音信不通4日目

「いま、どうしているの?
まりかのことがキライになったのなら、携帯電話を着信拒否してね。
LINEに「キライ」の三文字だけ流してね。
そうしたら、それ以上は煩わせないから。
それまでは、こうやって毎晩、お手紙を書かせてね」

コウイチからの音信がぱたっと途切れて、今日で4日。
先週の水曜のたい焼きの抱擁の翌日のお昼から突然、LINEに既読がつかなくなった。

ああ、毎晩あたりまえだと思っていた彼からの連絡が途絶えると、こんなにもさみしいとは。
いえ、もしコウイチがまりかに興味を失ったのなら、それはそれで受け入れる。
まりかと離れることで、彼が幸せなら、それが私にとっての幸せだから。

LINEはもちろん、LINEの通話、メール、電話、ショートメールとすべて試しているけれども、どれひとつとして反応がない。
まったく手がかりがないのだ。
これがもし、30年前の学生時代だったらきっと、電話番号と一緒に自宅の住所ももらっていただろう。
実家暮らしなら、家族と話すこともできたかもしれない。
すべてが個人に属するこの時代、大切な人の横展開はこんなにも難しい。

そもそも、お見合いサイトで出会った人だ。
一度はお見合い、次に半日ほど一緒に時間をすごした。
毎日、電話で1時間したり、おはようとおやすみは欠かさず交わした。
11月には旅の約束をして、ふたりで電話できゃあきゃあ言いながら、まりかがネットで宿を予約した。

でも、それだけだ。
彼から明確なつき合おうのことばもまだだし、いわゆる深い仲になっているわけでもない。
たかだか2回会っただけなのだから、シャットアウトすることはかんたんだし、連絡がないならその気がないと思う方が自然だ。

でも、である。
コウイチは、軽々しくハグをしたり、お泊まりの約束をする人には思えないのだ。
だれだって、好きになった相手はいい人だと信じたいのよねと笑うなら、笑えばいい。
それでもまりかは、彼の誠実さを信じている。

気持ちが離れたのでなければ、どんなことが考えられるのか。
スマホか本人か、どちらかに何かが起こった、という可能性である。

スマホが壊れたり、なくしたりして、連絡の取りようがないのかもしれない。
でも、今日は彼の定休日。
スマホの不具合なら、今日、お店に行って買い替えるなり、修理の代替機を手に入れるなりして、連絡をしてくるのではないか。
そのために、電話で、メールで、LINEで、しつこくしつこく、あらゆる手段で足跡を残しているのだから。

LINEは、既読がつかない。
ショートメールは、配信済みにはなるが開封済みにはならない。
メールは、手がかりなし。
携帯電話は、コール音が鳴って留守電になる。

もろもろ考え合わせると、携帯の電源は入っているけれども、操作する人間がいないように思えてしまう。
なくしたり落としたりしたのか。
それとも、前にまりかがしでかしたように、液晶の不具合で画面が見えなくなり、電源は入っているけれども操作ができなくなったのかもしれない。

次に疑うのが、コウイチの身に何かが起こったということだ。
木曜に、突然、倒れたのかもしれない。
事故に遭ったのかもしれない。
ひとり暮らしの自宅で急病に襲われたのなら、無断欠勤を心配して会社の人が見に行って、発見してくれているだろう。
万が一、事件性があることに巻き込まれていたなら、この2週間ほどものすごい量のやり取りを重ねているまりかにも、捜査が入っているに違いない。

もし、入院が必要なら、まりかの住むまちの病院に移ってもらって、お世話をしよう。
近くに住んで、必要なことをまりかができるようにしよう。
たとえ、父の面倒を見ることを放棄してでも。
親不孝とでも何とでも言えばいい。
まりかは自分の人生を選ぶのだ。

スマホをなくしたのか、持ち主が倒れたのか。
コウイチは、隣の県、クルマで3時間近くかかるところに住んでいる。
ああ、こういうときに距離があるのが恨めしい。


次に会ったら、手の届くところに暮らすことを、提案しよう。
おたがいの命に責任を持てる立場になることを、提案しよう。


コウイチは、私の理想の殿方だったのではない。
理想の殿方として描き出していたのが、コウイチだったのだ。
51年かけて、やっと探し出した人。

お願い、無事でいて。

さくらまりか51歳、連絡が途絶えたコウイチに、心をごそっと持って行かれてしまっている。
それでも心のどこかで、コウイチとふたたび抱き合えることを信じている。
信じていよう。
ただ、信じていよう。
彼はきっと、まりかと一緒にあははと笑い合えるのだと。

サポートしてくださった軍資金は、マッチングアプリ仲間の取材費、恋活のための遠征費、および恋活の武装費に使わせていただきます。 50歳、バツ2のまりかの恋、応援どうぞよろしくお願いいたします。