恋、もう始まっていたよ

「恋、始まっちゃったね」
「もう始まっていたよ」
「えっ、いつ?」
「最初に会ったときから」


何をもって恋の始まりというのだろう。
恋心を抱いたとき?
好意を示されたとき?
告白されたら?
連絡を心待ちにし始めたら?
口づけをかわしたら?


いえ、体を重ねてもいいと思えたら、とまりかは思う。

朝から3時間近くかけてやってきたタカシと、美術館を周り、お気に入りのインドカレーを食べ、お風呂屋さんに行った。
1時間、ゆっくり体を温めて待ち合わせして、並んで手をつないで岩盤浴をしていたその瞬間。

ああ、この殿方と肌をぴったり重ね合いたい、と思った。
体に電流は走らなかったけれども、体の芯が熱くなるのを感じた。
お風呂屋さんを出るとき、まりかの家でお夕飯に誘った。


「今日はこっちまで来て、思いがけずまりかの手料理を食べて、まりかのことも食べて、幸せだな。
近かったらよかったのにな」
「遠いからもう来てくれない?」
「来るよ! ウチの方にも来いよ!」


直通の最終電車に彼を駅まで送り、まりかはいま、彼の気配がまだ残る寝室にひとりで座っている。
大きくはないけど、厚ぼったい彼の手のひらが何度も何度も行き来した肌はなめらかで、執拗に舌をからませた乳首はパジャマが擦れただけで甘い声が漏れそうだ。
まりかは次にタカシに抱かれる瞬間まで、この疼きと抗い続けるのだろう。


恋が始まった。
数え切れないほどの幸せをはらんだ風に、まりかはそよそよと身をさらしている。

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