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好きなところ、嫌いなところ(羽島姉弟)

「あー、負けたー」

「勝ったー♪」

ゲーム機をテーブルに置いて突っ伏した翔一に樹里はニシシッと歯を見せて得意気に笑った。

「樹里…お前、強過ぎにも程があるんじゃないか?」

恨みがましいと言うように視線を向けてきた翔一に、
「翔一が弱いだけでしょうが」
と、樹里はケラケラと笑った。

「何やねん…」

翔一はやれやれと言うように息を吐いた。

そんな弟の様子を見た樹里もテーブルのうえにゲーム機を置くと、うーんと声をあげて凝り固まった躰を伸ばした。

「彩葉と永岡さん、まだ帰ってこなさそうだね」

壁にかけてある時計を見ながら言った樹里に、
「そんなに遠くまで行くことはないと思うけど」
と、翔一は言い返した。

この日、宅飲みをしようと言うことで樹里と彩葉が翔一と永岡が一緒に住んでいる自宅へと遊びにきていた。

じゃんけんで負けた永岡と彩葉が買い出しに出かけている間、樹里と翔一の姉弟は互いに持ってきたゲーム機で対戦ゲームをしていたところだった。

「あのさ」

「んーっ?」

「翔一って永岡さんのどこが好きなの?」

そう聞いてきた樹里に翔一は姉の方に視線を向けた。

「…はっ?」

思わず聞き返した翔一に、
「いや、あんまりこう言う話をしたことがなかったなと思って」
と、樹里は答えた。

「いや、姉弟でするもんじゃないだろ」

「そう?」

「そうだわ、何を言ってるんだ」

乗り気じゃない様子の弟に、
「何だ、つまらん…」
と、樹里はすねたようだった。

「聞きたいものなのか?」

そう聞いてきた翔一に、
「うん」
と、樹里は首を縦に振ってうなずいた。

「永岡さんは全身から“好き好きオーラ”みたいなのが出てて、翔一のことがめちゃくちゃ好きなんだなって言うのがわかるんだけど…翔一はそう言うのがないと言うか、よくわからないと言うか…」

「何だよ、その“好き好きオーラ”とかってヤツは…」

事実と言えば事実かも知れんが…と、翔一は呆れ気味に呟いた。

「と言うか、聞きたいのか?」

「密かに憧れていた先輩だったって言うのは知ってるけど、つきあってからのことは知らないから」

「ああ、そう…」

翔一は天井をあおぐと、
「美人…なのはもちろんのことだけど、基本的にはスパダリなところかな」
と、言った。

「スパダリ…」

「スーパーダーリンの略」

「それは知ってる、確かに永岡さんはよくできてるよね」

「何で選ばれたのが俺なのか不思議なくらいだわ」

翔一は樹里に言い返すと、永岡のことを思い出しながら指を折った。

「美人、仕事と家事ができる、性格は…いい方だと思うことにしよう。

テクニックもすごい…逆にできないことが思いつかないんだが」

「…マジ?」

「マジなんだわ、これが」

ありゃ…と、樹里は呟いた。

「じゃあ、逆に嫌いなところってある?」

そう聞いてきた樹里に、
「嫌いなところって…まあ、うん…あれだ…」
と、翔一はコクコクと首を縦に振りながら呟いた。

「何がやねん」

樹里が言い返したら、
「樹里は?」
と、翔一は言った。

「んっ?」

「彩葉さん」

「…あたしも言えってか?」

「俺に言わせるだけ言わせといて何を言ってるんだ」

「ごもっともだわ…」

樹里はやれやれと言うように息を吐くと、
「基本的に彩葉はあんな感じだからなあ…」
と、言った。

「容姿は言うまでもないけど、職業柄センスもいいし、日本語以外にも言葉をしゃべることができるし…彩葉のお兄さんが外交官で世界を飛び回ってるからって言うのもあるかも知れないけど」

「ほお」

「だけど…まあ、あれなんだよね」

そう言った樹里に、
「どれやねん」
と、翔一はツッコミを入れた。

「甘えてくれないと言うか、人に頼ろうとしないと言うか…」

「彩葉さん、昔から優等生だったもんね。

よく勉強を教えてもらってたな」

翔一は懐かしむように言った。

「まあ、そんなところかな」

そう言って自分の話を終わらせると、樹里と翔一はお互いの顔を見あわせた。

「翔一と永岡さんは新婚さんって感じね、尽くすのは永岡さんの方だけど」

そう言った樹里に、
「樹里と彩葉さんは熟年夫婦って言う感じだな」
と、翔一は言い返した。

「元々は友達関係だったからね」

「ちゃんとお互いのことをわかってるもんな」

「まあね」

樹里はフフッと笑った。

「あ、そうだ」

翔一は思い出したようにタブレットを取り出すと、
「樹里がこの間見たいって言ってたアニメが配信されてたんだけど」

手なれたようにタブレットを操作しながら言った。

「えっ、マジで?」

樹里は翔一の手元にあるタブレットを覗き込んだ。

「期間限定だけど…ああ、これだこれだ」

「ホントだ、配信されてる。

これ、原作を読んでおもしろかったから気になってたんだよね」

「俺も1話だけ見てみたんだけど、結構おもしろかったよ。

続きが気になる終わり方でさ」

「えーっ、見たい!」

「よし見よう!」

タブレットを操作してアニメを再生すると、2人は一緒に見始めた。