7人目のお顔合わせ 特技は道に迷わないことです

「まりかさんの特技は何ですか?」
「道に迷うこと。なのに、ひとり旅が好きなんです。
ヒロシさんは?」
「私の特技は、道に迷わないことです。
一度通ったところは、逆方向でも現在地と目的地と周囲の目印は記憶できます」
「えーっ、どうして?」

1週間ほど前からやりとりをはじめたヒロシさん、とにかく頭の回転が早い。
というよりも、ポンポン、そうきたか、と、私にとって心地よいところにボールが返ってくる。
だから、私から、お会いしましょうと誘ってみて、それが今日だったというわけ。

実は彼からいいねがついて、しばらく放置していた。
お顔の見える写真がなかったから。
写真リクエストをかけても、マスクで隠れて表情がまったく見えない写真だった。
でも、毎日足あとがついた。気になった。不思議なものだ。
さらに、自己紹介文に「写真はマッチング後に個別に送ります」と加えられていたので、ま、いいかと、マッチングさせてみた。
メッセージとともに、もっさりした垢抜けない、でも親しみある表情の写真が送られてきた。
大丈夫、すっごくカッコいいタイプではないけど、いい感じだぞ。

今日はウチから15kmほどのところにある、コメダ珈琲店で15時の約束だった。
なぜ土地勘のない彼がここを指定したのかわからない。
おそらく、私の家から近からず遠からず、さらに高速のインターの側だから都内からクルマで来る彼自身にとっても都合がよかったのだろう。
約束の30分前には到着しましたのメッセージが来て、10分前には席の場所と服装の連絡があった。
なかなか手際がよいではないか。

15時5分前に指定された席にゆくと、仕立てがイマイチな、でもおろしたてとひと目でわかるチェックのシャツを着た、もっさりした垢抜けない男性が座っていた。
たしかに、写真のヒロシさんだ。
彼に促されて、私はいつもの豆乳オーレを注文した。

本当はここで、あの小気味よい会話を再現したいのだけど、残念ながら話が弾みすぎて、覚えていないのだ。
何を話したのかはおぼろげに思い出せるが、どう話したのかを思い出せない。
カギカッコが取れて、ことばたちが心に吸収されてしまったかのように。
さくらまりか、一生の不覚である。

旅のことをたくさん話した気がする。
これまで行ったところ、これからゆきたいところ。
とどのつまりは、海と温泉ということに落ち着いた。
とにかく、仕事スイッチを切ると、慣れない相手にはしゃべりすぎるか固まるかの私からするすると、ことばを引き出してくれる。
彼がコミュニケーションに長けているのだろうか。それとも相性?

私が冷め切った豆乳オーレを飲み終わったころを見計らって、

「LINE、交換しておきますか?」

と、彼は切り出した。
そうそう、人にもよるのだろうけれども、私はこのタイミングがいちばん安心できる。
お相手を自分の目で見て、ことばを交わして、短い時間で信用できた上での連絡先交換がいい。
LINEは便利だが、気軽ゆえにことばの行き交いが早くて、言わなくてもいいことまで言ってしまう。
言わなければよかったと後悔したり、まりかのイメージを勝手に膨らませて、あとで幻滅されたり。
やっぱり、お顔合わせまでは、少し不自由なアプリでのやりとりが、私は居心地がよい。
ヒロシさんも、同じ気持ちなのだろうか。

LINEの交換をして、駐車場でまた、と言って別れた。
途中、「気をつけて帰って」とさっそく、LINEが来た。

そして、お顔合わせのあと恒例となった、近くの温泉施設に今日も来ている。
だって、ヒロシさんが温泉と海、と言うから。
海はクルマで小一時間かかるけど、ここなら10分。
露天でお湯に浸かってはデッキで冷まし、を2時間繰り返したあとに、これまた恒例となったアカスリ。
おばちゃんにゴシゴシされながら、でも今日は気持ちがあたたかい。
何だろう。

クルマに戻ってスマホを開くと、ヒロシさんから4通、LINEが入っていた。
返事をしなかったから、4通目はおやすみなさい、だった。
ひと呼吸して、まりかは返信をした。

「近くの温泉に来ていました。
ヒロシさんのせいです(笑)。
温泉と海モードになっちゃいました。
温泉は落ち着いたけど、海モードを持て余しています」

既読はまだつかない。
ヒロシさんは明日の朝、どこにどんな球を返してくれるのだろうか。
あっ、ヒロシさんに躁うつ病のこととバツ2のことを話し忘れたぞ。



*2023年4月22日の活動状況
・もらった足あと:4人
・もらったいいね:1人
・やりとりした人:2人
昨日、マッチングした人がLINE教えてというのを断ったら、ではアプリでいいですよと、何となくやりとりがはじまってしまった。
ヒロシさんとのことだってまだわからないし、どの糸がどこにどうつながっているのか、だれにもわからないのだから。

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