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大盤解説会に行った話

棋王戦の大盤解説会に行ってきました。
大盤解説会は昨年の叡王戦以来です。

久しぶりに旅行もしたくて、新潟に行きたいなーと思って前夜祭の抽選と大盤解説会のチケット発売にチャレンジしてみました。とりあえず土曜と日曜、バラで宿を取る。私は解説者のファンのため、棋王戦の日程発表と同時に宿は抑えておかなかったので既に会場のホテルは満室でした。

前夜祭の当落がわかる前に大盤解説会のチケット発売だったので、色々祈りながらトライしたら、まあ…取れちゃったんですよね…大盤解説会だけ。(発売翌日に前夜祭のハズレメールは来た)

チケットの発券は迷ったんだけど、瞬殺だったみたいなのでせっかくですし、月曜の都合がつきそうだったので日曜泊のみで行くことにしました。なんとか前日までに仕事も処理できました。

新潟は近いですね。大宮から1時間半。寝ようと思ったら着いてしまった。今回の大盤解説会は自由席だったので、一体何時から並んでいるんだろう…と思いながら11時前には到着したんですが、ちょっと検索したらもう並んでいるっぽくて、仕方ないから11時半頃には行きました。

ホテルって全て貸し切りしてるわけなくて他の利用者の方々もたくさんいらっしゃるので、人の出入りも多い中、せっかくタイトル戦の開催に名乗りをあげてくださっていて、ご迷惑にならないようにしたいなぁ…と思いながら並んでいました。

色々ととても大変そうでしたね。ポスターが貼ってあって、今日ホテルのどこで何が開催されているかは玄関に一覧になっているのが当たり前なので、チケットがなくても見られるのかと思って質問されている方もお見かけしました。もちろん、スタッフの方々が説明されていて、一般のお客様も配慮してくださっていたと思います。

大盤解説会とは

大盤で解説する会ですよ。えっ違うの。私は配信でも棋士の先生方の解説を聞くのは好きで、それがリアルタイムで目の前でいちばん好きな先生が解説してくれるから行きました。

大盤解説会は長いです。基本、午後から終局まで。今回は7時間半くらいでした。途中、わずかな休憩を何度か挟みながら高見泰地七段、山口恵梨子女流二段、ゲストで立会人の深浦康市九段、3人の先生でまわしてくださいました。

大変だったと思います。ハードなお仕事だな…と思いました。私はそれを観に行っているわけなので、ありがたいしかないです。贔屓目抜きにして髙見先生の解説は最高なので来てよかったしかない、とすぐに思いましたし、行ってよかったなと今も思います。

こういうことを書くと嫌がられるのかもしれないですが、最高なものは最高なんですよ。

普及で人前でのイベントに時間を割きながらも、トップ棋士の実力を維持している髙見先生の手の見え方。かつ、難しいことを分かりやすく噛み砕いて話せる能力。両対局者と対局したことがある先生ならではの対局者の棋風や心理を掴んでの手の予想。これを見聞きするために来たよ私は…。

そして、幼馴染ならではの息の合った山口女流の親しみやすいアシスト、居飛車に転向し、控えめにしていながらも実際手は見えていて、なにより、こちらが退屈しないように気を配ってくださる御二方でした。

深浦先生は立会人という重要なお仕事がありながら、3人での解説、山口女流との解説、髙見先生との解説と、続けて長い時間こちらで読み筋を披露して、軽妙な掛け合いを見せてファンサービスしてくださいました。また、ずっと局面が難しく激しかったため解説が必要な場面が多く、出ることで解説者のお二人の休憩も確保してくださったんだろうな…と気遣いに尊敬しかなかったです。

評価値って気になりますか?

私はにわかなので、配信で評価値が表示されるようになってから真面目に将棋を見るようになりました。今はそうなっているんだ…と(若い頃に放送されていた頃はなかったことくらいは知っている)思っているんですが。

とっつきやすさは格段に上がったのかなと感じています。将棋の上手い人の将棋(文字が重複しているけど)はどんなに勉強しようと凡人の理解には至らないので、数値化されるとたとえ理解していなくても色々な感情が想起されるから、応援しようと思う人も増えるかと思います。

大盤解説会の壇上で、評価値を調べることはほとんどないです。今回も序盤に一度確認したきり。大事な中盤〜終局まで、そういった類の話にはなりません。もちろん、こちら側は座っているだけですから、過ごし方自体は常識の範囲内で自由。音を消していればAbemaさんを見ていても構わないですよ〜と山口女流がおっしゃってくれていたので同時視聴している方もいるのかと思います。今回、私は連盟アプリは控室のコメントを読むのに使いました。

これは私個人の感想ですが、評価値、なくても将棋って充分面白いです。私は携帯中継が入っているときも、評価値はオフにして見ています。だって、結局のところ結果は最後に出るんですよね。途中経過のパーセンテージがどうなろうと、必ずどちらかが勝って負けるのが将棋のいいところでもあり、苦しいところでもある。

で、応援するのならAIが判断したことが良かろうと悪かろうと別に変わらず応援するじゃないですか。苦しみながら悩み抜いて出した選択がなんであれ、それが棋士の先生方の生きる姿そのもの…。

とはいえ、もちろん何かあった方が更に良い、と思うのであれば、それが私にとっては解説であり、将棋のお勉強です。

プロの将棋は難解を極めます。だからプロなのだから。もちろん、私が少々将棋教室に通ったところで、指し手が分かるわけではありません。ただ習って良かったと思うことのひとつに、AIは全てじゃない、と感じたことです。AIは強いです。でも人間じゃないから、人間が何を差せばやりやすい、やりにくい、苦しい、これがやりたい、やりたくない…そういう機微には疎いと思います。

あともうひとつ。私は駒落ちで将棋を習っていて、棋譜を入力して家に帰って解析にかけることもあるのですが、当たり前にAI最善手と呼ばれる手を指さないことがいっぱいあります。で、それが参考になるときも、ならないときもあります。

それは私が下手だから、ということもあるけれど、それでも「いやそれはその場で知っていても指さないだろう」と思うことがあります。私だって方針を考えて考えて、ない頭振り絞ってやりたいことを盤上でやる練習をしているわけなので。

だからですね。何が言いたいかというと、機械が演算する評価値の上下は家でチラ見している分には好きにしたらいいとは思うけど、だからといってプロ棋士の思考の善悪を測れるわけがなく、こちらが無闇に騒ぐのは失礼なんじゃないか、ということです。

もちろんデータとしては重要ですよ。私も棋譜中継は後で見直すときにはオンにして、AIの読み筋を確認したりはします。研究材料としてのデータとして大切だということと、盤面よりパーセンテージでファンの側があれこれ騒ぐのは違うんじゃないか、と私は思うということです。

対局は素晴らしいものでした。互いの意地と意地のぶつかり合い。棋王である渡辺先生の気迫、挑戦者である藤井竜王の執念が長く続き、それが玉同士の接近戦に現れ、両対局者への気配りに溢れた解説会でした。全て合わせて名局のひとつだと思います。

素晴らしいものを見せていただけて、こちらの振る舞いも気をつけないといけないな、と思いました。私自身の感想です。

開催地に立候補してくださったのだからファンの良識ある行動や判断は求められると思うし、長時間座るのがしんどいのであれば適宜休まないとだし(私は外に出て川を眺めていました)、導線にはこちらが気を遣わないと開催地側のご負担になるし、たくさんの参加者の方々にはどちらの対局者のファンも(私のような解説者のファンも…)多くの将棋ファンがいることは忘れてはいけないのだなぁ、と。

色々話題になりましたが、加熱する報道で行動の是非を誤認される方は多いでしょう。だからこそ、普段から何をしてもいいわけではなくて。

最後のたった一瞬の実物のために各地から応援に来ることってとても大変なことだと思うのですが、それまでの時間は寝ていたり、推し以外の尊厳を損なうような大声の会話、肩を落としたときに笑うなどは…

私は仕事であのくらいの高さの壇上で話すことって多いのですが。

結構ちゃんと聴衆者って見えるんですよ…。

名局には名局に相応しい気持ちで私は見たいなと思いました。自由とか、多様性とかって言われる時代ですけれど、現場でもSNSでも何をするかは今後のどこかに繋がっていると思っています。私は棋士の皆さんをとても尊敬しているので、それだけは忘れたくないです。

まあ、どれもにわかの私の子生意気な話です。でも「観る将」だとしても手の説明なんて分からないから必要ない…とは思わない人もいるんだよ、って少しだけ書きたくなってしまったのです。

そして、歳を重ねて、思ったことを全て口に出して大きな声で話すと、隣にいる人が辛くなったりするかも。ということは学びになりました。

新潟はとってもいいところでした。途中にあった将棋連盟の新潟支部長さんとアマ名人さんの解説も、とても親しみやすくファンを肯定してくださったのも印象的です。

スタッフさんも、開催会場の方も、お店の方々も、泊まったホテルの方も、タクシーの運転手さんにも、とても親切にしていただきました。

朝はホテルでコシヒカリの食べ比べをして、昼はへぎ蕎麦とタレかつを食べて、旅行支援が手厚かったのでお土産を子供たちにたくさん買って帰りました。近かったしまた行けたらいいな。

2023.03.