ。私は小さい頃なら誰とも分け隔てなく接してきた。まじめにやることをやって規律を守ってきたはずだった。しかし大人から良いと言われ続けてきたものは子供のグループでは忌み嫌われた。皆んなが集まるのはやりたいようにやって楽しく笑ってる人達なのだ。それもそのはずである。私も楽しい方がいい。でもその子達は危ない橋を渡る子達なのである。誰かを省る子達なのである。常に上から目線で言いたい人達なのである。物陰で悪口をし、嘲笑い、それをダシに言いたい事をやるだけの子達なのである。自分の利益を最優先にする子達なのである。また、周りに優しくすればするだけ負担が増え、甘えられ、欲しくない関係だけが出来上がり、地獄に落ちる。平和などこの世にないのだ。私もそちら側に染まろうとした。しかし大人の洗脳は抜き取れなかった。
大人たちのいう"優しい人"というのは都合のいい人間であり、子供達に人気なのは"自由な人"という自己中人間なのである。大人も昔は子供だった。つまり"優しい人""正直者"という幻想は奴隷なのである。奴隷にされ、抜け出した先が孤独なのである。私はどうすればいいのだろう。
不意に風が吹いた。私は消えた。
#小説

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