マッチングアプリは自分に価値があることを確認する場所なのかもしれない

「マッチングありがとうございます!
すごくうれしいです!!!
これからたくさんやりとりしましょう!!」

イクスクラメーションマークがゴテゴテついたメッセージを見て、私は判断を誤ったかもしれない、と思った。
今日のお昼休みにマッチングしたのは、「国家公務員」とニックネームにカッコ書きでわざわざ書いているタクさん。
公務員の中でも、特殊な仕事をしているようだ。
よほどこの仕事にプライドを持っているのか、あるいは自分の能力の高さをひけらかそうとしているのか。
いずれにせよ、自己顕示欲は高めと思っていいだろう。

アプリに彼のアイコンが並びはじめたのは、この週末だと思う。
若干、薄さが気になりはじめた白髪混じりの頭に、大きな目と鼻に比べて薄さが目立つ唇。
51歳の男性としては、やや若く見えるかもしれない。
彼のプロフィール文には、やたらカギカッコが使われている。
「国家公務員」「(とある欧州車メーカー名)」「保護猫」「平日休み」などなど。
あたかも、自分に価値があると思わせるものを目立たせるように、カギカッコが使われている。
不思議な「違和感」だ。
もっとも、私が働く福祉の世界でも、職種によっては相談記録において、固有名詞をカッコ書きするので、もしかしたら仕事上のクセなのかもしれないけれども。

「国家公務員」が特段、魅力的だったわけではない。
年収1000万円に飛びついたわけでもない。
見た目が好みだったわけでもない。
でも、この「違和感」がもたらす好奇心に負けた。
さくらまりか、もはや気分は土曜サスペンスの潜入捜査員だ。
この自信満々の男性はいったい、何を考えているのか。
どんなふうに話を運ぼうとするのか。
どうしようもなく、知りたくなった。
案外、いい人なのかもしれないし。

先方からの「いいね」に「ありがとう」と返してマッチングさせ、スマホを置いたとたん、メッセージの着信音が事務所内に響いた。
おそらく、アプリに登録して初めてのマッチングだったのだろう。
買ってもらったばかりのおもちゃを得意げに見せびらかす、男の子のようだ。
「オレ」のオにアクセントがつく、子ども独特の言い回しを想起させた。

マッチングアプリ、よくも悪くも自分の恋愛市場での価値が現れる場所だ。
かくいう私も、「いいね」がつくと自分の女としての価値を認めてもらった気持ちになる。
「とても素敵で、思わず「いいね」しちゃいました」などと、現実世界では言われたことのない賛辞をもらおうものなら、有頂天だ。

たしかにここでは私は女としての価値があって、お相手は少なくともその瞬間は女としての価値を認めている。
そう、着信音が鳴るたびに、私は私で女である、と確認することができるのだ。
私は恋がしたいのか、アプリで自分の価値を認めてほしいのか、わからなくなることすらある。


カギカッコのタクさんももしかしたら、「国家公務員」であり「(とある欧州車メーカー)」のオーナーである自分を、認めてもらいたいのかもしれない。
彼が見せびらかすものが、どれだけ恋愛市場において価値があるのかはわからないけれども。
いや、そこに価値がある、と思う女性とご縁があればいいと願うばかりだ。
もしかしたら、彼も私と同じく、己に自信がなくて、アプリの中に自己肯定感を探し彷徨っているのかもしれない。


「はじめまして。まりかと申します。
どうぞよろしくお願いします」

と、サクッと返事をすると、ほどなくしてまた、アプリの着信音が鳴った。

「私を選んでくれて、ありがとうございます!
どんどんやりとりしましょう!!!」

ああ、まりかはあなたを選んだわけではないのよ。
とりあえず、どんな人なのか興味を持っただけ。
まずはお友だちから、と返そうと思ったけれども、やめておいた。
すでにお友だちになった気になられても困る。
すでにおつき合いしている気になられるのは、もっと困るけど。


*2023年4月10日、11日の活動状況
・もらった足あと:6人
・もらったいいね:4人
・やりとりした人:4人
アプリが連れてくる人が固定化されてきて、少し退屈してきたから、今日みたいな要らぬ冒険をしてしまう。
先週会ったとなりまちのケンタさん、わざわざ「今日の0時をもってアプリ期限切れになります」とメッセージが来た。
律儀な人だ。
お友だちになりましょう、と、LINEアカウントを送ってみようか、と、メンヘラまりかは思いついてしまった。
こういうおだやかで平凡な人を好きになれたら、幸せになれるのかもしれない。

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